質問の技術


@
 今回質問をテーマにしてみようと思ったのは、ちまたの質問書ブームに影響されたのでも、便乗しようというのでもない。

 私がやっている私塾というものがあって、そこで講義をしている時にたまたま解説していた企画書が引き金となった。その企画書の
解は、ヒアリングが原因で出てきたものだったからなのだ。

 当時の議事録を使って、どんなことを質問したかを思い出してしゃべると、いきなりみんなの目の色が変わる。「もしかして、おもしろ
い?」と聞いてみると、一堂、「はい」。確かに、昔1日に100人近い大学生を面接していたおかげで、どんな質問を、どういう風にすると、
彼らの深層に隠れた本音が出てくるか、経験的に分かるようになった。10数年、毎年、何百人という大学生を見ていれば、そりゃ誰に
でも身につく能力だろう。が、これが具体的に何なのか、解説してみる意味はあると思った。

 一方、プレゼンテーション(以下、プレゼンと記述)の連載もこのメルマガでやるが、そこでもプレゼンのポイントはヒアリングにあると
いう論点を展開しようと思っている。クライアントの与件を徹底的に聞き出すのも、打ち合わせをしながら質問と見せかけて、解のコン
センサスを取るのも、質問というカテゴリーの中でやっている。その具体的な方法を知れば、もう「こちらはこんなことを頼んだんじゃな
い!」と怒られることもなくなるだろう。

 こうして、図らずしも、ふたつの方向から同じ切り口が出てきたので、自分がどのような私見に基づいて、狭義にはヒアリング、広義
には質問をしているのか、それを形式知化することをこの連載でやっていこうと思う。

 ただし、ここで扱うのは、
@クライアントの与件を完全把握するための質問
A被験者から情報を引き出すための質問
B取材対象者から情報を聴取するための質問
つまりは、対象者の深層に暗黙知として眠っているものを、いかに形式知として引き出すかを論じていく。

A
 私の質問は、もちろん分からないことも聞くのであるが、それだけではない。同様に、相手の答えを聞きながら、自分のシナリオを修
正したり、あるいは解自体をそこで発案することも重要なのである。

 なぜか?

 それは私の質問が、ゼロベースということがないためだと思う。私が質問する際は必ず、
@事前に大量の書籍、あるいはネットから収集した情報、クライアントからいただいた情報から知識を得ている。
A@から必ずきっとこういうことだろうという自分の仮説を立ててある。

 これを十分やった後に質問しているので、自分の仮説と違えばそれを修正するし、合っていればそこから発案してしまう。

 さらには質問が終わった時点で、ほぼ企画書のシナリオもできてしまう。これは自分の仮説の検証をしたり、発案をしたり、全体の構
造を考えながら質問をしているためであり、だから私にとっての質問は解の発見と企画書づくりになくてはならないものなのである。

 他方、上記のように企画書を作成するだけでなく、自分の解のコンセンサスを得るためにクライアントに質問する場合もある。これは
かなり巧妙で、うまく質問で誘導していきながら、最後の答えはクライアントに言わせるように仕向ける。そしてすかさず、「それで行き
ましょう」と追認し、自分の考えをクライアントのものにしてしまう。

 こうするとクライアントは、解を自分のものだと錯覚し、それがすばらしいものだと自覚してくれ、プレゼンテーションは何の問題もなく
進む。また多少の問題が出ても、自分の発言なので、根回しに奔走してくれる。

 この意味でも「質問」はとても使えるものなのだ。

B
 私の質問の具体的な特徴を考えてみると、大きく3つに分かれるように思う。

1.仮説構築
2.(被験者との)コミュニケーション
3.しつこさ

ではまず仮説構築の話からはじめよう。

 質問というが、よく分からないことを質問することはとても少ないように思う。なぜなら今の世の中、おおよそ必要な情報はネットなどか
ら収集できるからだ。

 市場についても、競合の状況も、上場している企業なら(IR資料から)戦略から施策まで、ほとんどの情報がネットで手に入る。一方、
商品、サービス、ビジネスの消費者サイドの情報も、ブログやSNS、CGM集積サイトを見ればおおよそつかめる。

 なので、これらを得ることで、解に対する仮説は完成させることができる。つまり私は、質問の際にはいつも「自分なりの答え」を持っ
て臨むのである。

 こう考えてみると、私の質問を効果的にしているのは仮説構築力だと思う。これにはふたつあって、ひとつは先に述べた情報収集
力。これはマーケターだから当たり前だ。どんな駆け出しのマーケターでもネットや書籍を駆使して、それなりのレベルまでの情報を集
めることができる。でもこれはやはり重要だと思う。

 もうひとつは仮説構築をするための企画力。仮説を構築するための構成要件とロジック、それを検討する力。これらがあるから、仮
説が思いつくのである。これもやはり私の質問には重要な要素だと思う。

 こうして自分で出した仮説を前提にしながら、それが正しいのか、間違っているのか、明確な意志を持って質問していく。

 そうすると、質問を有機的にデザインすることができて、結果的に、思ってもみなかった答えを被験者からいただくことができる。これ
さえ出てくれば、もう企画は終わったようなものなのだ。

C
 話を、質問をする最中のことに移そう。

 自分の質問の様子というものを見たことはないが、録音した音声を聞くと、実にたくさん返事をしている。これは「はい」「そうですね」
「そうなんですか」などの相槌がほとんど。

 もうひとつ気がつくのが、話のまとめ。被験者の意見がバラバラで滅裂な時ほど、端的にまとめて、「今のお話はこういうことだったの
ですね」と確認している。

 さらに特徴的なのは、ラポートやアイスブレーキングで、相手との共通の話題をわざと振って、良好な関係を気づいてから、質問に入
るということ。

 これらは心理学、社会心理学のセオリーで、詳しいことはこの後で述べていくが、ノンディレクション療法や承認欲、類似の法則といっ
た技術を使っている。

 これで被験者は気持ちよく応える気になり、ついつい言おうと思っていないことをしゃべってしまったり、仲間意識を強く持ってくれて、
「ここだけの話」をしてくれるようになる。

