重松清を読もう!


ひとは人生の中で幾度となく「卒業」を経験します。

 子供時代、思春期、異性、友、学校、母親、様々なかたちの卒業を経験し、階段を上り成長し、挫折し、年老い、やがて死に直面す
る。

 今日ご紹介するのは、誰にでも何度か必ず訪れるこの「卒業」。それも親と子、家族をテーマにした4つの「卒業」の物語です。

 「卒 業」 重松 清 新潮社刊 1600円

 重松 清は1963年3月6日、岡山県生まれ。早稲田大学教育学部卒。出版社勤務を経てフリーライターに。田村章他数々のペン
ネームを持ち、どちらかといえば作家としてよりライターとして有名です。

 91年『ビフォア・ラン』で作家デビュー。98年『定年ゴジラ』が直木賞候補に。

  99年『ナイフ』が坪田譲治文学賞受賞。『 『エイジ』で99年、山本周五郎賞受賞。『ビタミンF』で第124回(2000年/下半期)直木賞
を受賞しています。

 重松というひとは、きっと小さい頃いじめられっ子、いやいじめっこだったのだと思います。小・中学生のいじめ心理や不登校、自殺
などを描写させれば日本一でしょう。

 表題作「卒業」に登場する女子高生は平然と言い放ちます。「自分でも怖かったんだけど、わたし、死ぬ気になれるんだよね、そうい
う子なの。」自殺してやると友達に言った。あんたら一生後悔するんだからね、と脅した。「っていうか、脅しじゃなくて、かなりマジ。カッ
ターでリスカしてみたわけ。そしたらできちゃうわけ。うん。これなら、わたし、いっちゃうな、って。いけちゃうひとなんだな、って。それを
実感して、急に怖くなって・・・・」

 「まゆみのマーチ」では、明るくて元気で歌が大好きなまゆみが、画一的な「いい子」を求める小学校の先生に歌を止められ、「お口
にボタンがついてたらいいのに」と上下の唇を、洗濯ばさみで服を挟むように押さえられて、口が開けなくなってしまいます。

 学校にも行けなくなったまゆみに母親は、ずっと『まゆみのマーチ』を歌ってくれます。『かんばれ』ではなく、『早く学校に行こう』でもな
く、『まゆみが好き、好き、好き、まゆみが好き、好っき! まゆみが好き、好き、好き、まゆみが好き、好っき!』と、いつも横で一緒にい
て、歌い続けてくれる母親。 ※これはあるテレビマンガの主題歌の替え歌です。さて?

 三ヶ月かかってやっと学校にいけるようになったまゆみが大人になり、その母親の死後、優等生だった兄に語りま
す。「三ヶ月かかったおかげで、うち、一生分の『好き』をお母ちゃんから貰うたけん。シャワーみたいに好き好き好き好き・・・・毎日毎
日、言うてくれたんやもん。世界中で、こんなに自分の親から『好き』を言うてもろうた子、絶対におらんもん。うち、世界一幸せな女の
子なんよ」

 それを聞いた兄は、母親の通夜も半ばに自宅に戻る と言い出します。学校に行けずに自宅に引きこもる「燃えつき症候群」の息子
のもとへ。息子「亮介のマーチ」を歌いに。

 まゆみの母親は、少々できすぎで理想像的に描かれていますが、私も人の子の親。自分は子供たちに「好き」と言ってあげているか
 考えずにはいられません。

 少々疲れ気味の大人にも、何も見えないまま立ちすくんでいるかもしれない少年・少女たちにも、是非読んでほしい一冊です。

 重松作品ではもう一つ。「疾走」角川書店 1800円。

 実は私、この本を装丁で選んで買いました。あまりに衝撃的な、ムンクの叫びにも似た油絵の表紙の顔。「卒業」と共通する「現代」
と「家族」を切り取ってはいますが、描写が圧倒的にむき出しでリアル。

 暗く、苛烈で、まっすぐです。

 ただ、これだけの長編が、短編と思えるほど一気に読めるのは、作者のうまさでしよう。こちらもお薦めです。


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