planetarian 〜ちいさなほしのゆめ〜

key 製作


唐突でなんですが、俺は今までkeyのゲームをプレイしたことがありませんでした。
(この文章を書いている2007年1月現在)
特にポリシーがあってそうしていた訳ではありません。
たまたま俺がこの世界に入った2002年頃、keyが以前ほどの求心力を持っていなかったというだけ。

今回取り上げる「planetarian 〜ちいさなほしのゆめ〜」がkeyの久しぶりの新作として発売されると聞いたときも、そんな俺にはさしたる感慨があるわけでもなく。
が、友人I氏が自分のblogのトップ画像をこれのバナーにしてしまうくらいはまっているのを見て興味をもち、ちょうどパッケージ版が発売された頃だったので他のゲームを買うついでに購入。
安かったし。人外キャラ(ロボット)だし。SFだし。


そして、「泣きゲー」メーカーとして定評のあるkeyの作品を初めてプレイし俺は一体どんな感想を持つのでしょうか?
感涙にむせぶのか、こんなもの子供だましだと切って捨てるか。

というわけで、planetarian 〜ちいさなほしのゆめ〜レビューです。

<ストーリー>


プラネタリウムはいかがでしょう

どんな時も決して消えることの無い、無窮のきらめき

満天の星々が、みなさまをお待ちしています

プラネタリウムはいかがでしょう?…



宇宙開発の破綻に端を発した世界大戦から30年。
ほとんどの人間は死に絶え、地上には有毒の雨が降り注ぐ世界。
廃墟となった都市から物資を回収する「屑屋」である主人公は、訪れた街で戦前のプラネタリウム施設を発見する。
そこで彼を迎えたのは、プラネタリウム付属のコンパニオンロボット「ほしのゆめみ」だった。

主人公のことを30年ぶりに訪れた客と疑わず、早速星を見せようとする彼女。
だが、年月に耐えられず投影機は故障していた。
落胆するゆめみとのかみあわない会話に苛立ちながらも、奇妙な縁から投影機を修理することになってしまう主人公。

静かに流れていく「ゆめみ」と彼の日々。遠い郷愁のような毎日が彼の心を揺り動かす。
人工の星空に、彼は何を想うのか?
そして「ゆめみ」の運命は──?
(公式ページ・パッケージ裏から一部引用)



いかにもギャルゲな見かけとは裏腹に、中身はかなり本気のSF。
過酷な現実にくたびれた男と無垢な少女型ロボットという取り合わせとはいえ、そこから一般に想像されるような恋愛的要素はほとんどありません。
あくまでも主題は人間とロボットの関わりに置かれています。

どこぞで「SF版忠犬ハチ公物語」と評されていたのもむべなるかな。
「人間の役に立つこと」を最重要課題とされ生み出されたロボットであるゆめみが、人間が死滅してしまった街で未来永劫やって来ないであろう「お客様」を健気に待ち続けるその姿はそれだけで涙を誘います。
どんなに外見が人間と似通っていようとも、どんなにその言動が人間の少女のようであったとしても、彼女があらかじめプログラムされた行動ルーチンとデーターベースから引き出せる知識以上の行動を行うことは決してありません。
それこそ主人の死を理解できず、駅で彼の帰りを待ち続けるハチ公のように。

主人公がゆめみとの触れ合いを通して人間らしい感情を取り戻していくのと対照的に、どこまでいっても「ロボット」として枠から離れられないゆめみの姿がなんともまた。
そして、自らを取り巻く現実をロボットであるがゆえに正しく認識できないゆめみを待つのは悲劇的な結末しかないわけで。
希望を持たせておきながらも、最後の最後で落としてくるのはそれまでの丁寧な描写とあいまって中々に涙腺を緩ませるものがありました。


お話のテーマ的にはゆめみが少女の姿である必要はほとんど無く、下手をすると人間型ロボットではなくとも(最低でも主人公との意志の疎通さえ成り立てば)成り立ってしまいそうです。
が、そこであえて女性型なのは大人の都合……と、「無垢で純粋な存在」の象徴としての少女の姿がプログラムされた行動以外の邪念を持たないロボットの性質にぴったりだということもあるのでしょうね。

