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「山は半分殺して(のして)ちょうどいい」という動物写真家の言葉をきっかけに、マタギ取材に乗り出す女性編集者。自然保護や環境問題、そして失われゆく伝統的
狩猟文化の行く末は。今、東北の森に何が起こっているのか!?
今回、この「相剋の森」熊谷 達也 集英社刊 2205円 を山本周五郎賞受賞に合わせてご紹介するつもりで書き出していたのですが、「邂逅の森」が直木賞をと
ったので(熊谷さん受賞おめでとうございます) 、天の邪鬼な私は単純にご紹介するのもいやなので、少々逸れて裏話をご紹介しましょう。
熊谷達也氏は、昭和33年4月25日宮城県仙台市生まれ。東京電機大学卒。教員、保険代理店業を経て、平成9年処女作「ウエンカムイの爪」で小説すばる新人賞
受賞。その後『漂泊の牙』第19回新田次郎文学賞(平成12年)、『邂逅の森』第17回山本周五郎賞(平成16年)、そして今回「邂逅の森」で第131回直木賞を受賞し ています。
熊谷さんのすべての作品に流れるのは「自然と人間」の在り方。それは単なる動物と人との共存とか環境保護とかいう、人間側の論理を振りかざしたものではあり
ません。
静謐に、淡々と、歴史的背景や東北の文化を織り交ぜながらこれまで人がどう生きてきたのか。現実はどうか。これからどう生きるべきなのか。決して押し付けで
なく、それでいて強く、圧倒的な筆力と描写力で訴えてきます。それでいてちゃんとエンターティメントもあり、男と女もあり、決して読み手を飽きさせません。
阿刀田高が「ウエンカムイの爪」文庫版あとがきで、「初めの十行、初めの四、五ページ・・・。一気に読者を引きつけて欲しい。魅了して欲しい。数ある本の中から、
たまたま読者が自分の書いたものを手にし、目を留めてくれたのだ、読んでくれたのだ。それを考えればー死んでも、この先を読まさずにおくものかー そのくらいの 意気込みがなくてはなるまい。
この本の書き出しの第一章 ーこれは、いいー と引き込まれた。と書いています。
この「ウエンカムイの爪」「相剋の森」「邂逅の森」は、実は絡み合った構成になっています。「相剋ー」を中心として、「邂逅ー」はその歴史的背景と文化の記録。
「ウエンー」は、中心的人物の人間的背景を描いたものになっています。作品内の時系列からいうと「邂逅ー」「ウエンー」「相剋ー」なのですが、どこから読まれても、 筆者のストーリーテラーとしての才能に引き込まれるでしょう。
私には熊谷さんの作品に思い入れる、もう一つの理由があります。「邂逅ー」の舞台になった秋田県阿仁町打当(あにまちうっとう と読みます)地区は私の妻の故
郷であり、主人公松橋富治のモデルとなった阿仁マタギのシカリ(頭領)宅の隣に住まいがありました。
秋田市出身で雪国育ちの私が、こんなド田舎は見たことがない という程、山間の僻地とも言える地区で、冬は2メートル以上の積雪があります。「邂逅ー」では、
阿仁マタギの狩猟文化、考え方、歴史的な背景はもとより、その阿仁町の暮らしぶり、夜ばいなどの風俗に至るまで緻密に描かれていますし、何より山の「匂い」が 伝わってきます。(筆者は、実際に妻の隣家のマタギと寝食を共にし、山で生活して取材をしたそうです)
あまり活字に縁がない妻も、いま「邂逅ー」を「へえ〜私も知らなかった」と読みふけっています。
この熊谷氏の他、今回の直木賞に「重力ピエロ」に引き続き「チルドレン」でノミネートされた伊坂幸太郎氏や、私の大好きな瀬名秀明氏、昨年「滅びのモノクロー
ム」で乱歩賞を受賞した三浦明博氏など、仙台市に在住しながら作品を発表し続ける作家が数多くいます。
仙台は市立の文学館や、90万の蔵書を誇る最新の県立図書館などの文化施設も多いのですが、熊谷氏も「相剋ー」の中で触れている通り、ビルが乱立し「都会」
に変貌しつつあります。できれば、いたずらに都会を模すのではなく、優れた作家たちが地域の文化と風土を舞台に描きつづけられる“東北の街”として維持して欲し いと願います。
I love Sendai.
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