近江(あふみ)の海(み) 夕波千鳥(ゆうなみちどり) 汝(な)が鳴けば
心もしのに 古(いにしへ)思ほゆ
近江の琵琶湖の夕暮れの波の上に群がり飛んでいる千鳥よ。お前が鳴くと
心もしおれるほどに、むかし都のあったころが思い出されてならない。
この歌は、壬申の乱(671年大海人皇子吉野行き、672年乱起こる。近江
軍大敗、近江朝王領大友皇子自殺)によって大津宮は壊滅し、その後いくばく
かの年を経て、人麻呂が、すっかり荒都と化した近江朝跡を訪ねた折りの
深い感懐を詠んだものと思われます。
司馬遼太郎氏の「街道をゆく」の壮大なシリーズはこの書き出しからはじまる。
「近江」おうみ
というこのあわあわとした国名を口ずさむだけでもう、私には詩がはじまって
いるほどに、この國が好きである。京や奈良がモダン墓地のようなコンクリート
の風景にコチコチに固めらりつつあるいま、近江の國はなお、雨の日は雨の
ふるさとであり、粉雪の降る日は川や湖までが粉雪のふるさとであるよう、
においをのこしている。………
近江 琵琶湖 尾上 夕波千鳥