佐伯泰英を知ってるか


 夏の寝苦しい夜。眠気が訪れるまで寝床で本を読むことにしている。

ミステリーもいいけど、面白いと読み終えるまで寝られなくなってしまうので、いつでも中断できて軽いものがいい。しかも単行本は重い
ので文庫本に限る。

 こんなときに向く本は、毎回、吟味して選ぶもの面倒なので、出来がよくて水準が安定している時代小説のシリーズものがいい。山
本周五郎や、はやりの藤沢周平が浮かぶが、少々暗くて、重い。池波正太郎や平岩弓枝あたりが、出来もレベルも安心できるし、

区切りも付けやすくてありがたい。半村良の人情噺なども風情があっていい。

 最近は「御宿かわせみ」なんかを読み返していたら、とある書評で「佐伯泰英がすごい」とあった。

 書店に行ってびっくり。すべて文庫のシリーズもので大量に平積みしてある。調べてみたら99年から約8年間で10シリーズ100冊
を出し、トータルの発行部数は1500万部を超えているそう。しかもすべて書き下ろしだという。いままでこんな作家はみたことがない。
普通は小説誌で連載し、単行本を出してから文庫化するのがお決まりのコース。直接、文庫に書き下ろしで、しかもこれほど売れてい
る。時代小説ブームとはいえ、これは新しいケース。村山門下は、ヒットの要因に取上げてみてもいいのでは と思える。

 Wikipediaで引いてみたら、

 佐伯泰英 1942年2月14日北九州市生まれ。小説家。写真家。日本大学芸術学部映画学科卒。1971年より74年までスペインに滞
在。のち、スペインを題材にしたノンフィクション『闘牛士エル・コルドベス 1969年の叛乱』『闘牛士はなぜ殺されるか』、小説『ゲルニカ
に死す』を発表。冒険小説や、国際謀略小説を書く。とある。

 タイトルは聞いたことがあったが、読んだことはなかった。時代物以前は売れなかったらしい。

 1999年、初の時代小説『瑠璃の寺』を発表後、「密名」シリーズをはじめ人気シリーズをかかえ、ハイペースで作品を発表する人気時
代小説作家となる。小説の主人公には、豊後の小藩出身者が多いのが特徴。「密名」の金杉惣三郎は豊後 相良藩、「居眠り磐音」

の坂崎磐音は豊後 関前藩、「吉原裏同心」の神守幹次郎は豊後 岡藩出身となっている。2007年7月より、NHK木曜時代劇枠で
「陽炎の辻〜居眠り磐音 江戸双紙」がドラマ化されるそうだ。

 早速、最初のシリーズもの「密名」祥伝社文庫@〜B、「居眠り磐音 江戸双紙」双葉文庫@〜A(これが一番巻数があり、二十数
巻出ている。奥付を見てまたびっくり。四十二刷! NHKがドラマ化するのもうなづける)、「吉原裏同心」ケイブンシャ文庫  @、「鎌
倉河岸捕物控」ハルキ文庫@ を買い込んで読み始めてみた。

 個別にストーリーは紹介しないが、基本的には、とにかくムチャクチャ強いが人品の良い侍(あるいはご用聞き)が主人公である。

 彼らは、過去の影や宿命のような物を引きずりつつ、主君や自分に忠実に、前を向いて歩こうと決意している。そんな主人公に好意
を持つ連中が、仲間、同志、後援者になり、一種のファミリーを形成している。

 「仲間」は、長屋の若い衆から、大店の商人、大名、条廻り同心、吉原の花魁など、物語によってさまざまで、時に本筋の物語からは
ずれ、こうした「仲間」の人生に踏み込んだりもする。ゆったりとしたホームドラマ的な展開の中、要所要所、ここぞとばかりに、切れの
いいチャンバラ場面が入るのである。

 読ませる工夫が凝らされていてテンポがいい。全体の雰囲気は明るく、ユーモアもある。現代を思わせるような抗争や騒動、それに
人情、秘剣かがからみ、エンターティンメント(「密名」B第五章の合戦深川冬木ヶ原は、まさに圧巻!)、艶話も随所にある。食べ物、
礼儀作法、趣味などの江戸の市井の暮らしぶりも実に生き生きと描かれて、想像力を刺激する魅力がある。手紙の遣い方やきめ細
かな気配り、根回しの仕方などは、現代のビジネスにも通じ、すぐに役立つ。

 はまった。もうやみつきである。これでしばらくは寝床本に困らない。

 特に、「密名」シリーズ、「居眠り磐音 江戸双紙」シリーズがいい。是非、1巻目からの通読をお勧めする。が、夏休み、寝苦しい寝
床でつい読み耽ってしまい、寝不足にならぬようご注意申し上げる。


トップへ
トップへ
戻る
戻る