村山チェック


@CSOという役職

 ハーバードビジネスレビュー4月号で、CSOという役職が紹介されている。CSOとは、「Chief Strategy Officer」の略で、日本語に訳す
と、「最高戦略責任者」ということになる。

 仕事としては、CEOがやっていた戦略の立案・実行を専任で受け持つこと。

 戦略の実行はCEOの大切な仕事であったが、組織構造の複雑化、加速するグローバリゼーション、新たな規制、イノベーションの生
みの苦しみなど、戦略と同じくらい重要な分野の重みが増し、戦略とともにそれら、すべてをCEOが掌握することが不可能になってき
たことが、CSO登場の背景だそうである。

 この意味ではCSOとは、ミニCEOとして組織が直面している課題に、CEOのような広い視点を持って対処する役回りと言えそうだ。

 CSOの出自をみると、キャリアの大半を戦略プランニングに費やしていたものが多い。そこから自身で戦略立案もできて、かつそれ
らの実行も統制・管理できる能力が必要だと推察できる。

 自身で考えてみると、私もプランニングを長くやって、マーケティングの長としてCEOに仕えたことがあった。そのCEOは、商品開発か
ら営業、資金調達から海外を含めた外部との折衝、新規事業の創出など、ありとあらゆることを手掛け、とても多忙であった。

 そのCEOから商品に限定してはいたが、マーケティングの全権を委ねられた時、彼は、「俺の代わりにずっと商品のことを考えてくれ
るヤツ(私のこと)が見つかって本当にうれしい」と言っていた。

 このCSOの記事を読んだ時、当時のこの話を思い出した。CEOとは、かくも忙しいもので、できれば戦略的な問題は誰か信用のでき
る人間に委ねたいのだろう。

 とすれば今後この役職のニーズは高まることが予想される。コンサルタントやマーケターが、COOやCFO、CIOになるケースが日本
ではあまりなかったように思うが、このCSOという役職は彼らにぴったりの役職だと思う。

 関連者はぜひこの役職を勉強し、マークして欲しい。

Aマイクロトレンド

 同名の書籍が4月の終わりごろから書店に並びだし、よくあるタイプのギミック本と思っていたが、版元のNHK出版と監修の三浦展
氏が気になって買ってみた。

 そして、帯を読んでみると、「メガトレンドはもはや存在せず、現代においては1%の大きな力を見つけることが成功に寄与する」とあっ
た。これには私も大賛成なので、中身を読んでみることにした。

 翻訳本なので事例はアメリカなのだが、それを三浦氏が日本の場合にあてはめている。本書での三浦氏の役割は、どうやらローカ
ライズらしい。

 それを見て、おもしろいと思ったものを列挙する(日本市場)。

・シングル女性は180万世帯→今後中古住宅流通がよくなるが、その時はこのターゲットが有望だと三浦氏は言う。合点。

・富裕層は車に乗らない→子供のいない夫婦や未婚の富裕層で都内に住む人は車を持っていない。エコ意識も価値観の変化を招い
たのではとのこと。

・結婚は「電縁」→かつては職縁結婚が多かったが、これが減少して婚姻件数が減少しているらしい。そしてこれに代わるのが「電
縁」。つまり、インターネットを介しての出会いという訳だ。考えてみたら私の身近にも一組いた。昔だったら信じられないが、これはマ
ーケットとなるだろう。

・昼寝市場→日中のサラリーマンが、眠気覚ましに足裏マッサージなどに通う。確かに昔から、サウナのような昼寝場所はあった。こ
れがマッサージや個室カフェ、各種クリニックに拡大している。ただし昔に比べて短時間なのが特徴。

・下流は太る→三浦氏の調査によると、30〜34才男性では、年収が低い人ほど肥満が多いそう。こういう人ほど安くてカロリーの高い
食品をたくさん食べているからだそう。

