らくえん 〜あいかわらずなぼく。の場合〜

Terra Lunar 製作


どんな分野においても、「業界モノ」というのは非常に扱いの難しいジャンルです。
リアルに走りすぎれば暴露にすぎなくなり、かといってある程度現実を汲み取らなければ単なるファンタジー。

この「らくえん」もそんな「業界モノ」の一つ。
弱小ソフトハウスに集うバカでダメでどうしようもないけれど、どこか憎めないヲタたちがエロゲー作りを通じて織り成す物語。

というわけで「らくえん 〜あいかわらずなぼく。の場合〜」レビューです。

<ストーリー>

───「堕落する準備はOK?」と彼女は言った。



主人公=「僕」は、どこにでもいるフツーな奴。
どのくらいフツーかって?
ルックスC、成績オール3(5段階で)、草野球ならレフトで6番。
青春真っさかりなのに恋人はいないし、もちろん童貞。
年に2回開催される有明ビッグイベントに欠かさず行くってくらいフツーだ。
……まあ、一般的には、少しだけダメな人かもしれないけれど。

でも、いつまでもそんな「僕」じゃいられない。
今回の冬コミを最後に同人誌製作からは引退。そして春からは晴れて大学生。
今まで妹しか買ってくれなかった僕の同人誌を買ってくれる人が今回は2人も居たけれど。
そんなことで後ろ髪引かれているわけには行かないんだ。

さようなら、今日までの痛い僕。 そしてこんにちわ、明日からのサワヤカな僕。


……そして春。
おめでとう!!予備校合格(誰でも合格できる)
結局受験した大学全てに落ちてしまった僕は東京でしがない予備校生として生活を始めることになる。
いや、はずだった。

あの、「僕」の人生を変える電話がかかってくるまでは───


そして僕らはソフトハウス"ムーナス"に集う。
バカでダメでヲタでどうしようもない僕らにとってそこはある意味楽園。
発売延期?予算不足?ライター逃亡?バグ発生? それでも結構日々は楽し。

さあ、僕らの「らくえん」へようこそ!!

※(Terra Lunar「らくえん 〜あいかわらずなぼく。の場合〜」公式サイトより一部引用)




……あいたたた。
上のストーリー紹介の通りこのゲームは「エロゲー会社を舞台にしたエロゲー」です。
よって必然的に登場キャラクターはヲタクばかり。
まず主人公が浪人エロゲ原画家ですし、ヒロインはグラフィッカー、バイト制作進行、新人シナリオライター、エロゲ声優の卵、ライバルブランドの売れっ子原画家というのだから素敵です。
普通の人がいやしねぇ。

また、テキストにおいてもそういった面が色濃く出ています。
地の文から台詞までありとあらゆるところにパロディ、2chネタが頻出。
登場人物のしゃべり方からして「〜と思われ」といったいわゆる”ヲタク口調”だったり、「この人たちは人間として大切なものを失っている最低のダメ人間(←他人事のように)」というように地の文の中で自分に突っ込みを入れるどこぞの日記サイトのような表現を使ってみたりとかなり癖のあるテキストです。
出てくるのは人間は全員ヲタなのでこういうノリなのはある意味自然ではありますが。

シナリオ内容もまた凄い。
いきなりシナリオライターがスランプに陥って逃亡、そんな事は日常茶飯事と言い切るディレクター。
「何故本社の連中はその程度のことも理解できんのだ!!」って普通は理解出来ません。
他にも雑誌に載せるためシナリオが全く出来ていないにも関わらずとりあえずHシーンの原画だけ描かされる主人公とか、イベント(冬コミ)に間に合わせるために余裕は全くないにもかかわらず本編と平行で体験版を製作とか。
ある程度濃いエロゲヲタならいろいろ心当たりがあって笑えるのではないかと。
発売延期ネタとかはっきり言って生々しすぎです。

