戦後60年。戦争ものがくる


 1945年。日本は4年続いた第2次世界大戦、いわゆる太平洋戦争に敗北し、多くのものを失いました。今年は、“敗戦”後60年。戦争
が多く語られる年になるでしよう。

 今回ご紹介するのは、その中でも特にお勧めしたい一作
 福井 晴敏「終戦のローレライ」  講談社刊  上巻 1700円、下巻1900円 ※発表は2002年の暮れですが、昨年末の「このミス」
ベスト10に入りましたね。

 福井晴敏は1968年東京都生まれ。千葉商科大学中退。1998年、『Twelve Y.O.』で第四十四回江戸川乱歩賞を受賞して小説家デビ
ュー。1999年『亡国のイージス』で日本推理作家協会賞、日本冒険小説協会大賞、大薮春彦賞をトリプル受賞しています。

 1945年8月、ドイツ降伏後日本海軍に収容された戦利潜水艦「伊507」。海軍軍令部作戦課長の浅倉大佐は、この艦の艦長に、かつ
ての名艦長で現在は閑職に回されていた絹見少佐を任命。原子爆弾を積んだ敵輸送艦を撃沈する
ミッションを与えた。

 一方、回天特別攻撃隊(特攻)に所属していた19歳の折笠征人も、その能力を買われ伊507の乗組員に選ばれるが、特攻を非合理
的作戦として認めない絹見に反発する。

 軍属技師として乗艦している高須によれば、伊507にはドイツ軍が開発した特殊兵器「ローレライ・システム」が搭載されているとのこ
とだが、その全貌は高須にしか知らされていなかった。

 アメリカ海軍の執拗な追跡と攻撃の中、艦内で叛乱が勃発する。

 時を同じくして、広島と長崎に原爆が投下される……そして3発目の原爆を積んだB-29が、既に南太平洋上のテニアン島で出撃準
備をしていた。その出撃阻止のため、絹見艦長と折笠たちは、テニアン島に向けて艦を進める。

 生き続けることに人々が絶望していた時代、生きる希望を求め、ローレライ・システムを搭載した伊507が自らを押し包む歴史に対し
て、今、戦いを始める。

 ローレライ・システムとは何か?
 浅倉大佐の狙う日本再生とは?
 絹見に与えられたミッションの真の目的は?
 かくして戦史には残っていない、日本海軍最後の戦いが始まった……。

 著者は、彼らの生死をかけた生き様や心理描写を通して、国家や民族について、また、日本人とは何か、そしてあの戦争は何だっ
たのかを問いかけ続けます。ナチスドイツの生命の泉計画からアメリカの日系人排斥という史実も織り交ぜ、国家や民族、日本人と
は何かを繰り返して語りながら,絶望的な旅を続ける潜水艦はすでに確定した歴史に抗い、未来を修正するために終焉に向かいま
す。

 「亡国のイージス」同様、重いテーマを根底に持った作品の上に、本文は2段組、2000枚近い大作なのですが、ローレライのアイデア
といい,周到に組上げられたプロットといい、魅力的な登場人物とその緻密な描写といい、すべてがエンターティメント性にあふれ、読
み手に重さを感じさせません。

 とりわけ「ローレライシステム」は独創的で、いかにもナチのSSが考え出しそうな悪魔的なアイディアである上に,ヒロイックで何とも
泣かせます。

 実はこの作品、今年「ガメラ」シリーズの特撮監督、樋口真嗣監督がメガホンをとり、役所広司、妻夫木聡主演で映画化されます。製
作はフジテレビと東宝。総製作費12億円という大作。もともとこの原作は映画好きの福井さんが「自分が観たくなる映画の原作を書き
たい」 と樋口監督と共同でストーリーを考案したものだそうです。

 ハリウッドでは「クリムゾン・タイド」「レッド・オクトーバーを追え」や「K−19」など潜水艦ものは珍しくありませんが、日本映画では、
昭和34年の「潜水艦イ−57降伏せず」以来実に46年ぶり。楽しみです。

  蘊蓄野郎が蛇足のもう一冊。

 梅原 克文 「ソリトンの悪魔」 朝日ソノラマ 上巻 980円  下巻950円

 1995年発表のこの作品、SF海洋アドベンチャーの傑作ですが、登場する潜水艦に搭載され「ホロフォニクス・ソナー」のアイディア
は、ローレライに影響を与えたのでは と思えます。比較のご一読をお薦めします。

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