 現代のような商品寿命の早い社会では、上記のようなミクロな動きをすばやく捉えて、そのマーケットを制することが大切である。

 最近私がやっている仕事でも、ニッチというのではなく、明確な動機に基づいて行動している少数を見つけ、そこにすばやく火をつ
け、大衆に飛び火することを狙っている。

 その意味でマイクロトレンドをいち早く見つけることが、成功への早道のように思う。

BPBPマップ

 ハーバードビジネスレビュー7月号で紹介されているPBPマップ(価格/便益ポジショニングマップ)は効果がありそうだ。これは価格と
製品の便益の関係を、時間軸に沿って追跡することを可能にするポジショニングの方法である。

 著者のリチャードA.ダベニー、ダートマス大学教授は、競争の激しい市場に身を置いている企業が、自社と他社のポジショニングを
体系的に分析するのに、このポジショニングマップが奏功すると言う。

 具体的には、顧客が重視する便益を正確に突き止め、市場の空白や競争の少ないスペースを見つけ、主たる便益と価格の関係の
変化によってもたらされるチェンスを特定し、同時にライバルの戦略を予測することもできる。

 ここで紹介されている携帯電話市場やiPODのPBPマップを見ると、確かに効果的であることが分かる。

 ポシジョニングマップという手法はずいぶん前に流行したが、軸設定が主観的で今ひとつ説得力を欠いたり、細分化が限界に達し、
マップ上に空きがなくなったりして、あまり使われなくなったように思う。

 一方このPBPマップは、価格と便益という明確な2軸で規定するため、価格は明確に特定できるし、便益も調査から特定できることか
ら、かなり客観的、かつ科学的だと言える。

 便益をパラメーターにしているというのも、現代のような消費に意味が重要な時代においては至当である。

 私としては、緻密な調査からPBPマップを作るというのもいいが、自分が解釈するいろいろな便益を置いてみて、価格との関係を見
ながら、最適な参入どころはどこかを考えるツールとしても効果的なように思う。ぜひとも試してみたい理論である。

Cエスノメソドロジーと体験的認知

 「デザイン思考の道具箱(早川書房)奥出直人」「知識デザイン企業(日本経済新聞出版社)紺野登」の2冊で言われていることが、い
ずれもデザイン発想、フィールドワーク発想が重要であり、それがiPOD/アップルのようなすばらしい商品、企業を生んだとしていること
で共通している。

 前者はエスノメソドロジーを紹介し、著者の奥出慶應義塾大学教授はそれを商品開発に生かしているとのこと。氏は教授だけでな
く、その理論を生かして自身の会社で商品を開発しているそうだ。

 エスノメソドロジーでは、人と人の相互行為を重視し、参与観察(リサーチする対象となる人たちとともに時間を過ごし、彼らの世界を
知ること)が重要となるそう。これによって、一見何の変哲もないように見える日常から、それを成り立たせている非常に複雑な事柄を
巧みに処理する能力を発見する。

 そのために、フローモデル→シークエンスモデル→アーティファクトモデル→文化モデル→物理モデルという流れで、フィールドワーク
をしているそうだ。

 簡単に意訳すると、あるテーマの全体のフローを把握した上で、その時系列での連続性を把握する。そして実際のテーマ物と対峙
し、その意味を解釈し、そこに存在する文化性を解釈し、最後に物理環境を把握する。

 このようなフィールドワークの中から、読み取れた文脈を利用して、商品開発などの創造的行為に移るそうだ。

 また後者の本では体験的認知という言葉が使われているが、観察を出発点として、形態や概念をプロトタイピングする方法論は、前
者と似たアプローチに思える。

 ここで例示されているものがおもしろく、「左利きの人の身になる」「ルールを破る人をみつける」「名詞ではなく動詞で考える」「イノベ
ーションを半分だけ取り入れる」というもの。

 こういうユニークな理解力と観察眼を養うことがイノベーションの原動力になるのだそうだ。また、形や色、構図といった審美的なもの
よりも、日常や現場に潜む、私たちが普段慣れ親しんだやり方を全く新しい観点から変えていくことが重要だそうだ。