Hシーンにおいてもこのノリは続きます。
何せ登場人物は全員ヲタ、コトの最中に「エロゲーではこうじゃないのにねぇ」とか言っちゃう主人公とヒロインとか「声優の作った声じゃない本物の声」なんて感想を漏らす主人公(何の声かは皆さんの想像にお任せします)などといった痛々しいネタ連発。
シチュエーション自体も
・「エロ漫画書く参考にするからチ○チ○見せて」→なぜか勢いでフェラ
・貧乳ヒロイン相手にパイズリできるか出来ないか議論を戦わせ、それでは実証してみようということでパイズリ
といった最高にありえないものばかりで"使える"というよりむしろ笑えました。


そして、やもすると単なる暴露話をだらだらと続けるだけのストーリーになってしまうように思えるこの設定でエンターテイメントとしてきちんと成り立たせているのは素直にほめられることかと思います。
ヲタクネタ、業界ネタで笑いを取るだけでなく「周囲に流されるばかりだった主人公の成長物語」「皆で一つの作品を作り上げる青春群像劇」としてもそれなりにしっかりしているのはゲーム開始当初の予想をいい意味で裏切ってくれましたね。
といってもやっぱりメインは笑いのほうなんですが。



……しかし、ゲーム内容で開発遅延による発売延期&あんまり売れないというネタを扱っていながら実際に「らくえん」自体も発売延期しちゃってしかもあんまり売れなかったというのは体を張ったネタに走りすぎですよTerra Lunarさん。
さすがにこれは笑えません。

<キャラクター>

主人公。浪人エロゲンガー。
「にーにーちゃん」「アンタ」「オッチャン」「先輩」などと呼ばれるため本名不明。
良く考えるとこれって凄いことですよね。感情移入をしやすいようにこうしたのでしょうか。
中身といえば典型的エロゲヲタなので感情移入しやすいといえばしやすいというか、あまりに自分と行動原理が似通っているので嫌気が差してくるというか。

「ダメです。もう僕のフラグが立ちました。○○(ヒロインの名前)攻略ルートまっしぐらです」とか普通に言いやがりますからねこいつは。
エロゲに脳を犯されすぎです。

他にも自分の妹に真顔で「萌える妹の条件」を説いたりと素敵な行動を連発してくれました。


以下ヒロインズ。紹介の力の入れ方が違うのは仕様です。

美芝 可憐

ソフトハウス"ムーナス"唯一の社員にして凄腕グラフィッカー。
身長130pだけど21歳。
冬コミで主人公の同人誌を見つけ、その絵に惚れ込んで"ムーナス"の原画家としてスカウトすることに。

口を開けば下ネタギャグ連発、企画会議では「あたし、レイプものがいいなー」(目を輝かせながら)、気に入らないことがあるとすぐに噛み付く(比喩じゃなくてマジで)
でも自分が強く迫られるのには実は弱いのには萌え。

そして時折放たれる辛らつな「エロゲー業界人本音トーク」はかなり格好いいです。
とくに主人公をスカウトするときの超長台詞は震えました。大好きですあのシーン。
あまりに好きなので痛々しくも全文書き写してしまったくらいに。

家庭の事情のトンデモさにはちょっとびっくり。

御上 みか

"ムーナス"と同じ経営母体に属し、事務所のビルまで一緒なライバルブランド"ミニミソフト"の売れっ子原画家。
彼女原画のエロゲーには主人公が特に下半身の面で大いにお世話になっているそうです。
嫌過ぎ。

手の届かない憧れの女性(エロゲー原画家だけどな)だった彼女と唐突に同じ立場に立ってしまい(エロゲー原画家だけどな)戸惑う主人公、というみかルートはなかなか良かったの思います。
やってることといえば2人でエロ漫画描いたりとかどうしようもないんですが。

千倉 紗絵

主人公の中学時代の漫研の後輩。
予備校で再開し、同じ大学に合格することを目指して2人で勉強をすることを主人公と誓い合うのだが……

一見普通の人ですが、もちろんこのゲームに限ってそんなことはないわけで。
詳細はネタバレになるので避けますが、とりあえず漫研の後輩って事で察してください。

しかし、主人公にエロゲー製作に加わることを要請されて「先輩とまた一緒に作品作れて嬉しい」って絶対おかしいよアンタ。

主人公の双子の義妹1号。おとなしく引きこもりがちだけど芯は強い。
一見普通な人のように見えて中身も普通な人というこのゲームにおいてかなり貴重な存在です。
ヲタばかりの登場人物の中でヲタ趣味の持ち主じゃないのは彼女のみ。

