リーン化


今回はリーン消費をテーマにしようと思う。リーン消費とは、ウォーマックとジョーンズが提唱した、顧客の購買のプロセスから非効率
的な部分が排除された消費のことを言う。彼らはこの消費スタイルから、購買プロセスの再評価の重要性について言及している(コモ
ディティ化市場のマーケティング論理、恩蔵直人氏著より)。

さて、ちょっと前になるが、仕事場のベッドを買い換えた。それまでは簡易ベッドを使っていたのだが、さすがにいい年になってきたの
で、うまく眠りが確保できないようになっていた。

モノの本を見ても、いい年をした人間は、いいベッドでしっかり寝なければ身体にさわると書いてあった。そんなことから買い替えを決
めた。

そこでいつものように、家具はここで買うと決めている近所の家具屋に行った。この家具屋は注文をすると、家具の設置から古いもの
の回収まで一括でやってくれるので、重宝していた。

ところが、である。

かつてはところ狭し、と置いてあったベッドが1台もない。どうしたことかと思って尋ねると、最近の人はIKEYAのような大型専門店やイ
ンターネットで買うようになり、全く売れなくなったのでやめたと言う。

確かにベッドを買うというと、IKEYAやニトリの方がピンとくる。また楽天でベッドをたくさん取り扱っていたのも記憶にある。ベッドを売る
というチャネルが大きく変化したということだろう。

しょうがないので、利便性を優先して楽天で買うことにした。楽天では、スーツからインクカートリッジ、お香まで買っているので、手馴れ
ている。ベッドもスーツを買う要領で、在庫とサイズを確認して、自分の登録した情報を確認して、「ポチッ」とクリックすれば済むものと
思っていた。

ところがベッドの場合はそうはいかなった。何より、提示されている数が多すぎて、どれがいいのか、判断がつかない。

セミダブルサイズとは決めていたが、価格に幅があるし、ブランドもいろいろある。またベッドといっても、枠組みだけでなく、マットレ
ス、マットレスカバーもあるし、枠組みにも鉄骨だけのものから引き出しなどがついているもの、しっかりとしたつくりのものなどがあり、
どれを選んでいいのかがよく分からない。

また楽天の場合、店舗によって表記の仕方が違うため、いろいろと見れば見るほど迷ってしまい、結局、頭がクラクラしてきて買うのを
やめてしまった。

私は元来ものぐさで、さらに合理志向が強いので、インターネット購買にはすぐ飛びついた方である。カード情報が流出することより
も、自分の利便性を優先する。だからこそ、せっかくのインターネット購買であるのに、合理的に情報が入手できず、自分の意思決定
ができないことを強いストレスと感じてしまった。

それでも翌日、気を取り直して、何を選択の基準にするかを事前に明記して、ベッド選びをすることにした。

・サイズはセミダブル。
・枠はベッド機能を優先するために、しっかりした枠だけであるもの。
・マットレスは眠りの決め手と判断し、高くてもいいものにする。
・マットレスカバーも買う。
・価格はかつて妻に買ったベッドが15万円くらいだったが、ちょっと高いとは思ったが、妻がしっかり眠れると言っているのでそれぐらい
と考えた。
・色はナチュラル系

こんな基準で見ていくことにした。そして1時間、なんとか意中のベッドを決めた。

しかし。

せっかく決めたのに、古いベッドの引き取りや新しいベッドの組み立てに関する表記がない。かつて大型テレビを買った時、当然設置
もしてくれるものだと思ったら、玄関口で引き渡されて、結局、自分で大汗をかきながら設置したことがある。

あの二の舞はしたくなかったので、必死にこのふたつのサービスを探した。しかし私が選んだ商品のページから、とうとうその記述を発
見できなかった。こうして二度目の買い物も結実することなく、終わった。

A
困った私は、思い返して妻に買ってあげたベッドのことを思い出した。このベッドは当時のクライアントの1階にあったシンプルスタイル
という店舗で買った。

子供が産まれ、少し大きくなると、子供は母のベッドで一緒に寝たがる。しかし当時の妻のベッドは小さなシングルベッドだったし、あま
りいいものではなかった。なので、セミダブルくらいの、しっかりしたベッドを買ってあげようと思った。

この店でのベッド選びは簡単で、まずサイズを選ぶと枠のバリーエーションが提示され、さらにマットレスが提示される。マットレスカバ
ーはサービスだった。ついでにそのベッドと合う、ふとんカバーやまくらカバー、シーツなども提示されるので、どうせなら全て新しくしよ
うと思い、一括で買ってしまった。

また組み立てサービスや引き取りサービスもきちんと先方から聞いてくれたので、先方の言うとおりに意思決定して、カードの暗証番
号を押すだけで終わった。時間にして20分もかかっていない。

当時の、このきわめて簡単な意思決定を思い出して、シンプルスタイルのインターネット販売はないのだろうかと思いついた。そして検
索してみると、あったのだった。

そのサイトを見ると、私が想像した通り、かつて店舗で選んだような構成になっている。まずカテゴリーとサイズが提示されている。な
ので、ベッドとセミダブルを選ぶと、次は枠のデサインを決めるように誘導される。

次に4つの選択肢(カラー、サイズ、生地、価格)に希望を入れると、私の希望に合ったベッドが提案された。

同時にそこに組み立てサービス、引き取りサービスの希望まで入れられるようになっていた。

こうして全ての要望を入れると、カートに誘導され、私の顧客情報を入力すると、納期、支払い方法、確認で終了となった。

あれだけ苦労したのが嘘のように、意中の商品からサービスまでが合理的に選べて、意思決定までに15分もかからなかった。

確かにはじめての買い物なので、自分の顧客情報を入力するのは面倒くさいが、楽天の時と比べて、圧倒的に選択がラクなので、ほ
とんど迷うことなく、ベッドを買うことができた。