 商品開発の先端は、もはや形態の差別化合戦ではなく、ユニークな意味の探索合戦になっている。意味をインタンジブルなものと言
い換えてもいいだろう。

Dマッキンゼー流ブレーンストーミング術

ハーバード・ビジネス・レビュー8月号の、このブレーンストーミングの記事には深く納得した。特に、質問の内容を絞り込むといいという
指摘はなるほどと思った。

ブレーンストーミングは集合知を表出させる方法としてすばらしいと思うが、構成員の質のばらつきやファシリテーターの能力などが問
題となり、なかなかうまく実施するのが難しい。

それを質問でコントロールするのだそう。

例えば「ローラーブレード、ハーゲンダッツ、スパイダーマンに共通するものは何か」と質問すれば、事業コンセプトが同じ→子供が大
好きなものを大人向けの高級なものに作り替えていると答えることができる。

なぜこういう方法を思いついたかというと、当時シカゴ大学の教授だった心理学者のミハイ・チクセントミハイの研究に出会ったからだ
そう。そこでの結論は、適切な質問をすればアイデアが流れるように出てくるというものであった。

これをこの記事では21の質問としてP59に掲載しているが、興味のある人はこれを見ていただくとして、その6つの表題を引用する。

「平均像と異なる購買者とユーザーを特定する」
「足かせとなっている制約を検証する」
「予想外の成功を見つける」
「完璧な状態を想像する」
「自社ビジネスの境界の外側に注目する」
「プロセスと製品の前提条件を見直す」

一見して分かるように、「例外」を重視する姿勢であり、これは最近私が利用しているナラティブ・アプローチと共通する。

ただし21の質問として、ここまで具体化しているものではないので、今後はこれを参考にさせてもらい、ブレーンストーミングにとどまら
ず、各種セッションに適用したいと思っている。

E価格戦略

スタッグフレーションと言われているが、そのせいだろうか、日経産業には価格戦略をうまくやっている企業の例を紹介する記事が多
い。

ゆえに私も最近かなり価格戦略について論じることが多くなっている。

そこで重宝しているのが、学習院大学の上田隆穂教授著の3冊。

「価格決定のマーケティング(有斐閣)」
「ケースで学ぶ価格戦略・入門(有斐閣)」
「日本一わかりやすい価格決定戦略(明日香出版社)」

特に最後の本は、分かりにくい価格戦略を平易に、そして事例たっぷりに解説してくれる。

サイモンとトバスキーが提唱するトレードオフ・コントラストは、消費者がブランドを選ぶ際、ブランドのどの特徴を強く認識するかで選ぶ
結果が変わることを説くもの。

これをさらにバックグラウンド・コントラストとローカル・コントラストに発展させて分かりやすく説明している。前者は過去をひきずるケー
ス、後者はその場で反応してしまう場合だが、価格決定にとても役に立つ。

また記事でも何度か紹介したカーネマンとトバスキーのプロスペクト理論も分かりやすい。

また価格を考える時の調査として有名な、コンジョイント分析やPSM法なども分かりやすく解説してある。

出色なのは、テリスのプライシング戦略のくだり。テリスの9つの分類は以前も何度か見たことはあるが、どうもピンとこなかった。これ
を詳述しているので、分かりやすく、実際に使いやすい。

どれも新しい本ではないが、今の局面だからこそ、大変参考になる。今後もこれを参照して原稿を書いていくつもりなので、興味のあ
る方はぜひ読んでいただきたい。

Fマーケット・チャレンジャーの戦略

今年の4月に改定されたコトラーのマーケティング・マネジメント第12版を読んだ。ブランドで有名なケビン・レーン・ケラーを迎えての新
版は期待通りのものだった。

新たなテーマはホリスティック・マーケティングであり、確かに読みごたえがある。しかし私が改めて注目したのは、第11章の競争への
対処であった。

マーケティング原理第9版で紹介されている当該部分がより詳解されている。例えば改めて感銘を受けたマーケット・チャレンジャーの
戦略は、私が今までやってきたことを裏づけ、今後マーケット・チャレンジャーの戦略を考えるうえでの貴重なレジュメとなると思う。

チャレンジャーの戦略目的は、「マーケット・リーダーを攻撃する」「規模が自社と同程度で、仕事ぶりが芳しくなく、財源が不足している
企業を攻撃する」「小規模な地方企業を攻撃する」であるが、これに対しての戦略を「正面攻撃」「側面攻撃」「包囲攻撃」「迂回攻撃」
「ゲリラ攻撃」と規定し、その内容を事例とともに詳解している。