よく被験者にはバイアスをかけるなと言われるが、本音を聞こうとするのなら、きちんと関係値を作らないと話してくれない。

 だから私は、積極的に自分の身の上や考えを話し、相手に好かれようと笑顔と相槌でつねに応じる。また、「私はあなたの話をしっか
り聞いていますよ」ということを納得させるために、ところどころで相手の話をまとめる。

 それどころか、わざと今まで聞いた話全体を要約して、こちらの理解度の高さを示す。「ここまで的を射た理解をしてくれるのか」と思
ってもらえれば、相手の話の内容は変わってくる。

 これらすべては被験者との心理的障壁を下げ、より深いところまで到達するためにMUSTだと思っている。

 余談だが、二日酔いでヒアリングに言ってしまい、あまりにうなずきや相槌をし過ぎて、気持ちが悪くなり、手洗いで粗相をしたことさえ
ある。

 それほど私にとって被験者との関係づくりは重要であり、これも私の質問力にはなくてはならない要件だと思っている。

D
 弟子のひとりにヒアリングに付き合ってもらったことがあるが、彼女に感想を尋ねると、「あんなに何度も同じ質問をするとは思いませ
んでした」と言われたことがある。

 その通り、私の質問はしつこい。なにしろ仮説を持って聞いているので、それが正しいのか、悪いのか、どうにかして意見を求めた
い。それだけでなく、仮説をいいというのなら何がいいのか、悪いのなら何が悪いのかが聞きたい。

 ひとつの答えをさらに深堀していく。どんどん深堀する。これを専門的にはラダリングというが、これが深層の答えにたどりつくための
大切な技術なのだ。

 私の理論のひとつに、ヒットの解読というのがあるが、あそこでやっている機能的ベネフィット→情緒的ベネフィット→精神的ベネフィッ
トというラダーダウンは、実は質問におけるラダリングから思いついたものである。

 被験者が言っている特長は何か。それにはどんな機能的ベネフィットがあるのか。さらにそれはどんな情緒的ベネフィットを生み、最
終的にどんな精神的ベネフィットをもたらすのか。これはひとつの質問を何層にも深堀することから明らかになる。

 このような取り組みで、いきなり最深層まですんなりたどりつけることは稀である。ゆえにいろいろな聞き方で答えてもらう。これが同じ
質問を、いろいろな状況で何度も聞くということにつながる。

 これを専門的には学習による質問と言う。いろいろな条件を与えることを学習と言い、これによって被験者の状況は変わり、答えまで
たどりつくことができる。

 自分では「しつこい」という言葉をあまり使いたくなく、言うなれば「解への執着」と表現したい。すぐにあきらめず、執拗に、粘り強く質
問をしていく。そうすれば被験者は必ず答えてくれるのだ。

 これも私の質問の大切な特徴だと思う。

E
 話を質問に必要な能力に移そうと思う。

 私の考える能力を大きく分けると、「企画力」「実行力」「まとめ力」の3つとなる。

 まずは企画力だが、私の場合、被験者をかなり細かく予測してからヒアリングに臨むので、事前に周到な準備が必要となる。その
際、最初にやることが被験者を想像することである。

 例えば食品についてヒアリングをするとすれば、その食品に被験者はどのように取り組むのかを想像する。その食品をどのように見
るのだろうか。どのように買うのだろうか。またどのように食べるのだろうか。どこで、いつ、誰と。そんなことを延々と想像していく。

 このベースは消費行動や購買意思決定の理論にならうことが多いが、それよりも重視しているのは、普通の人間として被験者がどう
いう行動をとるのだろうかという自分なりの想像である。

 つまりは、被験者の行動を想像する、想像力が必要に思う。

 続いてやるのが構成。ヒアリングはだいたい2時間をMAXに行うようにしているが、その2時間をいかに構成するかを考える。

 先の想像をきちんと形にして、はじめをどこにするか。先の例なら、認知するところからはじめるのか、買うところか、食べるところか
を決めて、そこから具体的に項目を規定していく。

 グループインタビューのモデレーターが使うモデレーターガイドという、全体の構成と項目、それにどれだけ時間を割くかをまとめた資
料があるが、それと同じものを個人へのヒアリングでも作る。

 これを作ると、全体をどのように段取ればいいかがすぐ分かる。これは構成力と言っていいだろう。

 そして最後に、このモデレーターガイドを眺めながら、どこがポイントになるかを推理する。あらかじめ、「ここが問題だろうな」とか「こ
こは、被験者はすぐ答えられないだろうな」とか「ここは質問を変える必要があるな」ということを予測するのである。

 これをモデレーターガイドにマーキングし、重点的に対処するようにする。

 これは問題予測力とでも言えばいいか。

 このように、私はヒアリングをする前にかなりいろいろなことを企画してから現場に臨む。ゆえにこの企画力は、私のヒアリング=質問
にはなくてはならない能力なのである。

F
 続いて実行力の話に移ろう。

 以前も書いたが、私にとって被験者との関係づくりはとても重要である。意味/解釈系マーケターの私にとって、被験者の深層に迫る
ことがヒアリングの巧拙、ひいては企画の巧拙に関わるからである。

 ゆえにヒアリングの最初のラポート、そしてアイスブレーキング、被験者の話を聞く態度、厳しい質問をする際のまくら言葉(例えば、
「こういうことをお聞きして、お気を悪くしないでいただきたいのですが」といった言葉)、繰り返し質問をするお詫びなど、大変に気を使
う。

