西の京 大池(勝間田池とおもわれる)より薬師寺遠望

勝間田(かつまた)の 池はわれ知る 蓮(はちす)なし 然言(しかい)ふ君が       
   

                   (ひげ)なき如し     婦 人(をみなめ

「今日、勝間田の池で蓮の花を見て来たけれど、あの池の花は特にきれいだね

池の水が日のひかりにキラキラと輝き、その中に蓮の花が咲いているです.

その見事なこと、どう話したらわかってもらえるかなあ」すると、話を聞かされた

女性.多分恋人でしょうが、ちょつとふくれて詠んだのが冒頭の歌です.

(あぁ、そうですか.勝間田の池の蓮の花が、そんなにきれいですか.あの池に

蓮なんかあったかしら….あの池に蓮の花が全然ないことぐらい、わたし知って

ますョ.そうおっしゃるあなたに、ヒゲがないのと同じように
、嘘ばっかりいって)

ある日の夏、新田部皇子が勝間田の池の蓮の花をみて帰り、女の人にその

美しさを話してきかせました.女性の勘は、こと好きな男性に関しては鋭いんだ

そうですが、この女性も新田部皇子の行動を見抜いていて辛辣な皮肉を言ったの

でしょうか.「きれいな蓮の花というのは、どうせきれいな女のことでしょう.それを

ぬけぬけと、勝間田の池の花がきれいだなんて……嫌いョ、あんたなんか」

今、勝間田という名の池はありませんが、奈良市西の京にある通称大池が、万葉

集に出てくる勝間田の池であろうといわれています.この大池越しに眺める薬師寺

そして遠くに春日山を配した構図は、これまで写真を撮る人達に、もっとも好まれて

きました.今、大池では、夏になっても蓮の花は見られません.水面には、水草も

藻もありません.まわりには住宅が多くなりましたが、大池の堤に腰をおろし、釣り

でも楽しみながら眺める西の京の風景は、万葉の昔を偲び、この歌を楽しむ格好

の場所です.

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