また、この買い物の確認や設置日、時間の確認も全てメールで行われた(最終の届け日の確認だけ電話がきたように思う)が、なんの
問題もなく、私の仕事場の古い簡易ベッドは無事に引き取られ、立派な新しいベッドが設置されることとなった。

博報堂と早稲田大学がやった調査によると、商品の最終購入と購入時における満足度は、9割を超えている。ところが、店頭にやって
くるまでの情報収集段階における満足度はおおむね7割台にとどまるそう。

つまり、購入製品に対する顧客の満足度の高さに比べると、製品を入手するまでの購買プロセスに対する顧客の満足水準はそれほ
ど高くない。(コモディティ化市場のマーケティング論理、恩蔵直人著より)。

ゆえに、私の経験のように、購買のプロセスの非効率性を、顧客の選択視点で徹底的に改善し、顧客をスムースに意思決定に導くこ
とに注力することには、まだ改善の余地がある。

そして、同質化する製品やサービスの差別化はもちろん重要だが、むしろ購買プロセスの改善に注力した方が競争優位を築ける可
能性が高いと言えそうだ。

B
前出の「コモディティ化市場のマーケティング論理」の中で、著者の恩蔵氏は、リーン化を4つの方向から説いている。

4つは、提供内容→個別商品か、ソリューションか、提供システム→システムを変更するか、しないかの掛け合わせである。

まずは個別商品×提供システムの変更なし。提供内容や提供システムを変更しないで、購買プロセスの合理化を図る。これを表層的
リーン化という。

私がピンときたのは、ドン・キホーテである。売っている商品は従来の商品、買い方も店舗に行って買うという従来通りの方法だが、陳
列の仕方がユニークなので、購買が促進される。

圧倒的な陳列数や広いカテゴリーによって、関連購買や衝動購買に導かれる。格安のスナック菓子を買いつつも、高額な腕時計も同
時に買えるのがドン・キホーテのユニークネスである。

また営業時間が長いというのも特長である。お酒を飲んで遅くなった時でも、ドン・キホーテはやっている。そこで他の店ではこの時間
売っていない、大型テレビやブランド品、ペットなどが売っている。このおかげで、衝動的に買ってしまった人は多いのではないだろう
か。

次は、ソリューション×提供システムの変更なし。これは提供内容がソリューションであることが特徴であり、適応的リーン化という。

これはラウンドワンが思いついた。

ラウンドワンはこの不況の中、好調に推移し、テレビCMの投入量を増やし、集客に拍車をかけている。

ラウンドワンは「スポーツからリラクゼーションまで複合エンターテイメント空間」を標榜し、ボウリング、カラオケ、ビリヤード、ダーツ、
バッティング、ピンポンなどを一括して提供している。

提供システムは店舗に行く訳なので従来通りだが、提供内容は個のサービスを提供するのではなく、エンターテイメントというソリュー
ションで提供している。

ボウリングが終わったから、その後カラオケでも行って、シメにバッティングセンターでも行くか、というような行動を若い頃によくしたも
のである。

しかしその間の移動時間や待ち時間は結構なもので、イライラしたものであった。このイライラをラウンドワンは解消したのである。

次は個別商品×提供システムの変更あり。これは、商品は従来通りであるが、提供システムが変わる。ITの恩恵を受けたものであ
り、楽天やアマゾンなど、すぐにいろいろな事例が浮かぶ。

私的には「えきねっと」が真っ先に浮かんだ。

独立し立ての頃、よく地方で仕事をしていたが、チケットを取るのはかなり面倒なことであった。

酒席の付き合いがあるので、最終の新幹線で帰ることが多かったが、こういう場合は一度駅に行ってチケットを取らなければならなか
った。

また突然早く仕事が終わった場合で、かつ駅まで遠い場合。せっかく早く帰れる可能性があるのに、駅につくと意中の新幹線はいっぱ
いだったりした。

こういう時間的なロスが、PCで簡単に席が取れ、券売機で、すぐに発券してもらえる「えきねっと」ができたことで解消された。

最後はソリューション×提供システムの変更あり。これを革新的リーン化という。

前出の恩蔵氏の著書の例としてあげられているのは、ホギメディカルであり、そのビジネスモデルの設計は注目に値する。これはとて
もいい事例なので、ここでは紹介しないで、原書にあたっていただくことをお勧めする。

私が思いついたのは、家具・家電のレンタルビジネスである。

数年前、熱海に仕事場を借りたのだが、それにより、家具や家電が必要となった。しかし2年限定の契約だったので、買うのはもった
いないし、買うのも面倒くさい。また何を買ったらいいかを考えるのも面倒だった。

そこで知人に紹介されたのがダイワラクダという会社だった。

この会社のサイトに行くと、ファミリーだったらどういう家具や家電が必要なのかがカテゴライズされている。さらに必要なものやグレー
ドアップしたいものは個別に選ぶことができる。

またレンタルなので、月額は低く設定できるし、これがいちばんのメリットだったのだが、契約すれば、すべてをすみやかに届けてくれ
るし、逆に、契約が切れたらすぐに引き取りにきてくれる。

家具・家電を買わなければいけないというストレスを、統合したソリューションとして提供してくれ、かつレンタルという提供方法で、届け
るのも、処分するのもやってくれる。つまり、提供システムとしても画期的だったのである。

このように、身近な事例で考えてみると、4つのリーン化は至るところで行われている。

視点を換えて、この4つのリーン化から発想して、ビジネスの設計や業務の改善を検討してみてはいかがだろう。きっと優れたセレン
ディピティに出会えると思う。


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