 これは関係構築力とでも言ったらいいだろうか。

 そして同じように大切なのだが、被験者が言っている内容を正しく理解する力。

 私もよくあるが、こちらが言っていることを聞いていなかったり、メモをとることに夢中で理解できていなかったり、理解できていなかっ
たことが原因で同じ質問をされるとムッとしてしまう。

 ゆえに被験者にこう思われないように、それこそ「耳をダンボにして」徹底的に集中する。なので、私はヒアリングをしている時は一切
メモを取らない。メモをとると一瞬でも被験者の話をうつろに聞いてしまう時があるからだ。

 これを避けるために、必ず記録者に同行してもらい、被験者のOKをとって、ICレコーダーも使う。とにかく被験者の言うことをすべて
理解して、この場のヒアリングを完璧にしたいからだ。

 これは理解力と言っていいだろう。

G
 こうしてヒアリングが終わり、記録者からヒアリングの粗打ちと音声データが届く。そうすると今度はこれをどのようにまとめるかが重
要となる。これがまとめ力である。

 その時まず着手するのが重点ポイントの抜き出しである。ただし重点ポイントを正確に抜き取るのはかなり難しい作業と言える。

 そこで粗打ちされた内容を、要約し、さらにそれを要点化する。内容を帰納していく訳だ。面倒くさい作業だが、こうすると大切なエッ
センスだけを抽出することができる。

 これを要点力とでも呼ぼうか。

 こうして全体を要点化したら、それを図解する。といっても単に図にすればいいのではなく(図形化ではない)、要点に動きをつけたり、
複数の要点を咀嚼して図解する。こうすると、要点が立体化、有機化し、それぞれの関係付けが明確になる。そうすると問題点や疑問
点、解が浮き彫りになってくる。

 これはそのまま図解力である。

 こうして全体を立体化、有機化すると、解がおぼろげながら見えてくる。今度はその「おぼろげな解」を正式な解にする必要がある。
そのためには他の資料を参照しながら、おぼろげな解を正式な解にするための裏づけ作業が必要となってくる。それだけで足りなけ
れば、ネットや書籍などで裏づけをする場合もある。あるいは先のヒアリングで聞き足りなかったのならば、もう一度やることもある。

 こうして執拗に解に迫っていく力。これを解決力と呼びたいと思う。

H
今回からは具体的な話をしていく。実際のヒアリングに用いたモデレーターガイドを見てもらいながら、私がどのようにヒアリングを想像
し、構成し、問題を予測したかを述べていくことにしよう。

この例は商品Xという食品を担当した時のものである。この商品、たまねぎの皮を瞬間乾燥したものなのだが、その効果はすばらし
く、生活習慣病の改善に役立つ。実際、私はこの商品を使い続け、肝臓、尿酸、中性脂肪の軽減に劇的な効果があった。

が、これを科学的に証明できた訳ではない。また単なるたまねぎの皮の粉末なので、それを食品として購入するのには最初は抵抗が
あるようだ。

という訳でこれを売れるようにするにはどうすればいいかを実際の使用者になるであろう主婦層に聞いてみることにした。といっても、
単にその場で見てもらって、商品Xを使って調理したものを試食(試飲)してもらっても、的確な意見は出てこないと思った。

そこで、以下のような調査を設計した。

1.調査の目的
商品Xをその想定顧客層に一定期間使用させ、かつ独自性のある料理を作って欲しいと事前学習させることで、より深い問題点を探
索する。

2.調査の手法
1週間の使用とその後のデプスインタビュー

3.調査期間
8月10〜17日⇒使用期間 18、19日インタビュー

4.調査対象
30、40代主婦で、小さい子供を持つがゆえに、毎日食事を作り、かつ健康に留意する人

5.調査場所
村山涼一事務所

6.インタビュアー
村山涼一

この意図は、商品Xを提供し、それを自由に料理に使ってもらって、どのような使い方が思いつくのかを知ること。加えて、その様子を
テジカメで撮ってもらい、それを見ながら、被験者と一緒に料理の評価となぜ使ったかを解釈すること。

こうすると定番的な使い方が把握できるとともに、こちらでは思いもつかない使い方も発見できる。またそれが何ゆえに起きたのか。
それも写真を被験者と解釈することで聴取できる。

I
ヒアリングに当たっては、事前にある程度の情報を学習してもらった。以下が、その文章である。

【事前提示文】

調査ご協力のお願い
1.調査の趣旨
今回の調査は、商品を実際にお使いいただき、それに対してのご意見を賜りたいというのが趣旨です。私が担当しております商品Xと
いう商品が対象なのですが、この商品を改良して、売れるように仕上げたいのです。

その際、内容物は変更できませんが、ネーミング、デザイン、キャッチフレーズ、パッケージなど、それ以外の要素はすべていじってい
いと言われています。この根拠を、みなさんにご使用いただいて、伺いたいと思っております。

2.調査の方法
まずは商品Xをご提供しますので、いろいろな料理に試してみてください。この商品は栄養の宝庫である、たまねぎの皮を高速乾燥し
たもので、保存料、着色料の類は一切添付していません。ですので、安心してお使いいただけます。特にケルセチンというポリフェノー
ルの一種がたくさん入っていますので、中性脂肪の除去に画期的な効果がありそうです。

また、たまねぎを入れておいしくなる料理にはすべて適します。これはいろいろと試していただきたいので例示は省きますが、思いつく
ものすべてに試してみてください。このお試しを1週間程度でお願いします。そして使った様子をデジカメにおさめ、その画像データをご
提出ください。

最後に、18日、ないしは19日にご足労ですが村山事務所においいでいただき、1.5時間程度の取材にお付き合いください。ここでは商
品Xのご感想、料理に使ってみてのご意見、ご希望などをお教えいただきます。これですべてが終了となります。

