集中戦略とかっぱ寿司


めったに行かない妻の実家に行くことになった。千葉県の松戸というところにあり、私も10年ほどそこに住んでいたことがある。

上野始発の常磐線という電車で行くのだが、葛飾区と隣接しているとはいえ、立派な郊外である。そばには江戸川の土手があり、緑
の豊富な地域。商圏こそせまいが、いろいろな店舗が立ち並ぶ、なかなかおもしろい街である。

久しぶりなので、子供たちを祖父母に預け、妻と松戸の街を散策してみた。ふたつのマンションに移り住んだが、そのあたりを散歩し
たり、よく行った飲み屋に立ち寄ってみたりした。

そんなことを昼間からやっていたので、夜はあまり腹が減らず、子供たちもお菓子の食べすぎで同じような状態であった。

とはいえ、子供たちには何か食べさせなければならない。そこで、子供たちが好きな「かっぱ寿司」に行こうということになった。

妻の実家は、正確に言うと、松戸からひとつ入った上本郷というところにある。そこからすぐのところにかっぱ寿司はあり、これも正確
に言えば、松戸駅からかなり入った、6号線沿いにある。そのせいか、車でくる人が多く、大きな駐車場は満杯であった。

店に入ろうと階段を上ると、待ち人の長蛇の列。混雑が嫌いなので、どれくらい待っているかを尋ねると20組だという。いつもなら絶対
に帰るが、子供たちがどうしてもここがいいというので、待つことにした。

ところが20組も待っているのに、流れがいい。どんどん呼ばれていき、順番が回ってくるまでに20分もかからなかった。恐ろしく回転数
がいい店なのだ。

さて呼ばれて席に着くと、いつもの回転すしとは違う。回転のベルトコンベアに向かって座るのではなく、回転のベルトコンベアの横に
作られたボックス席に座るようになっている。つまり、4人が一列にならぶのではなく、ふたりずつ、向かい合って座るようになっている。

そこから、ベルトコンベアの寿司の皿を取ったり、タッチパネルで注文できるようになっており、新幹線の形をした皿が<超特急>で、注
文した寿司を届けてくれる。

子供たちが新幹線、新幹線というのは、これだと分かった。こういう仕掛けは誘客のマグネットになり、口コミ推奨の話材になる。うま
い仕掛けだと思う。

メニューはあるが、ほとんどは流れている寿司を見て選ぶか、タッチパネルで選ぶかである。その両方を見たが、探しても、探しても見
つからないものがある。それは日本酒。私は魚には日本酒と決めているので、それを探した。

逆に言えば、魚を扱うところで日本酒を扱っていないところに今まで出会ったことがないので、日本酒がみつからないことに戸惑いを
感じた。

瓶ビールと生ビールはある。ならば日本酒がないはずがない。とはいえ、焼酎もなかった。あきらめきれずに店員さんに聞いてみる
と、やはり「ビール」しか置いていないと言う。

そこで周りを見回してみた。すると、ビールさえ飲んでいる人がいない。みんな専用の粉をとかしたお茶を飲んでいる。

なるほど、冒頭で20組も待っていたのに、たった20分程度で順番がきた理由が分かった。酒がないからだ。ビールはあっても腹がふく
れるだけだから、結局回転率はあがる。回転率をあげるために、あえて酒を切り捨てたのだろう。

それならば、と私も酒をやめ、お茶で行くことにした。それでは何を食べようか?<常連>の妻に聞くと、「わさびなす」がいいという。子供
たちはカルパッチョのような握りを食べている。

そう、ここは寿司屋じゃなく、寿司カテゴリーのなんでも屋。加えて皿は全て105円。うにでもいくらでもかんぴょう巻きでも1律105円。言
い換えれば、寿司カテゴリーの100均ショップなのだ。

A

ところで何でこんな低価格でやっていけるのだろう?確かに顧客回転率は高い。しかし1律105円である。そこでもう少し見回してみた。

まず誰が作っているのだろうと、厨房をのぞいた。普通の寿司屋なら、白い帽子に白い服を着た、いなせな職人さんである。ところが
かっぱ寿司では、帽子に、マスク、制服に、手袋をした、給食のおばさんのような人たちが大勢で寿司を<作って>いた。

それは<握る>というのではなく、<作る>という言葉が正しいと思う。これなら誰でもできるだろうから、人件費は安いだろうし、これだけ
たくさんいれば大量の注文にも応えられる。

次にホールに何人いるかを確認した。かなり大きな店舗だが、入り口に呼び込みがひとり、後はホールに4人いた。合計、たった5人で
回している。

この人たちの主な仕事を確認すると、会計、かたづけ、タッチパネルの誤発注の処理、客の質問への受け応えであり、IT化が進んで
いるせいか、難しい仕事はない。だからこんな少人数で運営できるのだろう。

B

今まで述べたことを既存の寿司屋と比較してまとめると、

既存の寿司屋         かっぱ寿司
好立地志向     →    郊外立地
ネタで価格が変動 →    1律一皿105円
酒とともに味わう  →    酒はビールだけ
職人とやりとり   →    注文はタッチパネル
伝統的なネタ    →    からあげからアイスまで
長居を楽しむ    →    高回転
歩いていく      →    車で行く
職人が握る     →    一般スタッフが握る

となる。

このようにまとめると、既存の寿司屋の概念では考えられない差別化がされている。

それではかっぱ寿司の戦略は差別化なのだろうか?

かっぱ寿司の所在地を調べると、郊外ばかりであり、都内の好立地にはない。つまり、郊外ドミナントが基本方針なのである。一方、
上記のように差別化もされているし、1皿105円のようにコストリーダーシップも行われている。

さて、ポーターの競争の戦略を読み直してみると、以下のくだりがある。

集中戦略は「特定のターゲットのニーズを十分に充たすことで差別化、または低コストが達成できたり、両方とも達成できたりする」。

ここから考えるとかっぱ寿司の戦略は、郊外への集中が基本戦略であり、ここから1皿105円という低価格と、酒なし、寿司カテゴリー
の拡大、IT化という差別化が生まれたのだろう。

確かに郊外×ファミリーを狙ったからこそ、酒なし、寿司カテゴリーの拡大という差別化がささった。しかし、これを都内でやりだしたら、
どうなっていただろう?

郊外ドミナントで、低価格、差別化を実施したからこそ、新価値を創出し、顧客の支持を獲得したのだろう。

同時に戦略だけに終わらず、施策レベルの実施を徹底したことも重要である。1皿105円で行く、酒をやめる、IT化などはやり通そうと
いう気持ちと行動力がなければできないことだ。

ここには学ぶべきことが実にたくさんあった。


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