どんぴしゃの若いヤツに読ませたい本


  ユージニア、私のユージニア。
  私はあなたと巡りあうために、
  ずっと一人で旅を続けてきた。
  遠い夜明けに震えた日々も、
  今日で終わりを告げる。
  これからは永遠に、私たちは一緒。
  私の唇に浮かぶ歌も、
  朝の森で私の靴が踏み潰す虫たちも、
  絶え間なく血を送り出す私の小さな心臓も、
  全てをあなたに捧げよう。

  謎めいた一辺の綴じ込みから始まる魅惑のミステリー。今回ご紹介するのは恩田 陸「ユージニア」角川書店 1785円です。

  あの夏、青沢家で催された米寿を祝う席で、 十七人が毒殺された。ある男の遺書によって、一応の解決をみたはずの事件。町の
記憶の底に埋もれた大量殺人事件が、年月を経てさまざまな視点から再構成されてゆく。

  ある夏に起こった大量毒殺事件。それにに関わった人たちがインタビューに 答え、事件について語る回想録のような形で物語は進
みます。それぞれが主観的に、個々の視点や記憶で語る過去の事件。曖昧な記憶の積み重ねから微妙にずれてくる全体像。たまた
ま出会った長い長い夏。年月を経てまた夏に謎を追う人達が、ループを描くように一夏から抜け出せない。そんな熱帯夜のような粘っ
こい空間からあなたも抜け出せなくなります。

 恩田 陸さんは1964(昭和39)年、宮城県生れ。早稲田大学卒。
 1992年、日本ファンタジーノベル大賞の最終候補作となった『六番目の小夜子』でデビュー。ホラー、SF、ミステリーなど、さまざまなタ
イプの小説を次々に発表しています。この方も仙台在住です。
 今年2005(平成17)年、『夜のピクニック』で第26回吉川英治文学新人賞受賞。この『夜のピクニック』は2005年の本屋大賞も受賞しま
した。

  さて、この「ユージニア」。文体は比較的清涼で、淡々と進みますが、気がつくと、畳みかけるような展開に引き込まれて抜け出せな
くなります。

  加えて見事なのは装丁。以前にご紹介した祖父江慎さんの作品です。手に取ってまず表紙の裏をご覧ください。物語の長い夏の夜
が正にそこにあります。表紙をめくると、ストーリーの重要なファクターとなる紙片がとじ込まれ、すでにそこは物語のプロローグ。読み
手をつかんで放しません。

  ページをめくれば目に入るのは妙齢なフォント。普通の明朝ではなく、ややくずして斜めにも見えます。ページめくるたびに快感を覚
えるような不思議な魅力がこの本にはあります。是非ご一読を。

  もう一冊同じく恩田 陸「夜のピクニツク」新潮社 1600円本当はこちらを今回メインでご紹介しようと思っていたのですが、新刊の
「ユージンア」があまりに素晴らしく、逆転してしまいました。

  この作品、とにかくノスタルジックでリリカルで、いつまでも浸っていたいと思える青春小説です。若い頃にこの本に出会っていたら、
ほんの少し違った行動ができていたかもしれないと思わせてくれます。このコラムの趣旨からすればどんぴしゃの「若いヤツに読ませ
たい本」です。
 
 この2冊この春おすすめです。

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