喜佐谷の里を流れる象の小川

 わが命も 常にあらぬか 昔見し 象(きさ)の小川を 行きて見むため

わたしの命も、もっと何時までも続いてくれないかなあ!昔し見たあの素晴らしい

象の小川をもう一度行って見るために。


旅人は神亀4、5年頃(63.4歳)太宰師となって太宰府に赴任した。着任早々、

愛妻を失い、老年、天鄙る筑紫で過ごす旅人は、望郷の思いの切なるものがあ

っただろう。そんなとき、思いおこすのは清らかな「昔見し象の小川」であり、その

落ち口の「夢のわだ」の深淵である。旅人は天平2年(730)12月大納言となって

寧楽の都に帰ることが出来たが、翌、3年7月25日。67歳で没した。象の小川は

ついに、もう一度見ることが出来なかった。
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