思ひ草 ナンバンキセル
道の辺(へ)の 尾花(をばな)が下の 思ひ草 今更々(いまさらさら)に 何か思はむ

道のほとりの尾花(ススキ)の陰の思い草ではないか。今さら何を思い迷うことがありましょ

うか。私はあなたの愛を信じ、あなた一人を頼りに思っております。


前々回に「忘れ草」の万葉歌を紹介しましたが、今回は「思ひ草」を紹介致します。

「思ひ草」の名は、横向きのややうつむきかげんにつく花を、もの思いにしずむ佳人の

さまに見立てたものだと思う。万葉歌はそうした印象をそのまま詠んだ歌ですが、ススキ

などの根に寄生してひっそりと咲くこの花の生態を的確にとらえられ、人知れずひとりひそ

かに思い悩む女の姿が浮かぶ。万葉集で「思ひ草」が詠まれているのはこの1首だけ。

「思ひ草」 南蛮煙管(ナンバンキセル) ハマウツボ科 ススキなどの根に生します。花の形

が名の通りたばこのパイプにそっくり。つまり煙管の雁首にあたるところが花で別名を

南蛮煙管(ナンバンキセル) とも呼ばれている。1年草で茎はごく短くほとんど地上には出ない

淡い紫色の花が少しうつむき加減に咲く。しかし、葉らしいものは見当たらず、不思議な植

物だと思う。青々としたすすきの根元で、そっと咲く姿には、しおらしい女性の趣を感じる。 
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