磐姫皇后御陵の堀に咲く睡蓮

      君が行き け長くなりぬ 山たづね 迎へか行かむ

                待ちにか待たむ
  磐姫皇后2−85

あの方がお出かけになってからずいぶん日がたつのに、まだ帰って来ては

くださいません.とてもじっと待っていられないから、思い切ってお迎えに行こ

うかしら.それても待っていようかしら………………


     ありつつも 君をば待たむ 打ち靡なびく わが黒髪に

                霜の置くまでに    
磐姫皇后2−87

でも、やはり迎えに行かないで、こうして待っていましょう.たとえ、わたしのこ

の黒髪に霜がおりるほど待たされようとも…….お逢いしたいのは山々ですが

お迎えに行って嫌われるよりも、あの方が喜んで帰ってきてくださるまで、わた

しはじっと待ちます.


こうして磐姫皇后の歌をみてみますと、彼女は単なるやきもちやきではありま

せん.考えに考え、悩みに悩んだあげくの別居生活です.磐姫皇后陵は奈良 

市の平城宮跡の東北にあります.二重に濠をめぐらした前方後円墳で、いつ

もきれいに掃き清められています.春には馬酔木の花や、あやめが咲き、水草

の黄色い花が水面を彩ります.秋には紅葉し、冬には雪化粧をすることもあり

ます.いつ訪れても、それなりの風情があり、落ち着ける御陵は、仁徳天皇の

帰りを待つ磐姫皇后の女性としての身だしなみのようにも思えます.「あなたが

いつお帰りになっても恥ずかしくないように、こうして四季折々にお化粧をして

待っています.一日も早く、わたしのところにお帰りになって」と磐姫皇后が、

今でも言っているようです.                わたしの万葉 犬養 孝著より 

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