さらに、「価格割引」「廉価品」「高価値低価格品とサービス」「高級品」「製品増殖」「製品イノベーション」「サービス向上」「流通イノベー
ション」「製造コストの削減」「広告プロモーションの強化」という具体的な攻撃戦略も提示されている。

特にこの具体の部分は、かつてお世話になった「筆王」というPCソフトでやったことと重なるので驚いた(もちろんすべて私が提案した
訳ではないが)。

「廉価品」は、PCにバンドル版を提供したり、ムック展開を図ったりした。一見これら代替品への移行を招きそうだが、結局筆王本体
への購買につながった。

「製品増殖」は、筆王と関連商品とのバンドル(例えばデジカメソフト)で行った。これがラインナップとなって、店頭のフェイス取りや利益
率アップにつながった。

「製品イノベーション」は、「かんたんNO1」を標榜する以上、ユーザーインターフェイスの簡便化や他同梱ソフトとの連動など、いろいろ
と行った。

「サービス向上」は、3が日のユーザーサポートという画期的なサービスとして結実した。

「広告プロモーションの強化」は、わずか3か月しか商戦がない商品なのに、多額のコストをかけて展開し、大きな話題作りに成功し
た。

このように、ここで言われていることは現実に行って成功したことと一致する。当時はこの具体的戦略に基づいて考え、実行したので
はないが、今後はこれをバイブルとして、チャレンジャー商品を担当させていただいた時は必ず使おうと決めた。

Gキュービック・グランド・ストラテジー

最近「戦略学(ダイヤモンド社)菊澤研宗著」が出た。戦略というテーマは私が強く関心を持ってきたものなのでさっそく読んでみたが、と
ても新しい視点が提示されていた。

結論から言うと、ポーターを代表とする戦略論は物理的社会を対象とし、力と力の戦いを説いている。が、それ以外の要素=心理的世
界、知性的世界も等しく重要であり、これら三次元的世界観に基づいて戦略を考える必要があると本書は主張する。

この主張のひとつの背景は、イギリスのバジル・リデル・ハートの主張である。彼は、物理的世界を前提にして展開されるハード戦略
に加えて、人間の心理的世界を前提として展開されるソフト戦略が必要であることを説いた。

このソフト戦略の具体論として、本書ではプロスペクト理論や心理会計効果が説明されている。

実例として、ペプシがブラインドで試飲調査をやり、コカ・コーラだと思ったものが実はペプシだったという内容のテレビCMを挙げ、それ
が高い心理効果を発揮したことを紹介している。当時のアメリカではこの心理アプローチが奏功し、わずか4%だったペプシのシェアは
14%まで上昇したそうだ。

次にこの主張のふたつ目の背景は、イギリスの科学哲学者カール・ライムント・ポパーが主張した知性的世界である。ここでは取引コ
スト理論が紹介され、会計的に計測しにくい取引コストが人間の経済に大きく影響することを紹介している。

ここでは有名な任天堂とソニー(プレイステーション)の例を引き、物理的世界(ハード)に傾注した任天堂に対して、サード・パーティーや
ユーザーが負担する取引コストに着目したソニーが成功したことを説明している。

有名な事例であるが、サード・パーティーやユーザーへの施策を取引コストという視点から説明しているのがとても興味深かった。

最後に著者は、世界は物理的世界、心理的世界、知性的世界から構成されていて、それゆえに戦略も立体的に組み立て、包括的に
実行すべきだと説く。そしてこれをキュービック・グランド・ストラテジーと呼んでいる。

この具体的事例が実際の戦争を引いてあったので、ビジネス、マーケティングに実際にどのように適応されるかがイメージできなかっ
たが、物理的世界だけでなく、心理、知性も加味して戦略を立案すべきという主張は大変参考になった。

