草嬢くさのをとめが歌1首

秋の田の 穂田ほだの刈りばか か寄り合はば そこもか人の 我を言ことなさむ

秋の田園の 穂田の刈り分担.お互いに近寄っていったら、そんなことぐらいで…

他の人は、わたしたちのことを噂するでしょうね.


                          「みんなの万葉集」PHP研究所 上野誠著より

わたしは、この歌を読むといつもにやりと笑ってしまう.まず、草嬢という言い方に

さまざまな説がある.1つの説は村娘.わたしもそれにしたがいたい.つまり田舎の

娘さんの歌1首ということである.稲刈り直前にあるのが、「穂田」.つまり、田植え

をして、田の草取りを重ねて、そしていよいよ収穫を目前とした田園が、穂田なので

ある.「刈りばか」というのは、稲刈りをする時のその人個人のノルマ.分担量のこと

である.現在でも、たとえば、「はかどってますか?」というのは、その人の分担にな

っている仕事がどこまで進んでいますか?ということを意味する.「はかがゆく」とか

「はかどる」ということは、決められた仕事の量をこなしているということである.つまり、

「はか」というのは1つの区切られた場所を指す言葉なのである.そこから転じてその

人の担当の箇所というようになった.「ここからここまではあなたの担当ですよ」と言わ

れて稲刈りがはじまるのだろう.この時代の稲刈りは、穂首刈り、つまり、稲穂の穂首

だけを刈っていくという刈り方ではなかったかといわれている.つまり、担当者は穂首を

刈っていく.横には別の人の担当の場所があるはずである.お互いに話しながら稲刈り

が進んでゆくに違いない.それぞれの刈りばかで稲刈りをしていると、互いに近寄って

ゆくこともあるだろう.「か寄り合はば」というのはお互いに近寄ったらということ.「そこも

か」は、そんなことぐらいでという意味.この歌の状況を説明してゆこう.秋実った田園の

中に一人一人のノルマとなるべき場所が割り当てられる.「はか」が接する若い男女が

隣同士で稲刈りをしているが、そのうちだんだんと近寄って来たよ.二人は好き同士な

んじゃないかな……」とはやしたてる.だから、そんなことぐらいでみんなわたしたちのこ

とを噂するでしょうね、と歌っているのである.

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当麻の里より二上山 遠望