巨勢野を流れる曽我川 藪椿

川の上(へ)の つらつら椿 つらつらに 見れども飽かず 巨勢(こせ)の春野は

                                  
 春日老  巻1‐56

椿の花がきれいだなあ。川のほとりに点々と連なって咲いていて、いつまで見ても飽き

ないことよ。本当に、巨勢の春っていいねぇ

この歌は、まさしく春です。旅の空で見た椿の花。そのあまりの見事さに目をうばわれ

はしゃいでいるんですね。旅の楽しさと解放感のある歌です。「つらつら椿 つらつらに」は

音調がすこぶる良く、ために、旅の楽しさに陶酔するような感さえする。「つらつら椿」は

「点々とつらなり咲いた椿の花」をいうものであろう。この音調のよさが宮廷間にいい伝え

られて、下記 巨勢山の つらつら椿……の詠みを見たのであろう。

万葉で知られた巨勢は、近鉄線とJR和山線の吉野口駅付近の一帯で、山と山にはさま

れた静かな山村です。村の中を流れているのが重阪川(
へいさか 曽我川)て、古代には

この川の両岸に藪椿がいっぱいあったようです。一番いいのは、やはり春です。村のい

たるところに、今も赤い藪椿の花が見られます。吉野口駅の近くには、ひとつの礎石だけ

が残っている巨勢寺の跡や阿吽寺
(あうんじ)があります。いずれも椿の花と万葉で知られ

ていますが、ことに、山ぎわの一段高いところにある阿吽寺の庭から、椿の花越しに眺

める巨勢の春野は素晴らしく、春日老の「見れども飽かず………」の歌を、自分の目で

楽しむことが出来ます。               
犬養孝「わたしの万葉」より記載させて頂きました

     巨勢山の つらつら椿 つらつらに 見つつ偲はな 巨勢の春野を

                                      坂門人足  巻1‐54

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