Hワーク・ライフ・バランスの実践法

ハーバード・ビジネス・レビュー10月号のワーク・ライフ・バランスの実践法という論文がおもしろい。

著者はアル・ゴアやジャック・ウェルチのアドバイザーを務めたスチュワートD.フリードマンだが、氏はトータル・リーダーシッププログラ
ムを実践すれば、「仕事」「家庭」「地域社会」「自分自身」の4領域全てにおいて成功できるという。

4領域の勝利のためには、自分に対してできる実験をやればいいそう。それを本稿では、9つのカテゴリーで紹介している。

1.記録と内省→例えば、1日で何かに没頭している時間帯とけだるい時間帯を記録してみる。
2.計画と準備→例えばスケジュールを誰かと共有する。
3.回復と充電→例えば喫煙や飲酒などをやめる。ヨガや瞑想など、情緒面や精神面を改善する活動をする。
4.感謝と配慮→例えば1か月のうち1日は地域奉仕活動に参加する。
5.集中と専念→例えば決まった時間にデジタル機器の通信環境を遮断する。メールチェックを決めた回数だけにする。
6.開放と関与→例えば将来構想を他者に話す。新入社員を指導したり、アドバイスしたりする。
7.時間変更と再配置→例えば柔軟性を高めるために、遠隔勤務、またはフレックスタイムで働く。
8.委任と育成→例えば個人用の秘書を雇う。この目的は、自分と他者のスキルを開発するように仕事を再配分すること。
9.探索と挑戦→例えば新しい仕事を引き受ける。

このような方法で可能性を探り、自分をちょっと変えると、結果的に仕事、家庭、地域社会、自分にプラスに作用するものが見つかり
やすくなるという。

私としては5.集中と専念はやってみたいと思った。以前ネット環境が全くないところに2週間こもっていたら、全く異なる次元の企画が思
い浮かんだり、ネットの新しい価値に気づいたりした経験があるからだ。

全方位で生活しがちだが、集中と専念を意識して、新たな価値を模索することは重要だと感じた。

7.時間変更と再配置と9.探索と挑戦は意識してやっているので合点がいった。意外な時間に意外な仕事を組み合わせてみると、実に
はかどることがある。例えば21時頃に水泳に出かけ、ほどよい疲れの中でアイデアを考えると情緒的に優れたものが出る。

また新しい仕事に挑戦すると、思ってもみない知識や能力が手に入ることがある。例えば全くやったことがなかった不動産関連の仕事
をいただいたら、今まで考えたこともないビジネスモデルがいろいろと浮かんだ。

自分を、科学的な根拠を持って変革する。そういうことをやってみようと思う人にはこの論文をお勧めしたい。

I心の家計簿

プロスペクト理論の価値関数を応用した理論として、リチャード・セイラーが提唱した「心の家計簿」という考え方がおもしろい。

ここではここのところよく紹介している「戦略学(ダイヤモンド社)菊澤研宗著」の説明を引用し、簡単にまとめてみる。

さて、2つの買い物をする消費者の4つのケースを考えてみる。

@予想外の利益と予想外の利益が発生する(+・+)
A予想外の小さな損失と予想外の大きな利益が発生する(−・+)
B予想外の大きな損失と予想外の小さな利益が発生する(−・+)
C予想外の損失と予想外の損失が発生する(−・−)

このふたつの買い物を統合して処理するか(統合勘定)、分離して処理するか(分離勘定)で心理的価値が変わるというのがこの理論
だ。

@は、同じ店で洋服を2着買うより、別々の店で2着買う方が特に感じる。例えばテレホンショッピングで、今すぐ電話をもらえばおまけ
がつくと言われると、商品とおまけを別々に考え、買いたくなるという。つまり、この場合は分離勘定の方がいい。

Aは、あるサラリーマンが50万円のボーナスで、25万円でドル、25万円でユーロを買ったとして、ドルは値下がりし24万円になり、ユー
ロはあがって30万円になったとする。こうすると換金して、54万円として保有したくなる。つまり、この場合は統合勘定がいい。

Bは、バーゲンセールで初めから値引きした価格(大きな損失と小さな利益を一緒にする)よりも、元値に線を引いて割引価格を書い
たもの(大きな損失と小さな利益が別)の方が効果的。つまり、分離勘定の方がいい。