ここで学習させたかったのは、
・商品の内容物以外の改定をする仕事を請け負っていること。商品自体への改善をあれこれ提案されても困るからである。
・健康改善に効果がある商品であることを知ってもらう。あくまでもたまねぎの皮なので、そのまま食べても苦いだけ。ゆえに、これは
健康効果が高い食品であるということを事前に知ってもらわないとクレームだらけになってしまうからである。

実際この商品は、普通のたまねぎと同じように、それ自体は苦いのだが、適量を加えるとうまみ調味料やスパイスと同等の効果を発
揮し、料理のうまみが増す。ただし、ここはぜひ被験者から指摘してもらいたいところなので、あえて述べるのを避けた。

さてこのように設計してから、実際に何を聞こうかを想像してみた。商品Xを目の前に置いて、これを実際渡されて、使おうと決心する
まで、どのような要素、経路をたどるのだろうか。

まずパッケージを見て、そこに書かれていることを吟味し、封を開けて、ひとなめしてみるだろう。苦いということに気づき、それでも健
康効果が高いと聞いているから、味が紛れる料理への使用を検討するのではないか。きっと味噌汁やカレーに入れることを検討し、
実行してみるだろう。

すると思ったよりも味がよくなっていることに気づく。また即効として、便通をもよおすかも知れない。なにしろ60%は食物繊維なので、ビ
フィズス菌を活性し、便通は劇的に改善する。

そして他の料理への適用も考慮するようになる・・・。

というように、どんどん想像を膨らませていく。とすれば、これを順序立てて聞くためにはどういう質問をしていけばいいか。それを具体
化したのが、以下の質問文である。
J
商品Xの質問文は以下のようなものであった。

【質問文】

商品Xの商品評価、使用感想ヒアリングの項目

1.外観
(ア)第一印象
(イ)最初に目に入ったもの
(ウ)特長として認識したもの

2.開封から利用まで
(ア)開封について
(イ)開封しての感想
(ウ)利用に際しての感想

3.利用について
(ア)商品Xの何に着目して利用したか
@健康性
A調味料性
B出汁性
Cスパイス性
Dその他
(イ)どういう料理に利用したか
@洋食
1.料理
2.スープ
3.サラダ
4.その他
A和食
1.料理
2.味噌汁
3.漬物
4.その他
B中華
1.料理
2.スープ
3.サラダ
4.その他
(ウ)感想
@味
A見た目
B香り
C健康効果
1.実感したこと
2.期待したこと

4.価格について
(ア)値ごろ
(イ)容量と価格
@何と比較したか
(ウ)容量のバリエーションについて

5.改善点
@外観
1.デザイン
2.ネーミング
3.売り文句
4.効能書き
5.その他
A開封と形態
1.チャック
2.袋形式
B利用
1.スプーン使用について
2.商品のちらばり
3.商品の量の判断
4.商品の色
5.商品の香り
C効果
1.効果の表示
2.効果の目安
3.効果の実感
4.効果の明示化
D価格
E流通、売り場
Fプロモーション

6.工夫した点について
(ア)(写真をみながら)どのような考え方で試用したか
(イ)主に何に試用しようと思ったか
@洋食
1.料理
2.スープ
3.サラダ
4.その他
A和食
1.料理
2.味噌汁
3.漬物
4.その他
B中華
1.料理
2.スープ
3.サラダ
4.その他
(ウ)どれがおいしかったか
(エ)それはなぜか
(オ)商品Xが向いている食材
(カ)商品Xは何か
@健康食品
A調味料
B出汁
Cスパイス
Dその他
(キ)今後も利用するか
@はい
1.なぜか
2.どれくらいの頻度で使うか
3.いくらぐらいだったら買うか(容量も提案)
Aいいえ
1.なぜか

次回、この質問文の構成の意図と、ここからどういう問題が出てくるかを予想したかを述べていく。

K
前回、ヒアリングをしていく時の質問文をまず見て頂いた。本稿を読まれる時には、それを見ながら読むと分かりやすいと思う。

とても長い質問文のようだが、6つのセクションから構成されている。その流れは、

コンセプト

パフォーマンス

C(コンセプト)/P(パフォーマンス)のバランスから考える価格

コンセプト、パフォーマンスの学習後の改善ポイント

被験者の創発の聴取

価値設計

まずコンセプトについての意見を聞いて、次に商品の評価に移る。このふたつを聞くことによって、両者のバランスがうまく取れている
か、被験者はそれを学習することになる。

そして価格を聞く。もしC/Pバランスがうまく取れているのなら、価格は適切、あるいはもっと高値でもいいという答えが返ってくるはず。

仮説の段階で、コンセプトの評価が低い一方、パフォーマンスはそれなりに評価され、それゆえに価格評価は悪いと思っていた。なの
で、この次の質問は、改善点を聞くことにした。

C/Pバランスがとれていなく、価格も不適ということになれば、ここでたくさんの改善点が出てくるはず。それも仮説で問題だと考えてい
た、コンセプトについての改善点が出てきてくれれば、クライアントも説得しやすいと思った。

さらに改善点の後は、被験者の創発について聞くことにした。これは自分で作った料理を写真で撮ってもらっていたので、それを私が
見て、おもしろい料理があればそれを指摘し、なぜそういう料理を作ったかを質問しようと思った。

もちろん被験者から新しい使い方、新しいベネフィットを聴取したいからである。

そして最後に、この商品はどんな価値があるのかを質問した。もちろんここがいちばん聞きたい質問である。商品を利用して、質問に
も答えた被験者は、この商品のプロユーザーである。この人たちの言うことこそ、消費者を動かすトリガーになる可能性がある。

このように、コンセプトとパフォーマンスを聞いて価格を問い、改善点→創発→価値設計という手順で質問するという方法を私はよく使
う。このように進めていくと、企画書に必要な要素が実に効率よく、聴取することができる。

