天使ノ二挺拳銃

Nitroplus 製作


買った理由? Nitroplus信者だから、ではダメですか?(笑)

真面目な話、人外ヒロイン(天使&幽体)が出るのと体験版などから伝わってくる退廃的な雰囲気にちょっと心惹かれたものですから。
俺が大好きなFFDを髣髴とさせる新システムも好印象。
いつものように燃える展開を期待してた、してたんですよ……、ええ。

<ストーリー>

子供が生まれないという奇病に蝕まれ、人類がゆっくりと滅び行く世界。
街から子供の姿が消え、彼らのための施設が失われていく。
主人公・ヴィムが天使として生じた時、とうとう最後の子供たちが卒業を迎え、高校すらも姿を消した。

ヴィムはそんな誰も彼もが諦めてしまった世界で、幽体となって病院をさまよう少女、渡部風子と出会う。
彼女は父親から受けた虐待で意識不明なのだが、意識だけで肉体から抜け出して行動できるのだという。
そしてヴィムは彼女を通じて彼女の姉、小巻のことも知るのだった。

18年前より始まった世界規模の不妊症。
その究明を試みる研究者だった小巻は、人に見えないはずのヴィムの存在をなぜか・・・次第に知覚できるようになっていく。

小巻に触れて、人間に興味を抱いていくヴィム。
人に惹かれる彼を止めようとする天使の少女アンリ。
やがて人の未練は徐々に抵抗を激しくし、遂には天使を飲み込むほどの変容を遂げていく。

混迷するこの世界で、ヴィムの穿つ弾丸は運命を変えることができるのか?

(公式サイトより引用)




このゲームにおける「天使」とは基本的に人からはその存在を見ることが出来ず、人に触れることも出来ず、ただ人間社会を部外者として傍観し淡々と人の"未練"を撃ち抜く、そんな位置づけの存在です。
そんな天使の一員として何の疑問も無く本能に従い使命を果たしていた主人公が、ヒロイン達とのふれあいや人間社会を見て回ることを通し自らの存在に疑問を抱き、やがてそれは「天使」の存在意義と世界を揺るがす事件に繋がることに──── 、というのが大筋の流れなのですが、

主人公いくらなんでも淡々としすぎ。

上述のように「子供が生まれない」事が社会全体の希望を奪っているという設定から、序盤の主人公達が"未練"を処理するために立ち会う人間の死のシーンは殺人、レイプなどかなり陰惨なシーンがネチネチと続きます
しかし主人公はほとんど何の感想も無く見ているだけ。一度などてっきり3人称視点で語っているのだと思っていたら、突然主人公のモノローグが入って今までの描写はお前視点だったのかよ!! ていうかお前その場にいたのかよ!!と驚いてしまったことすらありました。

人間社会に対して徹底的に外部でしかありえない天使の存在を表現するためにそうしているのかもしれませんが、あまりに心理描写が薄いため中盤以降の自分(というか天使)の使命や存在意義に疑問を抱き始めてからの行動がやたら唐突に感じられてしまうのは少々いただけないです。
この描写の薄さは主人公が一番顕著ですが、それ以外の物語全般にも及んでいます。
そしていくらかマシになるとはいえ後半になってもこの心理描写の薄さは続くため、いまいち物語にのめりこむことが出来ませんでした。

また、洒落にならないくらいの救いの無さもある意味特徴かと。
誰のルートだろうが攻略対象以外のヒロインは(場合によっては攻略対象ヒロイン自身も)かなり悲惨な目にあい、非業の最期を遂げることが多いです。
特にアンリルートはやばすぎ。

だがこれも前述の物語全体の描写の薄さ、浅さがネックとなってしまい感情移入があまり出来ないため、いくら悲惨な目にあおうが(それこそ序盤の主人公のように)ただ見ているだけになってしまいがちでした。
前述のアンリルートなどは筋だけ追えば本当にキツイ展開なのですが、感情移入が出来ないためいくら登場人物が死のうなんだろうが大したダメージは受けず。
とりあえず登場人物を死なせておけばプレイヤーの心を動かせると言う訳じゃないと言ってやりたいです。


しかし、希望が失われた社会の退廃的な雰囲気を書き出すという意味ではある意味成功しています。
全ての原因となる黒幕キャラが居るのですが、そいつのぶち切れっぷりは(その理由がかなりしょうもないものだということを差し引いても)相当なものですし、そのほかの悪役達も心底自分のことしか考えてないホンモノの悪党達。
「人間の負の部分」を描くということに関しては大したものだと思います。
そんな訳で個人的にはとあるルートで悪役さんたちがあっさりと主人公達と協力関係を結んでしまったのはかなり興ざめでした。


全てが作者の自由になる物語世界だからこそ、「誰もがハッピーになって末永く幸せに暮らしました、めでたしめでたし」ではないお話を目指すというのは別にかまいません。
が、そういった物語を目指すには今まで散々言っている心理描写の薄さがネックとなってしまい、結果として出来たのはハッピーエンドで癒されるわけでも無し、されど鬱展開で落ち込むこともなしの中途半端な作品でした。

「ただ傍観するのみ」なゲーム中での天使と同じ立場にプレイヤーを陥れてしまったのは皮肉としか言いようが無いですね。

<キャラクター>

ヴィム

主人公。最近生じたばかりの天使。
アンリと共に人の「未練」を撃ち抜く日々を送っている。
「未練」を撃ち抜く際に人の情動にふれ、次第に人間に対して興味を持っていくことになる。