Cは、200万円の自動車を買う時に、10万円のカーナビをつけても気にならない。つまり、この場合は統合勘定がいい。

これを見て、特にAとCが効果的だと私は感じた。販売戦略を組む時、Aを利用すれば定額課金にした方がいいということが分かる
し、Cを利用すれば、オプションやバンドル販売が効果的なことが分かる。

「戦略学」の著者の言葉を借りれば、人間には物理的世界だけでなく、それとは別の心理的世界があり、これも経済行動に大きく影響
するという訳だ。

J新規参入の必勝法

ハーバード・ビジネス・レビュー11月号に、新規参入の必勝法という論文がある。2007年5月が初出だというから、1年ちょっと経っては
いるが、とても参考になる内容だった。

結論から言うと、新規参入は間接攻撃がいいと言う。模倣やチャネルの奪い合い、競合のコア顧客をターゲットにしない。絶対敵陣内
に攻撃を仕掛けず、既存企業との真っ向勝負は避けるのがいいそうだ。

これで成功したのがレッドブルで、炭酸エネルギー飲料というニッチ商品を、コカ・コーラやペプシの2倍の価格で、当初はバーやナイト
クラブで売った。

これが奏功して、レッドブルを使ったカクテルは、ナイトクラブで夜通し踊り明かすためのカフェイン飲料として20代の若者に飲まれ大ヒ
ット。その後、小売チャネルに進出して成功したのだと言う。

さらにこの論文は、新規参入には3つの戦略があり、それを2種類以上組み合わせるといいと言う。その3つとは、

1.既存資産を活用する
2.バリューチェーンを再構成する
3.ニッチを開拓する

2.と1.の組み合わせで成功したのは、スカイプ。

インターネットを利用した低料金の通話サービスをインターネット、マイクロフォン、PCを利用して実現した=バリューチェーンを再構
築。

それを、PCを電話にする面倒やサービスの質の低下を気にしない、コスト感度の高い消費者をターゲットにして成功した=ニッチ。

1.と2.を組み合わせて成功したのは、ウォルマート。

清涼飲料市場の参入障壁を乗り越えるために、自社の流通システム=既存資産を活用して、カナダのコット・コーポレーションの製造
機能を組み合わせて、バリューチェーンを再構築して成功した。

1.と3.を組み合わせて成功したのは、トイザらス。

知名度と出店地、不動産関係者との関係、独自の在庫管理と流通機能という既存資産を利用して、子供服市場というニッチに進出し
て成功した。これはユニクロが同じく、ベビー服に進出して成功したのと似ている。

世は未曾有の不況。こういう時、大手は疲弊するが、逆にベンチャーが伸びてくる時。あるいは企業内の起業。いずれにせよ、新規市
場に打って出る訳だが、そういう時、この論文はとても参考になると思う。

Kマーケティングをつくった人々

「マーケティングを作った人々(東洋経済)ローラ・メイザー、ルエラ・マイルズ著」を読んだ。確かに自称マーケティングおたくだが、この
ような偉人伝的な本はあまり読んだことがない。

それでも読んでみようと思ったのは、ここに収録されている顔ぶれによる。

大家としてコトラー、アーカー、ポジショニングの提唱者のアル・リース、ジャック・トラウト、IMCの提唱者のドン・シュルツ、ダイレクト・マ
ーケティングのレスター・ワンダーマンなどである。これだけ充実した顔ぶれを揃えるのは珍しい。

どれもおもしろかったが、特に印象に残ったのは、意外にもいちばんよく知っているフィリップ・コトラーの言葉だった。

コトラーは、マーケティングに秀でた企業とは革新を生み出し、新製品を世の中に送り出し、学習をできる企業だという。

そしてそういう企業は市場に対する新たな価値を具現化してみせることができる企業だともいう。

その例としてスターバックスとアップルを挙げているが、前者は、コーヒー店として成功したが、それにとどまらず、音楽を商品として扱
ったり、自社の商品をスーパーマーケットの棚に置いたり、また展開している国は何十にも及ぶという。