それではこの結果、どのような意見が聴取できたかをご紹介しよう。
L
仮説を以下のように考えていた。

この商品は、たまねぎの皮であることを前面に出しているのだが、ネーミングはそれと縁もゆかりもないものになっていた。また食品な
のか、健康食品なのか、あるいは調味料なのかも分からず(カテゴリーが不明確)、ベネフィットもセールスポイントもよく分からなかっ
た。

そんな「たまねぎの皮」が100グラムで980円。これでは誰も買わないだろう。

とはいえ使用してみると、いろいろなものがおいしくなる。炒め物や味噌汁、カレーなど、たまねぎを入れるとおいしくなる料理はどれも
おいしくなる。

また便通をはじめとして、中性脂肪の減少、細胞の活性化などにも役に立つ。個人的な話で恐縮だが、私自身が使用して圧倒的な体
質改善効果があった。中性脂肪ばかりでなく、肝機能、尿酸値まで改善してしまった。

このようなことから問題点は、
@コンセプトが評価されない
A価格が高いと思われる
Bベネフィット、効果が実感されにくい。加えて食品であるのでそれを表示するのも難しい
ということが予想された。

そこでコンセプト部では、何がいちばん問題なのかを明らかにしようと思った。

すると第一印象レベルで印象がなく、なによりも表示している要素が多すぎてよく分からないということが判明した。そして特長が不明
瞭、ベネフィットがよく分からないという予想した通りの答えが出てきた。

表示要素が多すぎるという答えは予想しなかった。それもネーミングがどれだかよく分からないという答えまで出てきた。確かに、ネー
ミング、たまねぎの皮であること、キャッチフレーズが同列に並んでいるので、初見ではどれがどれだか分からないのかも知れない。

ここを整理するとともに、再構築することが必要だろう。こうして企画書の最初に、以下のようなまとめを作った。

・商品の外見は存在するが、その意味(存在理由)が分からない→商品の意味(存在理由)を構築
・健康性と食品性が混在し、どちらか片方のカテゴリーなのか、両方なのか不明→カテゴリーを決める

・コンセプトやキャッチフレーズを聞いたら、何らかの気づきが起き、購買意欲がわくはず→コンセプト、キャッチフレーズをつくる

・商品名を聞いたら、どういう商品なのか、瞬時に理解できるはず→ネーミングを再検討

・商品の効果/効能がたくさんありすぎて、何が効くのか、印象に残らない→セールスポイントの構築

・デザイン面から、商品の好印象が演出できてない。→外見のデザインを再検討

M
前回述べたように、コンセプト(特長、ベネフィット、ネーミング、セールスポイント、ブランドなど)の評価はとても低いものとなった。

一方パフォーマンスはというと、予想通り評価されていた。

健康にいいということを事前に学習してもらったせいか、「これはおいしくないもの」「どうにかごまかして食べなければいけない」という
バイアスを与えてしまったが、それでもおいしくなったという評価がほとんどだった。

洋食では、炒め物や揚げ物、そしてスープに合うという意見が出た。また中華でも同様の意見に加えて、サラダのドレッシングにいい
という意見が出た。ここは予想通りであった。

が、和食での評価は低かった。なぜかというと、色がついてしまうからだった。この商品はあくまでもたまねぎの皮なので、茶褐色をし
ている。それが料理についてしまい、繊細な和食の雰囲気を壊してしまうのだそうだ。

唯一、色が気にならない味噌汁では評価されたが、それ以外の、例えば煮物などは、「色がついて見た目を壊す」「たまねぎくさくなる」
と評価されなかった。

ここから、たとえ料理がおいしくなったとしても、健康という前提がないときついということが分かった。健康が前提にならないと、色変
わりやたまねぎ臭はとても大きな使用の阻害要因になってしまうようだ。

が、いいこともあった。使用の感想を聞くと、なによりも便通効果が指摘されたことだった。被験者は女性だったので、効果がてきめん
でないと、いきなりこういう感想は出てこない。

こうして健康というふれこみが便通の良さというベネフィットとなって、加えて洋食、中華をおいしくすることで、商品Xはかなりのパフォ
ーマンスを発揮することが分かった。

ここから、当該商品は単一の動機で購買される商品ではなく、複数の動機が相まって購買される商品であること、それゆえに、主要因
である健康とおいしさというふたつの要素をどのように扱うかがポイントとなることが分かった。

ここで重要なのは、消費者の選択が複雑であることを認識して質問したことだと思う。現代の消費者が複数の要素を勘案しながら、意
思決定をすることはよく知られていることだが、質問をする時というのは単一の答えを求めてしまいがちだ。

もしこの場合、おいしさだけに限定してしまったら、和食には合わないという答えを出ししまったと思う。しかし健康という前提があること
によって、和食には使いづらいが、なんとか工夫して使おうという消費を見ることができる。

このように臨機応変に、かつその場で考えながら、「賢い消費者」の望みを理解することが大切なのだと思う。
N
さて、コンセプトとパフォーマンスを学習してもらったところで被験者は価格をどのように考えるか?

