Ever17 〜the out of infinity〜 Premium Edition

KID 製作

※このゲームはPS2用一般ゲーム(15歳以上推奨)です


暇つぶしにゲーム雑誌を眺めていた俺の目に飛び込んできたとあるPS2ギャルゲー。

それは「事故で水深51mの海中に浮かぶ海洋テーマパークに閉じ込められた7人の男女」という舞台設定のものでした。
あれですか、見ず知らずの他人同士だったのがいろいろな障害を越えて脱出するために努力を重ねる中で仲良くなって君のこと愛してるええ私もよですかそうですか。

下らん、とばかりに一蹴して脳内から消去。
そしてこのまま"どうでもいいゲーム"になってしまうはずでした。

しかし俺の予想に反して世の評判は高く、何でもネタバレ絶対厳禁の物凄い仕掛けがストーリーに仕掛けられているという情報も。


……果たして第一印象どうりの大した事のない話なのか?
それとも俺が間違っていたのか。

それでは、Ever17 〜the out of infinity〜 Premium Editionレビューです。

(ちなみにこれは2002年に発売されたEver17 〜the out of infinity〜に若干の追加要素を加えたものですが、話自体には変更はないので同列に扱って良いようです)

<ストーリー>

西暦2017年5月1日午後12時51分
水深51mの海中に浮かぶ海洋テーマパーク『Lemu』(レミュウ)
ここに、何の前触れも無く7人の男女が閉じ込められた。

徐々に失われる水、酸素、食料。深海に生息する未知のウィルス。
そして、苛烈な水圧にさらられた『Lemu』の隔壁は119時間以内に崩壊するという。

この閉ざされた空間の中、限られた時間の中で。
次々と起こる危機を乗り越えながら脱出への道を探し続けるうちに、7人は次第に深い絆で結ばれていく。
それは友情でもあり、あるいは愛情でもあった。

だが、そんな想いをあざ笑うかのように、死のタイムリミットは刻々と迫る。

想像を絶する極限状態の果てに待ち受ける結末とは、いったいなんなのか?
そこで何を得るのか?何を失っていくのか?

その開かれた2つの『目』は、最後に、何を視るというのか────?

公式サイトより一部引用)




一言で言うとすれば、予想はいい意味でも悪い意味でも完全に裏切られました。
上のストーリー紹介は確かに嘘は言っていませんが、真実も語ってはいません。

とりあえずいくら暇をもてあましているからって皆で缶蹴りやって遊んでるこいつらは危機感無さ過ぎではないかと。
泳げないヒロインと皆の目を盗んで秘密の特訓、というのはギャルゲー、エロゲーでよくあるシチュエーションですが、水深51mの海中に閉じ込められて脱出の目途が付かない状況でやることかと。

全然極限状況じゃねえじゃん。

全般的にいまいちストーリー紹介にあるような「閉鎖空間に閉じ込められた恐怖」「崩壊までのタイムリミットが明確に定められている恐怖」が描かれて居ないんですよね。
キャラの会話や行動も上述のようにそこらのギャルゲーの日常シーンのようなものばかりでとても海中に閉じ込められている人間のものとは思えず、なんだか緊迫感のないことが多いです。
お陰で時折発生するアクシデントへの対処や、終盤の命がけの脱出といった急を要する場面が他のシーンに対して少々浮いてしまっているように感じました。
俺はパニックアクション的お話を予想していたのでかなり肩透かしを食らいましたね。

まぁ、これは居ながらにして『Lemu』全館の状況モニター(生命反応探知から浸水警報まで何でもござれ)&コントロールを行うことができる人物が居り、"外に出られない&連絡不能"という以外は(少なくとも圧壊のタイムリミットまでは)電力、空気、食料の心配が無いという状況のせいとも言えますが。



しかし、はっきり言ってこういう部分は枝葉末節。

このゲームは「倉成 武」と記憶喪失の「少年」という2人の主人公の視点のどちらかで進めることになるのですが、どちらの主人公を選んだかによって攻略可能なヒロインが変化します。
武視点では「小町 つぐみ」「茜ヶ咲 空」ルートにのみ進むことができ、「田中 優美清春香菜」「松永 沙羅」の2人はサブキャラ扱い。
逆に少年視点ではつぐみと空がサブキャラになるわけです。

これだけでは「同一の事件を二つの視点から見ることによって新事実が!!」というような話かと思えますがその程度では済まない訳で。

4人クリアすると現れる最終ルートの「八神 ココ」シナリオで明かされる、主人公に立ち絵が存在しない(なのでプレイ中は自分がどんな姿か確認できない)、プレイヤーは画面のこちら側に居て各ヒロイン毎の個別ルートの内容を覚えている、というこの手のゲームの「常識」を上手く使い、プレイヤーの存在すらも巻き込んだゲーム全体の壮大な仕掛けには度肝を抜かれること請け合いです。

「どうしてこんな事件が起こらなければいけなかったのか」「誰がこの事件を起こしたのか」、そして「このゲームにおいてプレイヤーとは何なのか」

最初の4人のシナリオに少しづつ散りばめられた伏線や謎が、最後のココシナリオで1点に向かって収束していく終盤の展開は見事の一言でした。

<キャラクター>

倉成 武

主人公その1。20歳の大学生。
友人達と『Lemu』に遊びに来て、彼らとはぐれてしまったところで今回の事故に巻き込まれることに。

周りの人間を元気付けるために明るく振舞っている、と好意的に解釈しても序盤のおちゃらけぶりはやりすぎです。20歳の成人男性の行動じゃないよあれ。
そんな彼でもつぐみ・空両シナリオ終盤ではを見せてくれるので良し。