つまり、コーヒー店にとどまらず、スターバックスが実現したスターバックスらしさというブランドを、いろいろな商品・ビジネス・国に転用
して、その価値を具現化しているということだ。

またそれがひとつのカテゴリーやドメインに限られることなく、いろいろと展開されていることも特筆すべきことであろう。

また後者は、iPodをただ音楽を持ち運ぶ道具として世に出したのではなく、何千枚もの写真やビデオまで屋外に持ち出して楽しめるよ
うにしたという。

特に先行モデルがまだ売れているのにも関わらず、競合を出し抜くために自社製品とのカリバリゼーションも厭わずに新製品を投入
したことがすばらしいとコトラーは言う。

今までマーケティングのセオリーだと言われていたことを、そのタブーを犯して成功した企業がスターバックスとアップル。それをマーケ
ティングの大家であるコトラーが賞賛していることにびっくりした。

これは過去の自分の理論を、時代に合わせて次々に進化させてきたコトラーだからこそできること。いまさらながら、コトラーの偉大さ
を再認識したとともに、自分もそうありたいと強く思った。

L関係性マーケティング

私的マーケティングの原稿を書くために、久しぶりに「関係性マーケティングの構図(有斐閣)和田充夫著」を読み直してみた。すると、
2008年の今にあまりにも多くの示唆が含まれていることにびっくりした。

この本はいろいろなところで紹介するとともに、自分でも実践で使わせていただいている、私のバイブルである。

初版は1998年。本書を引用すると、「バブル経済が崩壊して早七年有余、株価が低迷し、円安傾向に歯止めがきかず、低金利・低経
済成長、失業者が200万人」とある。円安と円高の違いこそあれ、今とよく似ている。

これがたぶん、この本を読み直して使えると思った理由なのだと思う。つまり、時間差は10年あるが、遭遇している局面が酷似してい
るので、ここで提示されている戦略や戦術が今に当てはまる。

この本の1章の終わりに「差別化や市場細分化といったマーケティングにさえ限界が見え始めてきた。マネジリアル・マーケティングの
基礎概念をなす<交換のパラダイム>や<需要適合のマーケティング>に問題が生じ始めたのである」とある。

さらに「消費者が、流通が、そして社会が変化していくなかで、時代は<交換のパラダイム>から<関係性のパラダイム>へと移行しつつ
ある」ともある。

そして本書は、潜在需要保有者を前提にするのではなく、供給者と生活者双方が相互支援により需要を作っていくことが重要と説く。

確かに成熟/飽食の時代にあって、技術の進化によって商品・サービスはほぼ均一、それに加えて不況による心理効果も加われば、
「これが欲しい」と消費者が表明することをもはや期待できない。

ゆえに本書が言うように「供給業者の側からの生活者の消費プロセスへのコミットメントと供給者の側のインタラクティブなマインドが
必要」という主張は合点がいく。

この本で出色なのは、企業と顧客の関係作りのフレームである。これは「トライアル誘導装置」「リピート誘導装置」「リピート装置」の3
つからなるが、これを劇団四季の事例から説明するくだりは秀逸である。

また製品の属性を、「基本価値」「便宜価値」「感覚価値」「観念価値」の4つの価値から成立しているとし、機能や品質だけでなく、美的
価値の形態的側面(感覚価値)や意味的価値(観念価値)に言及しているところも大いに参考になる。

現在のような状況においては、再びブランド力の重要性が説かれると思うが、本書はその意味でも優れた示唆を与えてくれると思う。

Mロング・テールの嘘

ハーバード・ビジネス・レビュー12月号の「ロング・テールの嘘」という論文が刺激だ。

Web2.0がブームとなった頃、その要件のひとつとしてロング・テールという理論が入ってきた。

その理論の提唱者のクリス・アンダーソンによれば、「現在の消費者たちは自分の好みにより近い商品を探し出し、購入できる。彼ら
彼女らは没個性的なヒット商品から離れていく」

「従って、賢い企業はグロックバスター(特定の商品に集中してヒットを仕掛ける)に頼るのを止め、ロング・テール、すなわち、旧来のブ
リック・アンド・モルタル式の流通チャネルでは利益が出なかったニッチ商品から売り上げを上げることに焦点を絞るようになる」とのこ
とだった。