いちばん保守的な主婦は、
「いきなり今の大きな袋は買いません。Xは毎日食べるものではなく、たまに食べたい時に使いたいので、今のような量は不要です。
半分の量でいいので、450円もしくは398円ぐらいにして欲しいです。Xと比較する商品は、調味料系の商品です。売り場で言うと、コン
ソメ、カレールー、Cook Doなどが売っている場所です」と述べた。

同様の意見の主婦は、
「価格帯としては、500円前後ではないでしょうか。でも500円というのは、夕飯のメインのお肉が買えるわけですから、そう考えると、ま
だ高いような気もします。カレールーは料理用調味料ですが、同じカテゴリーのCookDoなどは、1回で使い切りですが、Xは何度も使え
るということを考えて480円ぐらいでいいと思います。今のパッケージですと、試してみて、まずかったら、かなりの量が残ってしまいま
す。ですから、量は今の半分ぐらいで、480円ぐらいがいいと思っています」と述べた。

このふたりは、Xに対して最初から懐疑的であった。使用に際しても、健康食品なのだからまずい。ゆえになんとかごまかして料理に
使おうという考え方だった。それゆえに、現行価格の半分、それも量を半減させて対応して欲しいという消極的な意見を持ってしまっ
た。

またもうひとりの主婦は、
「値段が、780円ぐらいで、おしゃれなポップに効果が書いてあれば、手にとって試すと思います。この200円の差(現行の980円との)
が、主婦にとっては大きいです。そのポップに、例えば「お通じがよくなります」と書いてあるといいと思いますが、スーパーの売り場で
「お通じ」はどうかと思うので、そうなるとこの商品の売り場は、ドラッグストアになるのではないでしょうか」と述べている。

この方が先のふたりと違うのは、ベネフィットを理解さえすれば、780円までは出すと言っていること。ここからやはりベネフィットから理
解させて、価格を考慮させることが大切だと気づいた。

そして最も評価をしてくれた主婦は、
「現在のパッケージでしたら、1,500円まででしたら払います。この価格は、サプリメントと比較しています。「毎日のお味噌汁にスプーン
1杯入れると何日使える」と書けばいいと思います。それでしたら、それで、味噌汁毎日1杯で3ヶ月であれば、1ヶ月500円ですよね」と
も述べてくれた。

これは比較を調味料ではなく、サプリメントに持っていけば(商品をそのように価値設計すれば)、もっと高値でやりとりできることを示唆
している。

ここから、サプリメントと比較されるような価値設計をし、それを売るのにふさわしいチャネルを開拓しようと考えた。その前提として、
現行商品はそのまま現行の形で売っていき、ある時期をもって(新しい価値設計の商品が新チャネルで十分売れるようになった時)や
めようと考えた。

ここで重要なのは、保守層の意見を鵜呑みにするのではなく、商品のいいところを評価してくれる被験者がなぜそのように思ったを解
釈すること。ターゲティングというのは、商品を評価してくれる層にセグメントすることである。とすれば、評価者を見つけ出し、どのよう
な価値を作ればいいかを見つけることの方が大切なのである。

O
被験者から新しい商品Xの使い方のアイデアが出るといいと思っていた。

そのために商品Xを使って作ったもらった料理を全てデジカメに撮ってもらった。ちなみにデジカメの普及は主婦層には及んでいて、デ
ジカメを所有し、自由に使える主婦がほとんどである。

ならばデジカメで撮影してもらうことを条件にすれば、調査報告の信憑性が高まるだけでなく、企画の材料としても活用することができ
る。私はとても重宝している。

さてこうして撮ってもらった画像を検討しながら、サプライヤが意図していない使用法はないかと被験者とともに見ていったが、結果とし
て、新しいものはなかった。

炒め物に使ったり、カレーに入れたり、味噌汁やドレッシング、スープに使っているものばかりだった。

とはいえ被験者が手を抜いているのではない。わずか1週間の調査期間だったにも関わらず、被験者は実に多くの料理に商品Xを使
ってくれた。それをデータの量と料理への取り組みからよく分かった。

ということは、商品Xはサプライヤが考える使用法の域を出ない商品であり、だからこそ、そういう使用法を訴求することが消費者の理
解につながるということが分かった。

このことからセールスポイントは、あえて分かりやすいものを挙げることとした。結果として、
@カレーをおいしくする(スパイスを強化する)
A味噌汁をおいしくする(だしを補強する)
B野菜をおいしくする(うまみを増す)
の3つを打ち出すことにした。

また使用においてのイメージが固定しているのなら、健康効果の方でパーセプションを変えなければダメだということも調査から分かっ
た。

そこで特に評判がよかった便通、中性脂肪過多の改善に着目し、便通は食物繊維が多いことが原因なので、これを立てて、流行りの
デトックス効果を指摘し、中性脂肪過多の改善は、ケルセチンの効果なので、これは少し表現を控えめにして、中性脂肪の抑制とし
た。

さらに亜鉛含有量が多いことも加えて、その効果である細胞の活性化も指摘することにし、この3つを大きな言葉でくくることにした。

食物繊維→デトックス、ケルセチン→中性脂肪の抑制、亜鉛→細胞活性という3つをにらんでいるうちに、これらは全て年を取ることに
よって蓄積する「悪いもの」を除去することに貢献していることが分かった。

そこで、これを加齢症と名づけ、その加齢症の改善に商品Xは役立つというシナリオとした。

上記の全ては被験者に質問している時に、全て思いついたことである。このことからも質問は単に分からないことを被験者に聞くので
はなく、被験者とのやり取りの中で、いろいろと企画するものだということがお分かりいただけると思う。

P
話を実行力に移そう。

とんなに準備を周到にしても実際のヒアリングで被験者との関係づくりがうまくいかないようでは台無しである。

そこで相手との関係づくりをどのようにしていけばいいかを論じていこうと思う。

大切なのは、被験者の気持ちをいつも考え、いい気持ちになってもらうことに気を配って、"協力しなければ申し訳ない"という雰囲気を
作り出すことだ。そのためには、「私はあなたに好意を持っています」「私はあなたを尊重しています」という要素をさりげなくちりばめて
いく。

被験者は「好意」「尊重」「賞賛」という雰囲気の中でやりとりされるのだから、とてもいい気分になる。この気分が、インタビュアーに対
して応援しなければいけないという気持ちにさせるのだ。

特にヒアリングの冒頭で注意したいのが、次の3点。

1.被験者に好意を持つ
相手に好意を持って話すと、うまくいくという経験を誰もが持っていると思う。自分が好意を持っている人と話すのは楽しい。こちらが楽
しいと思っていると相手も楽しそうに話してくれる。