エロゲ主人公らしく鈍感な朴念仁、というか正直何考えてるか良くわかりません。
あそこまで主体性が無いのもどうかと思うなぁ…

アンリ

主人公と共に行動する天使の少女。
死んで未練を残す人間を、「不協和音の源」と嫌う。
言うことを聞かず人間に惹かれていくヴィムとは衝突してばかりいる。


人外キャラキター(AA略
(注:管理人は人外キャラを愛しています)

……少々はしたないところをお見せしました。失礼。

かなり酷い目にあいがちなこのゲームのヒロイン達の中でも屈指の不幸っぷりを誇るのがこのアンリ。
他のヒロインのルートのときでの扱いが酷いのは言うに及ばず(小巻ルートでの"当社比50%減アンリ"は本当にきつかった そんなのにCG付けないでよ(泣))アンリルートですらかなり酷いことに。

シナリオ内容は辛い過去を分け合うことによって結びついた2人というある意味ありがちな内容でしたが、比較的上手く書けていたかと思います。
巷で鬱になると評判の終盤のぶっ飛んだ展開には、はっきり言って完全に置いてけぼりにされてしまったためそれほど心を動かされませんでした。

渡部 風子

父親からの虐待が原因で寝たきりになってしまった少女。
精神のみが幽体となって病院内をさまよっている。
天使でもなく、人間でもない彼女とのふれあいは主人公に何をもたらすのか……

人外キャ(以下略)

風子ルートは展開的に一番すっきりまとまっているかと。
描写不足なのは相変わらずなのでいつの間に主人公と風子に恋愛感情が芽生えているのかさっぱりだったり、黒幕さんが散々でかい口叩いておいてあっさり死んじゃったりと問題点はいろいろありますけど、アンリルートほどトンでも展開でなく小巻ルートより構成がしっかりしてると思います。
3ルート中では俺は一番好きですね。

風子ルートエピローグでエンディング曲の『結晶』が流れてきた時は、このゲームで唯一ほろりとした瞬間でした。

渡部 小巻

大学で生物学を専攻し、世界にはびこる「子供が生まれない」現象について研究を重ねていた女性。
現在は妹の風子の入院費用を稼ぐため休学し、アルバイトに精を出す生活を送っている。
人間であるが何故かヴィムを知覚することができ、ひょんなことから彼と言葉をかわすようになっていく。


構成のダメっぷりここにきわまれり。
風子との関係とか終盤の脱出劇とか描写不足過ぎだと思います。
お陰で3ヒロイン中一番未来に希望が持てて幸せなエピローグなのに全然心に残らなかったです。
そしてアンリはあいかわらず酷い目に……うう。

その他

ヒロイン以外のサブキャラたちもなかなかいい味出していました。
むしろ黒幕さんとその手下の悪党達のはじけっぷりはある意味ヒロインを食っているくらいですよ。
淡々としすぎて何考えてるんだか良くわからない主人公や心情描写が薄いヒロイン達よりも違う意味でよっぽどキャラが立っていると思います。

<グラフィック・音楽>

原画は中央東口氏
男連中とクリーチャーの造型に気合入りすぎ。女性キャラより目立ってますよ。
が、作品の雰囲気には非常に合っているといえますね。
CG枚数は115枚(差分含まず) これ以外にも小さいCGがコマ絵のように挿入されるので実枚数はもう少し多いです。
質的にも特に劣るところは無し。

また、背景や銃器が全て3Dなのですが巧妙にフィルタをかけているため立ち絵とのギャップは全く感じません。
CGモードに背景グラフィックも登録されるのですが、それを見るまで3Dだと気付かなかったくらいです。


音楽はNitroplus作品ではおなじみのZIZZ STUDIO
普通にハイレベルなのですが、ただそれだけで終わってしまっているというか強烈な印象を残すことは無かったです。
これは作品自体に感情移入が出来なかったせいかもしれませんが。曲自体の完成度は高いと思うのですけどね……

あと、3ヒロインそれぞれのルートに内容に見合った歌詞のエンディングテーマが用意されているのですが、音楽鑑賞モードでこれらの曲がフルコーラスで聴けないのはサントラ買えって事ですか?
これは本気で腹が立ちました。

<システム>

背景+立ち絵+テキストウィンドウという一般的エロゲーシステムとは少々異なり、コマ絵+画面のそこかしこに現れるフキダシで地の文と台詞を表示するという今作から採用された新システムを用いているんですが、

全体的に動作が重すぎ。

メニューを開いたりバックログを見たりの基本的機能が重いのはもちろん、肝心のコマ絵表示とフキダシ表示も遅いです。
スキップ(既読未読区別なし)も頑張れば読めるのではないかというくらいの速度。
またボイスリピートが無かったりロードするのにいちいち10秒くらいかかったりといろいろと不満な点の多いシステムでした。

また、これはシステムというよりは演出の項に入りますが、上述のようにコマ絵+フキダシを採用している割に文章自体は普通のノベルゲームの文体なため、情景描写の地の文をわざわざフキダシで読まされることになるのはちょっと苦痛でした。
そういうのこそコマ絵でやるべきだと思うのですがね。
そしてコマ絵自体もそれほど数があるわけではないため、時折背景の上にフキダシだけが次々と出て(立ち絵は無し)進行することになってしまっていたのはちょっといただけないです。
それではせっかくの新システムの意味が無いのではないかと。

<総括>

一風変わったゲームにしようと挑戦したことはわかるのですが、作りの浅さが裏目に出て結局出来たのはなんとも中途半端な作品だった、そんな印象。
ストーリーだけ見ればかなりの鬱展開なんですけど、登場人物に感情移入が出来ないため見ていてなんとも思わないんですよね。

設定や雰囲気作りの点では悪くないと思うので描写の浅ささえ何とかなればかなりいいものが出来たのではないかと思うんですけど…… 実に残念です。