吸血鬼の時代?


 この夏「ヴァン・ヘルシング」という映画が話題になりました。

 もともとは19世紀にイギリスで発表された、ブラム・ストーカーの「吸血鬼ドラキュラ」の登場人物で、ドラキュラを追いつめ滅ぼすヴァ
ン・ヘルシング教授がモデルですが、映画では、記憶を失った堕天使ガブリエルの仮の姿がヘルシングで、ローマ教皇の命で世界の
モンスター退治をしているという、すんごい設定。

 狼男がドラキュラの天敵だったり、フランケンシュタインを創らせたのがドラキュラ伯爵だったりとモンスターのオールスターキャスト! 
何でもありのアドベンチャー映画になっていました。

 映画の影響でもないでしょうが、最近「吸血鬼」をテーマにした新刊が多く出ています。その中から今回はちょっと異色の吸血鬼もの
を2冊ご紹介しましょう。「えーっ きゅうけつきぃ」とおっしゃらずに、だまされたと思って手に取ってみてください。

 まず、以前にご紹介した真保裕一の最新刊 「真夜中の神話」文藝春秋刊 1700円。日本の冒険ハードボイルドミステリーの旗手で
ある著者が、吸血鬼? と疑うなかれ。この方、期待は裏切りません。

 男っぽい主人公の作品が多い真保さんですが、本書はなんとヒロイン小説です。

 アニマルセラピーの研究に打ち込む主人公 栂原(つがはら)明子は夫と娘を亡くし、自責の念にかられている。傷心も癒やせずイル
カとの触れ合い療法の研究でインドネシアに向かうが、飛行機が墜落。九死に一生を得て、墜落地カリマンタン島の山間の村カヤンク
ライで不思議な少女の歌を聴き、奇跡的な回復を遂げる。その村は吸血鬼伝説の村だった。なんとわくわくする導入部。

 一方首都ジャカルタでは胸を杭で刺し貫かれ、首を切り落とされる連続殺人が。

 地元のベテラン刑事(これがいつもの新保作品の小役人キャラ)が捜査にあたるが、明子と同様に被害者もカリマンタンの村で奇跡
的な治癒体験をしていたことが分かる。

 吸血鬼伝説の村にまつわる猟期殺人のなぞ解きに加えて、伝奇ものの様相も呈する前半部の途中で作者は、重要な役回りの登場
人物であり、西洋文化を代表するキリスト教徒 ダーマン神父に、吸血鬼伝説の新解釈を語らせます。異教徒との接触、土葬の習
慣、血液の神聖視、そして輸血の治療法。単なる伝奇SF的な処理でなく、科学的な新解釈を組み入れ、「へぇ」と言わせておいて一気
に読ませるのは流石。

 後半は打って変わってコウモリを使った動物パニックから追跡活劇。フーダニット(犯人当て)を絡めた大どんでん返しまで、読者を飽
きさせません。

 本書は、初期の“小役人”シリーズやボーダーラインなどの探偵ハードボイルド物、ホワイトアウトに代表されるヒューマンアドベンチ
ャーなどの枠組みを越えた、新たな伝奇エンターティメントといえるでしょう。

 本書を読んでいるうちに、あれ、この感覚はどこかで?! と気づいたら、伝奇SFの開拓者半村良さんのそれでした。

 代表作『石の血脈』では不老不死が得られる病原菌を持った吸血鬼と人狼が登場しますし、『産霊山秘録』では「ヒの一族」というミュ
ータント一族。『黄金伝説』では、原爆によってできた2倍の染色体を持つ「超人類」。そして『妖星伝』の「鬼道衆」。このように偏った血
を持つ一族の伝説が数多く登場し「伝染病を持ってる奴が実は王者なんだ」という負の逆転発想で物語を創造してゆく。

 「雨やどり」で直木賞もとっている半村さんの伝奇ものは日本のSF界に大きな影響を与え、「八十八夜物語」などのヒロインものも秀
逸です。半村さんは残念ながら2002年に亡くなりました。合掌。

 さて、吸血鬼物もう一冊は、小林泰三(こばやし やすみ)「ネフィリム 超吸血幻想譚」角川書店 1600円。こちらは正統派のハード・
SF・アクション・ホラーでちょっと好みは分かれると思います。

 吸血鬼最強と怖れられたが、少女ミカとの約束で自ら血を吸うことを禁じた吸血鬼ヨブ。娘と妻を殺された復習のため、吸血鬼退治
に命を懸ける人間ランドルフ。吸血鬼と人類の天敵、己の肉体に吸血鬼の臓器を収め、更に強力なものへ進化を遂げる追跡者・J。
三つ巴の戦いが炸裂する。

 小林泰三は1962年京都府生まれ。大阪大学工学部卒業後三洋電気期に入社。現在もニューマテリアル研究所という所で、移動通
信デバイスの開発に従事しているそうです。

 1995年「玩具修理者」で第2回日本ホラー小説大賞を受賞。他に「人獣細工」「肉食屋敷」など、先端科学知識とグロテスクなホラー
描写の融合したモダンホラーの鬼才。科学的な観点からオカルトを描く作家で、この『ネフィリム 』では人類が吸血鬼と科学的に戦う
姿が描かれており、吸血鬼そのものも科学的に分析されています。
 
 書き下ろしのこの作品、映画「ブレイド」を彷彿させますが、ヨブやランドルフ以外のキャラはあまり立っていないし、文体は月並みで
他の作品に比べると少々見劣りしますが、その分読みやすいかも。本作でもまだ解明されていない謎の部分を残しており、連作で問
題を解決してくれるでしよう。

 対極ともいえるこの2作品。比べ読みの価値ありです。


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