ところがこの論文の筆者であるアニタ・エルバースの調査によると、入手可能なマイナーな商品は日々確実に増えており、しっぱが長
く伸びていることは間違いないが、しっぽはきわめて細くなり、そこにあるのは顧客がつまみ食いする程度のタイトルばかりなのだそう
だ。

ゆえに、マイナー商品に焦点を当てるのは得策ではなく、ロング・テールから利益をあげるのは難しいと主張する。

根拠については数字に基づいて証明しているので、この論文を参照いただきたい。

さらにこの論文では作り手と売り手に8つのアドハイスをしている。

作り手は、
1.少数の勝者が繁栄を続ける。さらに今後はその傾向が高まる。
2.ニッチ商品のコストは可能な限り低く抑える。
3.デジタル・チャネルでの存在感を高めるには、最人気商品のマーケティングに重点を置く。
4.オンラインでの全体的な需要を押し上げるにもヒット商品が中心的な役割を果たす。

売り手は、
1.ヘビー・ユーザーへの商品提供を目標にするのなら、品揃えにニッチ商品を増やす。
2.たまにしか売れない商品のコストを厳密に管理する。
3.いちばんの人気商品を利用して顧客を獲得して管理する。
4.マイナー商品の利幅が大きくても、顧客の注目をロング・テールに頻繁に向けすぎないようにする。

この論文のオチが痛快で、ブロックバスターで売れたその書籍の名前こそ、クリス・アンダーソン「ロングテール」だったそうである。

Nランチェスター戦略

ランチェスター戦略。誰もが一度は聞いたことがある名前だと思う。

「ランチェスター思考(東洋経済)福田秀人著」によると、日本経済が高度成長から低成長へ移行し、販売競争が格段に激しくなった
1972年に、マーケティングコンサルタントの田岡信夫と社会統計学者の斧田太公望が、ランチェスター戦略モデル式をベースに開発し
た競争戦略論だそう。

もともとはロンドンの自動車工学・航空工学の研究者であるF.W.ランチェスターが、第一次大戦の際の航空機による空中戦を分析し、
兵力量と損害量の関係から発表した軍事法則であった。それを上記のふたりがマーケティングに応用したのである。

その基本は、
1.ナンバーワン主義
2.競争目標と攻撃目標の分離
3.一点集中主義
にあり、具体的には、
1.利益ではなく、マーケットシェアの拡大を追及
2.マーケットで2位以下の持続可能性を追求する、力の強弱に応じた競争戦略論
3.マーケットをセグメントし、ステップ・バイ・ステップで、より高い目標を段階的に達成し、トップを目指す
4.精神力の限界をわきまえ、過大な目標や努力を要求しない
5.力に応じた数値目標を設定した、類例のない競争戦略論
と前出の福田氏は述べる。

数年前までは、成熟期にある市場が多かったため、細分化戦略により、収益性を高める企業が多かった。そこからスケイラブルという
キーワードが生まれ、企業規模自体を大きくしないで、売り上げに対しての利益を追求する企業が目立った。

ところが福田氏によると、今日の市場は衰退期にあるものが多く、マーケットシェアの拡大以外に企業が持続可能性を高めることはで
きないという。ゆえに企業の利益極大化を追及する戦略論ではなく、マーケットシェア拡大により、持続可能性を高めるための戦略論
が相応しく、それこそがランチェスター戦略なのだそう。

そしてその本質は、衰退期に生き残る市場リーダーシップ戦略とニッチ戦略であるという。つまり、前者はマーケットシェアの拡大、後
者はマーケットのセグメントとそこでのNO1を目指すということを意味している。

ランチェスター戦略は、クープマンの目標値を応用した明確なシェア目標があったり、弱者、強者の戦略が具体的に指示されていた
り、営業マンを強くする具体的施策が指示されていたりと、とても使いやすい戦略である。

しばらく使っていなかったが、この間紹介した宝島の一番誌戦略もこれに当たることからも、確かに今の時代に適するのかも知れな
い。今一度総復習をして、使ってみようという気にさせられた。


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