大人の小説を読もう


「すべては男女の際どい三角関係から始まった。普段は見えない世界、普通の人は一生眠らせたまま終わらせる能力を、荒唐無稽な
オカルティズムを超えてリアリティ豊かに描く。この世の「仕組み」に挑む書き下ろし。」

 書店に平積みされ、こんなタイトルのPOPが付いていて、しかもパステルグリーンの装丁がすこぶる綺麗。これだけで手を出してしま
うそんな自分の直感が「うん、やっぱり俺の目に狂いはない」と信じられた一冊。

「見えないドアと鶴の空」 白石一文  光文社刊 1500円

 白石一文 (しらいしかずふみ)は1958年福岡県生まれ。(私と同世代ですね)

 早稲田の政経卒業後、文藝春秋社入社。

 2000年のデビュー作『一瞬の光』が注目を集め、2002年8月刊行の『僕のなかの壊れていない部分』はロング・セラーに。昨年刊
行の『草にすわる』は生への衝撃的な覚醒を描き多くの読者の感悟を呼ぶ。

 2003年7月に21年間勤めた文藝春秋を退社し、作家専業になる。父は直木賞作家の白石一郎。弟も同じく作家の白石文郎。

 さてこの作品。どう表現したものやら、ジャンル分けが難しい というよりジャンルを越えた総合小説というべきか。

 勤めていた出版社に失望して2年前に退職してから、なんとなく毎日をやり過ごすよ うにして生きている主人公昂
一。広告代理店に勤める妻の絹子の出張中、絹子の幼なじみで、身よりのない由香里の出産に立ち会ったことから、昂一と由香里の
関係が変わり・・・。際どい三角関係から、主人公の真実を見つける旅が始まる。

 恋愛でありホラーでありミステリーであり、そしてフィロソフィーの醍醐味もある。最初のうちは作中にも出てくる、ふた昔くらい前の不
倫を扱ったテレビドラマのようで???。

 ところが、昂一が一夜を過ごした妻の親友の部屋に、その妻が踏み込んでくるあたりから、事態は急速に展開を始めます。昂一は、
いきなり霊能者のところへ連れて行かれてお札を飲まされるわ、超能力を見せられるわ、幽霊に狙われるわ。

 尊敬する編集者の先輩の奇跡をみて哲学し、二人の女性の過去を辿る旅に出て、廃坑に閉じ込められたと思えば悟り、と気をつけ
ないと振り回されそうですが、妙にリアリティもあり、文体は理知的で読んでいるうちにやみつきになります。

 色とりどりに輝く装丁の不思議なタイトルが、なるほどと得心がいく感動的なラストまで、一気に読んでしまわずにはいられない不思
議な作品。お勧めです。

 白石は、幼児化した最近の文学 (はやりの文学賞受賞の年少作家の皆さん、はやく大人になってね)を切り開いてくれる、しっかりし
た大人の作家といえるでしょう。

 最後に本文から

「人は親しい相手をよく知っていると思い込みがちだが、案外それは正反対なのだろう。親しくなればなるほど、その人をより深く知る
べきであり、知る努力を継続すべきにもかかわらず、親しいと自覚した途端に実は無関心になるのかもしれない。」

★これからこの本をお読みになる方「25」に注意です。

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