少年

主人公その2。『Lemu』に来るまでの記憶を失ってしまっている。
外見から15〜16歳程度だと推測される。彼もまた『Lemu』内に取り残され、他の6人と行動を共にすることになる。

一人称「僕」で超純情なまさにギャルゲー主人公、なんですが実は……
彼の「記憶を失った理由」を知ったときは驚きました。

小町 つぐみ

素性不明の(自称)17歳。冷たい態度と毒舌で周囲を煙に巻く少女。
『Lemu』を訪れた理由も全く不明。
周囲に対して壁を作り、共に閉じ込められたメンバーたちとも打ち解けようとしない彼女は何か秘密を抱えているようなのだが……


缶蹴りして遊んだりしてる連中に仲間扱いされたくないという気持ちは分からないでもないです。
最初は冷たい態度なんだけどある程度仲良くなると……というのはこの手の人の定番ですが(何がだ)つぐみは仲良くなったあとも関係に程よい緊張感があって良し。
お陰でごく偶に見れる甘えっぷりとか照れ笑いなどが破壊力抜群でした

田中 優美清春香菜

18歳の大学一年生(考古学専攻予定)ちなみに名前の読みは「ゆうびせいはるかな」長ぇよ
あまりにも長すぎる名前のため誰も本名では呼ばず、皆からは『優』と呼ばれている。
とにかくよくしゃべる、気後れしない性格の少女。
Lemuでアルバイト係員として働いていて今回の事態に巻き込まれる。
実はバイト以外のある目的を持って『Lemu』を訪れている様子。
事故が起こった後は持ち前の社交性と行動力で皆を元気付け、引っ張っていくことになる。


とりあえず閉じ込められて1日目であっさり自分の真の目的明かすのはどうかと思った。
あと、考えた奴のセンスを疑うこの名前ですが、これにすら仕掛けがあったことを知って仰天。
「本名で呼んでもらえない」ことにそんな意味があったとは。

茜ヶ咲 空

Lemu開発部のSE。永遠の24歳そして無意味にチャイナドレス。
常に論理的で冷静、感性や情に流されることはない大人の女性。
しかし恋愛については非常に初心で、そのさまはある意味天然記念物もの。


初心なお姉さん萌えなストーリーかと予想していたら全然違う方向に進んでびっくりでした。
まさか正体がそんなことになっているとは。「あなたが目を閉じたとき、私は消えてなくなるのです」に込められた意味が深いです。

松永 沙羅

優の後輩の女子高生。16歳。学校行事で『Lemu』に来館。
小生意気で人をからかうのが大好きで「少年」はよくその犠牲になっている。
なぜか武視点の場合全く姿を見せない彼女。いったい何処に居ると言うのか…


あからさまに「少年」と関係ありそうなキャラだなーと思ったら案の定でした。
ていうか出てこない理由は脱出したからだとばかり思っていたらそんな理由ですか。

八神 ココ

14歳の中学生。ピンク髪
そこらのギャルゲー、エロゲーのいわゆる電波キャラ&白痴キャラをごった煮にして濃縮したかのような言動はとても歳相応には思えません。
ひよこごっことかいもむしごっこってお前は幼稚園児か。

そのくせ物語全体に仕掛けられた謎にかかわる超重要人物。

はっきり言ってココシナリオをやらなかったらこのゲームをやる意味ないです。
ココとのラブストーリーというよりは「Ever17解明編」といった趣。
あの怒涛のネタばらしの連続はたまらないものがありました。
ココエンドもEver17というゲーム全体のグランドエンドに近いですしね。

<グラフィック・音楽>

原画は滝川 悠氏。
立ち絵、CG共に特に文句の付け所は無いですね。
CGは97枚(差分含まず) 他にショップの予約特典テレカや、小説・ドラマCDといった関連商品のイラストが約30枚登録されています。
何気に「水をかぶって髪と服がちょっと濡れた立ち絵」(透けてはいませんw)がしっかり用意してあったり、背景で床にたまった水が揺れていたりするのは芸が細かいと思いました。
ちなみにPC移植版では上記の濡れ立ち絵で服が(ほんのちょっとですが)透けてると聞いて歯軋りしたのは秘密です。


音楽は可もなく不可もなく。
タイトルバックの曲とOPムービーの曲がちょっと良かったかな、というくらいで特に心に残りませんでした。

<システム>

超快適。PCゲームも見習って欲しいです。以上。

で終わっては身も蓋もないのできちんと書くと、
かなり高速のスキップ(既読、未読)、常時セーブ可、バックログという必要最低限の機能を備えていることはもちろん、選択肢ごとのオートセーブ、一度選んだ選択肢を色づけ、エンディングリスト表示などもあり。
一度クリアしたシナリオを特定の位置から再開できる「ショートカット」機能はなかなか便利でした。

PS2コントローラーを片手で持った状態でほとんどの操作が行なえるキーコンフィグも良かったです。

本当、下手なPCゲームより出来がいいですよこのシステム。

<総括>

一言で言えば終盤の盛り上がりのために全てがある作品。
状況に全く合わない登場人物たちの緊迫感のない行動や、テンポの良くない掛け合い、ココの電波台詞はプレイしていてうんざりでした。
最初に進める4人のシナリオの展開もそれほど意外性のあるものではなし。

しかし、ヒロイン達のそれぞれ抱える事情と密接に関連させて少しづつ伏線を張り、それらを解消しつつ物語全体に仕掛けられた謎が解けていく最終ルート・ココシナリオの展開は上に挙げた欠点をを補って余りあるものだと思います。
個人的にはあれはADV史上に残る斬新なトリックだと思いますよ。本当に凄いです。

今なら廉価版が1980円で売っているので、叙述トリックとかその手のネタが好きな人なら手を出してみても良いのではないかと。