<キャラクター>

屑屋

主人公。本名不詳。
本編中の記述から推定するに20代後半〜30代前半か。

最初は探索の障害くらいにしか思っていなかったゆめみと不思議な縁からともに投影機を修理することになり、次第に失っていた人間らしい感情を取り戻していきます。
彼女と共に歩く未来をつかの間夢想した彼がどんな末路をたどるのか…それは自分の目で確かめてください。

それにしても、本編ラストのあと主人公がどうなったか考えると本当に暗澹たる想像しか出来ないです。
あの状況であの台詞→暗転→スタッフロールってなぁ……

ほしのゆめみ

花菱デパート本店屋上プラネタリウム付属の女性型コンパニオンロボット。
外見は15〜16歳の少女。ヒロイン(?)にしてこのお話の唯一の登場人物。


そのあまりにガチな「ロボット」っぷりにはもはや驚嘆を覚えるしかありません。
データベースから情報を引き出し、設定されたルーチンにしたがって返答する彼女と主人公との会話の微妙なかみ合わなさはロボットと話しているということを否応なしに意識させます。
また、ロボットであるが故のちょっとした動作の人間との違いも繰り返し描写されます。
立ち絵の瞳を良く見るとカメラになってたりするのも芸が細かいです。

一見ほとんど人間の少女と変わらないが故に、ときたま挟まれるそういった「ロボット」的な描写が彼女が決定的に人間とは異なるものであるということを逆説的に強調しています。

そこらに溢れるちょっと人間と触れ合ったからって「感情に目覚めて」しまうような人間型ロボットとは格が違いますよ。
物語の最期まで一貫して「ロボットらしさ」からぶれない彼女の行動があるからこそ、ラストシーンの切なさもひとしおなのだと俺は思います。

<グラフィック・音楽>

原画は駒都えーじ氏。
機械と女の子の双方に熟達した氏の起用は、ロボットであるゆめみを描くのにかなりマッチした選択なのではないかと。

CG枚数は20枚(差分抜き 背景含む)
一般的な基準に比するとお世辞にも多いとは言えませんが、お話自体がかなり短い(音声を全部聞いてプレイして3〜4時間程度)なのでプレイしていて不足を感じるということはありませんでした。


音楽は全9曲。
エンディングテーマである「ほしめぐりの歌」(宮沢賢治)の翻案曲が3曲を占めるため、実際の曲数はより少なく感じました。
一場面・一場所に一曲といった風に割り振られているため、一部の曲は場にそぐわない感じを受けることも有り。(特にこれはプラネタリウム館内のシーンで強く感じました)

が、音楽の質自体は上々。
投影シーンで流れる「Gentle Jena」が特にお気に入りですね。

<システム>

「キネティックノベル」ブランドの第一作として発売されたためか、各種表記が本をイメージしたものとなっています。
(例:セーブ=しおりを挟む)
任意の地点でのセーブ以外にも章立てされた各章の開始時点でオートセーブされます。
ロード画面では上記オートセーブから書籍の目次を見るような感覚で途中から開始が可能です。

上下の切れたシネサイズの背景に、その上にかぶせるようにして前面にゆめみの立ち絵、その後ろに背景が表示されます。
一部のシーンを除きほぼ全編が上記のフォーマットで進行し、演出効果も控えめに抑えられているので実に地味な画面構成となっていました。
分岐や選択肢のない一本道のお話ですし、「ノベル」の名を冠するところからも判るようにゲームというよりは「音楽つき絵本」とでもしたほうがいいかもしれません。

<総括>

萌えの皮をかぶっておきながらも本質は「人間とロボットの関わり」にあるガチのSF作品。
「ハチ公」なんて評されている通り展開がベタだと言われればそれまでですが、極限まで無駄をそぎ落としテーマに関わる事のみを追求したスタイルに心を揺さぶるものがあるのも確かです。
「ロボットと人間との間の最も古く大事な約束」を愚直に純粋に守り続けるゆめみの姿には不覚にも涙してしまいました。
流石に定評のある所が作るお話は違うってか。

セクシャルな要素はほとんどありませんし、ギャルゲーと言うよりは「切ない系SF」とでも称するべき作品でしょう。


それにしてもなんだ、ラストシーンで泣くならともかく「250万人来場記念特別投影」の宇宙開発ネタにピンポイントで反応して涙したのは俺だけでいいと思うんだ。