これは相手に好意を持って話せば、その相手も好意を返してくれるという法則があるからであり、それを「好意の返報性」という。

一方、この反対もあり、明らかに苦手意識を持っていると、相手もしっくりきていないのが分かる。自分が悪意を持ってしまうと、相手も
悪意を返してくる。これを「悪意の返報性」という。

2.被験者の名前を呼ぶ

自分から積極的に相手の名前を呼ぶことで、心理的距離を縮める。積極的に相手に対してポジティブな印象を与えたり、相手を思い
通りに動かそうとしたりすることを獲得的印象操作という。「取り入り」「謙遜」「哀願」「謙遜」「威嚇」などがそう。名前を呼ぶことで相手
との心理的距離を縮めようというのは、この「取り入り」にあたる。
 
また5段階説で有名なマズローの承認欲という考え方は、自分が認められたいという願望を指摘したものであるが、これは名前を呼ん
でもらうことにもあてはまる。自分の名前を呼んでもらうと相手に認められている感じがするのである。

3.うなずく

うなずきは、聞き手が話し手の好意を獲得するための技術として使われることが多い。

マタラッツオが行った実験で、最初からずっとうなずきながら聞くグループAと何の反応もしないで聞くBとを比べたものがある。その結
果、最初からうなずいて聞いてくれるグループの人間の会話時間は、実に50〜70%も増えたそうだ。

つまり、うなずきは話し手の会話を促進する効果があるのだ。これは聞き手が、話し手の話をジャマしないで、かつ関心を持って聞くこ
とによって、話し手は自分が承認されていると思うからなのである。

Q
質問にとってとても大切なのは、被験者の話に同意していくことである。これによって被験者との心理的な距離が縮んでいく。

人は自分の意見になんらかの不安感を持っている。だから同意されると安心する。言い換えれば、人は自分の意見が正しいと思いた
がり、自分の意見に同意してくれる人を好ましいと思うのだ。

さて、こういう心理はどのように起きるのだろう?

アメリカの心理学者アブラハム・マズローは欲求段階説で知られる高名な人物であるが、彼の説がこの心理のメカニズムを明らかに
している。

彼は旧来的な心理学のアプローチとは異なる、人間の可能性や創造性、成長や価値などにフォーカスした心理学を提唱した。これを
積極的心理学という。彼は充足感や幸福などを感じる体験を至高体験と呼び、これに着目した欲求段階説を唱えた。

@生理的欲求 人間が生きるうえでの根源的な欲求 空気・水・食物・睡眠
A安全への欲求 安全・安定・依存・保護・秩序
B所属と愛の欲求 他人と関わりたい。他人と同じようにしたい。愛されたい。
C承認欲求 自尊心・尊敬されることへの欲求
D自己実現 自分の能力、可能性を発揮し、創造的活動や自己の成長を図りたいと思う欲求
E自己超越 今まで、あるいは現状の自分自身を超えたいという欲求

強い同意というのは、ここでいうところの承認欲求にあたる。人は誰でも自分のことを認めて欲しい。だから、自分を認めてくれる相手
に好意を持つ。ひいては仲間意識を持つようにさえなるのだ。

具体的には、私の場合、下記のような言葉を伴って、被験者に同意していることを表明するようにしている。

「なるほど」
軽いあいづちを示す言葉。あまり多用すると、しつこいイメージや慇懃無礼なイメージを作ってしまうので気をつけて欲しい。相手の意
見の流れに合わせて、発話の区切りに、適度に行うと良い。

「私もそう思います」「私もそう思っていました」
これは同意を示す言葉である。相手から新たな意見を持ちかけられた時に、賛同の意であることを示すために発話する。意見調整を
していると、こちらの提案をさらに発展させて相手先が発案する時がある。一方、こちらの提案とは少し違った切り口で発案する時が
ある。こういう時にはすかさず「私もそう思っていました」と同意しておいて、それらが自分の思慮の内であったかのように見せるとい
い。

「おっしゃるとおりです」
これは強い同意を示す言葉である。相手が強い意見を主張した時、あるいはこちらの意見に反論してきた時などに使える重宝な言葉
である。こちらの意見に対しての反論ではないが、相手が強い意見を主張してきた時、もし同意できるものなら強い賛意を示した方が
いい。相手の語気が強い分、強い同意を期待しているのである。

「たいへん参考になります」
同意を超えた取り入りに近い言葉。とはいえ、おべっか的に使うとくどくなり、かえって印象を悪くする。特に相手の専門性が高かった
り、相手の経験が十分だったりする場合、明らかに自分の考えが追いつかなかったと実感できる。こういう時には、我を通しても得る
ものは何もない。むしろ素直に自分の非を認めて、相手の意見を参考にさせてもらった方がいい。

R
質問も半ばに差し掛かってくると、被験者も十分に話をしようという気になっている。当然それを予期して、いちばん聞きたいことはこ
のあたりに設定しておく。

質問は、まず表層的なところからはじまる。そして深層に迫っていくのだが、その時にいろいろと被験者に仕掛けをする。そのひとつ
に、相手との類似点を探し、そこから深層に迫るという方法がある。

出自、経歴、体験など、なんでもいい。表層的な質問からそういうものが発見できたら、すかさず自分との類似性を指摘し、そこから一
気に被験者の懐に飛び込んでいく。

こうすると被験者は、必ずと言っていいほど、こちらを自身の内側に引き入れてくれ、深層にあるものを話してくれるようになる。

これは、相手と自分との間の何らかのつながりが、好意を生むからである。このつながりを心理学者は「類似性」と呼ぶ。この類似性
を意識的に作り、相手との心理的距離を詰めて好意を獲得する方法を類似の法則という。

