文章を企画する

 この時期になって「文章が書けない」「どうやって書いたらいいのか分からない」という人のために、こうやって書いたら大人は合格点
をくれるという秘策をお教えしよう。題して「崖っぷち文章作成法」。

 文章が苦手だという人が考えたことがないとよく言うのが、読み手の意識。読み手がどのような気持ちで読むのかを考えて書くことが
最も大切なポイントであるのに、それができていなければ通るはずはない。さらにこれがマスコミ就職の文章であることを考えれば、次
のようなポイントを抑えることが必要である。





@文章ならでは情景描写をちりばめる
 口語と文章の違いが理解できているということを納得させるために、文章らしい情景描写をちりばめるといい。それも大人ウケのい
い若者の小説、例えば文藝賞をとった綿矢りさの「インストール」あたりを参考にするといい。模範文例の冒頭は綿矢の「キーボードの
三角ボタンプッシュ、起動、完了、NETSCAPEクリック、ダイヤル音、終了、ブックマーククリック」というところをパクったもの。自分で考
えるのがいちばんいいけど、思いつかないのだったら、大人から評価されているものから頂戴して、ちょっと手直しして使うことをお勧
めする。また、大人の評価が良かった小説もパクりネタの宝庫。例えば川上弘美の「センセイの鞄」あたりがいい。うまいと思うところ
を引用すると、「まだ午後のなかばなのに、夕方の気配が、ごくごくうすくにじみはじめていた。いちばん暑い盛りを、ほんの少し過ぎた
ころである」「ビールが体の中を下りていった。しばらくたつと、下りていった道すじがほんのりとあたたまる」。こういう文章ならではの
表現がちりばめてあると大人は安心するし、納得する。こういう表現があるだけで通してもいいな、と思えるのである。

 一方、有識者の発言を引用するというのも手。模範文例は哲学者の中村雄二郎と精神科医の香山リカの発言を引用している。いず
れも彼らの本から引用したものであるが、別に雑誌の発言でもいいし、ネット上の発言でもいい。引用というのは文章ならではのもの
だし、なんと言ってもかっこよさを演出できるから文章が締まる。自分の文章の知的レベルを二段階ぐらいあげるような効果がある。

A大人が知らない、若者の世界を描く
文章のよしあしを判断するのは大人である。ならば大人が知らない世界で勝負した方が
驚きが作りやすい。そこでイチ押しなのが「インターネットネタ」。大人は情報としてはインターネットのことを知っているが、リアリティー
は持っていないのが実情。だから、ネットオカマの話とか、2ちゃんねるのようなBBSの話、ノベルゲームの二次創作の話などを題材に
すると食いつきが違う。こういうネタなら自分の周りにゴロゴロ転がっているだろう。今年はインターネットネタで勝負だ。また、登場人
物のキャラを立てることも有効である。キャラ萌えという言葉があるが、登場する人物のキャラが立っていると文章の印象度は飛躍的
に強くなる。模範文例ではネカマの友人とBBS管理者の友人という二人のキャラを対比させて書いている。大人の周りにはこういう人
間たちはそんなに多くないが、若者の周りにはあたりまえのように存在するだろう。自分の周りにいるちょっと変わった友人をピックア
ップして、彼のキャラを題材にすればおもしろい人物が作れるはずだ。

B高潔な志、未来への意欲を結論として書く
 文章を採点するのは40才前後の大人だと考えていい。それぐらいの年になると、どんなに若い頃は無茶をしていた人でも、高潔にも
のを考えるようになるし、感動する話には涙腺がゆるむものである。だから結論は「ちょっとクサい」と思っても勧善懲悪的に書いてお
いた方がいい。例えば、「日本を良くしたい」と書いてみる。減退している国力の回復に寄与したいとか、経済の復興に尽力したいなど
と言うのがいい。また、「人々を救いたい」と書いてみる。最近の人たちは心を病んでいる人が多いと言われるが、そういう人たちを自
分が作った作品で救済したいとか、新しい世界(例えばネット社会)づくりに貢献したいなどと言うのがいい。模範文例ではインターネッ
トは人間の進化に役立てるべきだと書いてあるが、こういう結論こそが大人好みの結論なのである。

 この3点を材料に文章を書いていけば、落とす理由がなくなる。落とす理由がなくなれば、イコールその文章は通るという訳だ。

 さて次のステップ。実際にどのような手順で書いていけばいいのかを説明していこう。
 文章が苦手な人、文章を書き慣れていない人にありがちなのが、いきなり書き始めてしまうこと。タイトルを提示されると同時に、十
分に考えることもなしにペンを走らせてしまう。これでは書けないのも無理はない。文章が上手な人たちは必ず事前に十分書く内容を
検討し、構成を考え、材料を作り、そのうえで文章にしていくのである。

 今回は誰でも文章が書けるようにするために、「崖っぷち構成シート」を用意した。これを使って設定された項目を埋めていけば、誰
でも簡単に文章が書けるはずである。





 まずタイトルからコンセプトを作ってみよう。コンセプトとは「ひとことで言ったらどうだ」ということを宣言することだと思って欲しい。今
回のタイトルは仮に「インターネット」としてみたが、このインターネットというタイトルから何を言うかを決めればいい。ここでは「インター
ネットの可能性が日本を救う」としてみた。さきほど言った通り、大人は高潔な志や未来への意欲を好むので、インターネットが日本の
救世主になると主張していこうという訳である。