ま、真性エロゲヲタな兄を全く避けていない(というかむしろ好き)な時点で既に普通の人じゃない気もしますが。
「おにーちゃんはヲタクだからしょうがないよ。
実写系よりは、いいかな。
アイドル好きとかAVマニアさんよりは・・・」

との事ですがそういう問題なんだろうか・・・

亜季

主人公の双子の義妹2号。活発で口うるさくてガサツ。
杏と違ってこいつもヲタです。
兄貴の影響でエロゲーとかエロ同人誌とかが普通のものだと思っていて学校で恥かいたそうです。
ありえねえ。

亜季ルートではアクターとしてのプロ魂が語られるのですがやってることはエロゲ声優なのがまたどうしようもない。

<グラフィック・音楽>

グラフィックは陰影のはっきりしたアニメっぽい塗り+比較的等身の小さいキャラでかなり独特です。
が、立ち絵、イベントCG、デフォルメ立ち絵ともにかなり安定していて普通に上手だと思います。
いわゆる「萌え絵」の範疇からは外れている気がしますが、ハイテンションコメディな物語の内容には非常によく合っているかと。

CG枚数は112枚(差分含まず)
しかし主人公達が劇中で製作しているゲーム「あいかわらずなぼく」のCGが約2割を占めているのは特筆すべきことですね。
中には本当に一瞬しか表示されず、CG閲覧モードで見て初めてどういう絵だったか確認できるものなどもあり。
地味に作り込みが凄いです。


音楽といえばただひたすらにギター。それはもうギター。あふれんばかりのギターサウンド。
ED曲に至っては男性Vo+英詞。とてもエロゲーの曲とは思えません。

また、声優さんの熱演も光ります。
声がなかったらあのハチャメチャな掛け合いの魅力が半減してしまうと思います。
(以下略)とテキストウィンドウではなっているのにひたすらしゃべり続けるとか、スピーカー左右で別台詞とか上手く演出と絡めているのは良かったです。

<システム>

スキップ(既読、未読)常時セーブ、バックログといった必要最低限の機能は備えています。
フルインストールすればディスクレス起動可。特に不満は感じませんでした。
欠点を挙げるとすればHシーン回想モードの不備、CG閲覧モードで一部サムネイルと実際のCGが食い違っているものがあるところと、フラグ管理が少々アレなのか攻略失敗するとたまに別ヒロインの個別ルートに入ってしまうことがあるくらいですかね。

あと、どの項で取り上げればいいか微妙だったのでここで取り上げますが、演出に異常なほど気合が入っています。
効果音、画面フラッシュなどは当然として、テキストウィンドウの位置・形状変更、アイキャッチ、ムービー挿入、立ち絵のデフォルメ化、背景に直接文字表示、超長台詞などなど。
過剰ともいえるくらいの演出で笑いをとるのはもちろんのことですが、これら演出はシリアスなシーンでもかなり威力を発揮していました。
特に「背景に文字表示」は上手いと思います。

<総括>

「エロゲー業界」という全くもって一般的でない題材を扱いながらそれを良質のエンターテイメントに昇華させている快作。
話の流れ自体にはそれほど意外性があるわけではないですが、演出・音楽・ボイスの作りこみの深さによる総合力の勝利と言えるでしょう。
なんだかんだいってかなり直球の青春物語ですこれ。

上述の通り、キャラクター・テキスト・絵に強烈な癖があるのでヲタ万人に薦められるというわけではありませんが、ある程度キャリアを積んだ(笑)エロゲヲタで、「俺は泣きゲー&感動ゲーしかやらないよ」という人以外なら結構楽しめるのではないかと思います。

あ、エロにはあんまり期待しちゃダメですが。