アメリカのフェスティンガーという心理学者は、大学の寮に住む学生を被験者として、どのような条件が仲良くなることに影響するのか
を実験した。

この結果、初期の段階では自分の部屋に近いものと仲良くなることが確認された。この現象は近接の要因と呼ばれる。

その後は、時間の経過とともに性格や態度が似ているもの同士が仲良くなることが確認された。こちらは類似性の要因と呼ばれる。

またウェツェルという心理学者は、説得する側と説得される側に何らかの類似性が見出された場合、その交渉がうまくいくことを確認し
た。

これらの結果から類似性は、お互いがはじめての関係であっても、しばらく経過した関係であっても、良好な関係を築くのにとても効果
的であることが分かる。この類似性は出身地や名前、趣味、生まれた年など何でも良いそうである。 

私の場合は被験者の経験と私の経験の類似性を指摘して話を進めることが多い。とはいえあまり深く立ち入っては被験者にバイアス
をかけることになるので、普通はさらりと触れるにとどめる。

ただし被験者が答えに窮している場合は、私の経験も学習してもらうために、それなりの時間を使って自分の経験を話したりする。

そうすると、自分の経験と似た私の経験も加味されて、被験者が答えを想起できるようだ。これによってずいぶん助かり、被験者の深
層を聞き出すことができた。

S
前回は、質問も半ばに差し掛かり、いちばん聞きたいことを聞き出すための方法として、類似の法則を紹介した。今回も目的は同じだ
が、もうひとつ引用法をご紹介したいと思う。

繰り返すが、質問はまず表層的なところからはじめて、次第に深層に迫っていく。その時に、それ以前に被験者が話したことを学習さ
せる方法を引用法と呼んでいる。

表層の質問に対する答えをどんどんラダリングしていくが、被験者が答えに窮する場面が出てくる。こういう時は質問を換えるという方
法もあるが、ある種の情報を学習させ、助成することで答えを引き出す方法もある。今回の引用法はこの後者に当たる。

被験者がすでに述べていることを引用して、「先ほど○○と述べられましたが、それを前提とするとどんなことが考えられますか」と質
問する。

これにより被験者は、質問に対して自分が述べた意見を助成することができる。助成されるのが自分が述べた意見であるため、質問
に対する親和性がよく、これがひきがねとなって、言わんとする答えに近づくことができるようだ。

結果論として、私の場合は、いい答えに導けることが多い。

さて、これはどのようなメカニズムによるものなのか。

人というのは、自分の意見が尊重されていることをうれしく感じるものである。これをアメリカの心理学者であるM.シェーラーは次のよう
に説明している。

人間の感情には4つの層があり、第1の層は苦痛や快感の感情、第2の層は喜びや悲しみ・怒りの感情、第3の層は充実感や倦怠感・
緊張感、第4の層は宗教的喜びや平和の感情である。

特に第2と3の層を刺激することが、相手の感情をゆさぶるのに効果的とされ、相手の意見を引用するのは、この第3の層への刺激と
考えられる。

自分の意見が引用されると、"自分は尊重されている"と感じる。これによってプライドがくすぐられ、喜びの感情が起こる。

また相手の意見を引用することで、相手の考え方を理解しているのだという意思表示をすることにもなる。

「私はあなたのことを理解しているから、こういう聞き方をしているのです」ということを間接的に相手に知らせることができる。こうすれ
ば、被験者はインタビュアーの望みにかなう意見を言おうという気になるだろう。

まとめると、引用法には、自分の述べた意見だから質問との親和性がいいというのが第一なのだろうが、副次的に、尊重されていると
いう気持ちや被験者の期待に答えようという気持ちにさせる効果もあるという訳だ。


最終回

半年に渡ったこの連載も今回で最後ということになる。

最後に、ヒアリングはもちろんとして、広く質問をする時にいつも気をつけている、具体化について述べようと思う。

相手に質問をしてもポカンとした顔をされる時がある。こうなると相手はこちらが望む答えとは違うことを答え出したり、あるいは全く的
外れなことを答えたりする。

こういう時はほとんど、質問が抽象的であることが原因しているようだ。

私の場合、よほど練りこんで考えておかないと、質問が抽象的になってしまう。たぶん私だけでなく、人から質問された経験から言え
ば、誰もがそうなのだと思う。

私が経験した上手なインタビュアーは、事前に私の本を読んでくれていたり、HPなどで調べてきたりしている。ゆえに、質問が具体的
で、何を答えたらいいかがすぐイメージできる。

一方、私をあまり知らないで取材にくるインタビュアーは、質問が抽象的で、どう答えたらいいかが分かりにくい。なので、答えもピント
がずれていることが多い。そういう時に掲載された記事というのは、間違いなく、こちらが望んでいる記事とは違ったものになってい
る。

さて具体化が効果的であることを調べた、おもしろい実験を紹介しよう。

心理学者のワイアットは抽象的な表現と具体的な表現のどちらが、人を行動に駆り立てるのかを実験した。

まず2種類の注意書きを用意する。その一方には抽象的に、「ゴミを散らかしてはいけません」と書いた。

もう一方には具体的に、「ゴミは部屋の右奥にある黄色いゴミ箱に捨ててください」
と書いた。

この実験の結果、人々は具体的に書かれている注意書きの方に従った。これは、具体性のあるものの方が人々を行動に駆り立てる
ということを示している。

これは質問にも言え、できるだけ具体的に質問することは、相手の理解度を高め、結果的に、いい答えを引き出すのだと思う。

具体的に質問するためには、この連載で述べてきた、周到な準備と相手の答えを事前にイメージすることが大切であり、連載の最後
に残したい言葉は、このふたつに尽きる。

質問は分からないことを相手にぶつけるのではなく、それ以前に十分に情報にあたり、かつ自分なりの想像力を働かせ、つねに仮説
を持って行うことが大切である。そうすれば、相手は必ずあなたにすばらしい「解」を提供してくれるに違いない。



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