次にこのコンセプトで読み手はどのように思うか、言い換えれば、このコンセプトで読み手にどのように評価されたいかを考えていこ
う。ポイントはさきほど述べたように3つである。@文章が上手なこと(文章を書くということがよく分かっていると思われること)、A若者
の世界を描くこと、B結論が高邁なこと。これらが全て表現されていることで、大人である読み手が「若者らしい世界を題材にしている
が、文章で表現することは上手である。日本の将来についても高邁な見識を持っている」と納得してくれればいいのである。

 次はいよいよ全体の構成を考えていく。まずは全体をデザインしてみよう。マスコミで要求される文章量は800字という場合が多い。
原稿用紙二枚分だ。これを200字でひとつの単位として4つのスペースに分けて考える。こうするとちょうど起承転結で表現すればいい
ということになる。その各々に見出しをつけていく。模範文例では、最初の200字に「インターネットの可能性」、次に「現実逃避をするネ
カマの友人Aの例」、さらに「新しい自分を模索するBBS管理者Bの例」、最後に結論部を「インターネットは人間を進化させる方向に位
置づけられるべき」という見出しをつけた。このように大きなくくりで見出しをつければ、全体をどのように書いていくがはっきりしてくる。

 さて次はその見出し毎にさらに細かく小見出しをつけていく。目次をつくるような気でやってくれればよい。最初の200字の見出しは
「インターネットの可能性」であるが、それを詳しく書き進めるにあたって、「インターネットは新しい世界であること」「技術が可能にした
もうひとつの現実であること」「リアルであるが、同時にフィクションであることも可能な世界であること」という小見出しをつくる。ここまで
書こうとする内容を決めるともう書いたも同然の状態となる。なにしろ200字に小見出しが3つもついているのだから、ひとつの小見出し
でたった70字弱を書けばよいのだ。さらに模範文例を見てもらうと分かるのだが、書き出し部分は材料として用意しておいた情景描写
の部分(綿矢のインストールからパクった部分)を使えばいい。また、あらかじめ用意しておいた引用文(中村のインターネットについて
の発言)も使える。こうしてできあがった崖っぷち構成シート例を見てもらうと分かると思うが、何を書いたらいいかが一目瞭然であり、
さあ書くぞという気にもなる。しかしまだ書き出してはいけない。念には念を入れ、さらに準備するのだ。

 崖っぷち構成シートができたら、まず結論部の200字を書いてしまう。文章ベタの人たちはよく「書き出したのはいいけど、最初思った
ことと結論が食い違ってしまった」と言う。いちばん重視される結論部が的のはずれたものになっていたら、その文章が通るはずがな
い。それならばいちばん大切な結論部を始めに書いてしまえばいいのだ。結論が書けたなら、その結論に向かって書き出そう。迷うこ
となく書き進めるはずだ。

 最後に時間配分について述べるが、ほとんどの試験が800字だと60分で書くことを要求される。もちろん60分を存分に使い切ること
をお勧めする。材料部分は事前にストックしておこう。どんなタイトルを設定されても、材料部分は使いまわしができる。情景描写を5パ
ターン、インターネットネタを3つ、おもしろいキャラを3人ぐらい用意しておこう。まずは崖っぷちシートの記入であるが、コンセプトと予
想される読み手の評価に5分はかけよう。ここは目標設定の部分であるので大切である。全体のデザインに同じく5分、目次づくりは10
分かけよう。さらに結論部の記述に10分。ちょっと多めだがいちばん大切なところである。じっくり吟味して書こう。ここまでで30分が経
過。まだ半分しか経っていない。ところが書く内容はほとんど決まり、あとは一気に書きあげるだけである。一心不乱に取り組みさえす
れば、5分は余るだろう。ここでもう一度念には念を押して推敲する。こうしてできあがった文章は完璧だ。ここまでやればこの文章が
通らないはずはない。


<模範文例>

 カシャ、ウィーン、ジャーン。新しい世界の扉が開く音色は、「ツラトゥスタラはかく語りき」ほど激しくはないが、荘厳である。
 インターネット。この血脈にも似た広範なネットワークは我々の世界を大きく変えた。哲学者の中村雄二郎氏は「現代のコンピュータ
ー・サイエンスとそのテクノロジーが人間にもたらした一つの全く新しい現実である」とそれを解釈する。我々が存在する世界とは異な
るもう一つの現実。だからこそ、そこでは現実(リアル)も成立し、フィクションも成立する。ここにインターネットの功罪は起因するのであ
ろう。
 私の友人Aはネット上で違う人格を演じるネカマ(ネットオカマ)である。友人との関係に嫌気がさした彼が逃げ込んだところがインター
ネットであり、妙齢な女性の振りをして男性を誘惑し、その男性を軽蔑することに喜びを感じている。最近このような同一性解離志向を
示す若者が急増しているそうだ。この意味ではインターネットは障害を生起する病巣と言えるかも知れない。
 一方、友人Bはアンティーク時計のホームページを作り、BBS(掲示板)で熱弁をふるう管理者である。普段のBはおとなしく、人見知り
の感がある人物であるが、BBSでは明るく、快活な管理者となる。これを始めてから現実の世界でもBはみるみる快活な人物に変容し
てきた。この意味ではインターネットが彼を進化させたと言えるのかも知れない。
 インターネットはビジネスの可能性を高めた。さらに人間のあり方さえも変える可能性を持っている。ただし現在は、いい意味にも悪
い意味にも機能しているようだ。精神科医の香山リカ氏は「現実社会に耐えて生き延びるためのサバイバル術、新しい社会への適応
の一形態」と建設的に解釈する。インターネットを、友人Bのような人間性の進化の方向に位置づけていくことが必要だと思う。


初出 ダカーポ(マガジンハウス) 4/3号P36「今からマスコミを受ける人に通る作文の書き方を教えます」


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