ネーミングを企画する

 誰もが何らかの形で名前をつけたことがあると思う。子供の名前、ペットの名前、自分のホームページのタイトルや自分の愛機など。映画「バック トゥ ザ フューチ
ャー」の博士の愛犬は「アインシュタイン」であった。気の利いたネーミングだなぁ、と思い自分の愛猫に「なの(ナノテクノロジーからいただいた)」と名づけた。また古く
は自分の子供に「悪魔」と名づけて問題となった人もいた。モラル的にはどうかと思うが、一回聞いたら忘れられない名前であることには違いない。

 「ヒット商品ネーミングの秘密」という書籍によれば、ネーミングが商品の売れ行きを決めるといっても過言ではないそうだ。ネーミングが成功すればヒット商品になる
と同時に、その商品名が一般名詞として通用してしまう。シーチキン、エレクトーン、ゼロックス、サランラップ、セメダイン、セロテープ、宅急便、ポッキー、パンケー
キ、ムース、ウォークマンなど。いずれも確かにハッとするネーミングである。



 「宣伝会議5月号」によれば、最近のネーミングの傾向は、コンセプト型、ターゲット型、素材型、機能型、意味型に分類できる。

 コンセプト型は商品のコンセプトからネーミングするタイプ。サントリー「DAKARA」は「不摂生な現代人のための身体バランス飲料」というコンセプトから「飲んで欲し
い科学的理由がある」の意で「DAKARA(だから)」と名づけられた。

 ターゲット型は商品のイメージターゲットを設定してネーミングするタイプ。サントリー「なっちゃん」がそれにあたる。「みんなで楽しく遊んだ夏、隣に住んでいた女の
子の名前」という設定からネーミングされた。

 素材型は商品の素材に関することからネーミングするタイプ。生産地をネーミングに生かした「南アルプスの天然水」、中国で愛飲される緑茶であることからネーミン
グされた「中国緑茶」がそれにあたる。

 また機能型は商品の機能をそのままネーミングに生かすタイプである。「ポット洗浄中」「熱さまシート」「冷えピタ」等、ネーミングからどういう商品であるかが一目瞭
然だ。

 意味型は商品の意味をネーミングに変換するタイプ。「スジャータ」はお釈迦様に牛乳を供養したと言われるインドの娘の名前からとった。また「ヤクルト」は世界共
通語として作ったエスペラント語でヨーグルトを意味する言葉である。このように意味を聞かされると、なるほど、そうなのか、と思って強く記憶に残る。



 ネーミングの大家、岩永嘉弘氏によれば、情報の凝縮というキャッチフレーズ作りの技をさらに磨きこんで、限界まで削った言葉で勝負する。それがネーミング作法
の本道だそうだ。ネーミングをする対象の外観や機能、仕様を検討し、そのベネフィット(消費者にもたらす利益)を考え、人の口に出やすいような言葉を選ぶ。こうした
緻密な作業を経てはじめて、いいネーミングになる。「ネーミングが広告だ。」という岩永氏の書籍の中で氏のネーミングテクニックが紹介されている。ネーミング素材
の足し算、引き算、掛け算、繰り返し算からネーミングするというもの。分かりやすく利用しやすいのでここで紹介したい。

 足し算はネーミング素材をふたつ足し合わせるというもの。「のりたま(のり+たまご)」「かっぱえびせん(かっぱあられ+えびせんべい)」「ゼロの焦点(ゼロ+焦点)」
がそれにあたる。作家松本清張氏はこのテクニックの達人であり、「眼の気流」「遠い接近」「歪んだ複写」「霧の旗」など確かにこのテクニックを使った秀作が多い。

 引き算はネーミングの素材やキーワードから不要な要素を引く。「デンキブラン(デンキブランデー−デー)」「ダスキン(ダストゾーキン−トゾー)」「ウォッシュレット(ウォ
ッシュトイレット−トイ)」「ダイナブック(ダイナミックブック−ミック)」。

 掛け算はさらに@意味の掛け算、A言葉のオーバーラップ、B語呂合わせの3つがある。
 まず、意味の掛け算。これは本来の意味に新しい別の意味を持たせる方法である。
 「BOXING」はアルフレックスというインテリアメーカーのコンポーネント家具のネーミング。スポーツのボクシングと同じ表記だが、箱=BOXに組み立てる行為=INGが
ついてBOXINGとなった。また「CASE BY CASE」もコンポーネント家具のネーミング。本来の「場合によって」という意味と「ケースのそばにまたケース」というダブルミ
ーニングになっている。

 次は言葉のオーバーラップ。ふたつの言葉をオーバーラップさせて意味を作る。サクライ化粧品の「COSMEDICS」は、「COSMETIC」と「MEDICS」が掛け合わされて
いて、ひとつの言葉でふたつの意味を表している。「TOSFILE」「OKIFAX」「コダカラー」などもこの例にあたる。

 そして語呂合わせ。ある言葉の中の一字を取り替えて別の意味を重ねていくやり方である。「最洗ターン」は洗濯機の水流のネーミングであるが、「最先端」をカタカ
ナ表記した「サイセンタン」に一字を加えて「サイセンターン」とし、それに意味を持たせ「最洗ターン(最もよく洗う、回転方式の変換を果した水流)」としたもの。

 繰り返し算は同じ言葉を繰り返し、重ねることでネーミングする方法。パンダの「ランラン」やエアコンの「ひえひえ」、電気コタツの「のびのび」など適用範囲は広い。




 さて、もうひとつレトリックを使ったネーミングの方法をご紹介しよう。東京大学の佐々木健一教授は「ある種のズレが人々を魅了する」と言っている。このズレを意識
的に作るのがレトリックなのである。レトリックと言うと何やら難しそうだが、要するに何かに例えればいいのである。

 まず換喩(メトノミー)。自分が考えていることをそれと関係性があるものに例える方法である。お風呂に入れると色や香りでいい気分になるだけでなく、お風呂自体
もきれいになる。そういう商品であることを例えて「バスクリン(バス=お風呂、クリン=クリーン=きれいになる)」というネーミングが生まれた。「味の素」は食材や調味料
の味覚をさらにおいしくするもの。それを「味」の「素=基本」と表した。

 隠喩(メタファー)。アリストテレスは「メタファーは天才のしるし」とこの能力が高い人を賞賛した。これは直喩ととても似ているが、例えられるものが自分の考えている
ことと無関係であるところが異なる。「ジャガー」はクルマの名前である。ジャガー=豹のように、しなやかな外観で速いクルマであることを表したかったのであろう。し
かし、クルマはジャガー=豹ではない。バスクリンがお風呂をきれいにするという意味ときわめて近い関係にあるのに対して、クルマ→ジャガーが無関係である点が異
なる訳だ。「ロレックスエクスプローラー」は、キムタクがブームを起こした時計であるが、エクスプローラー=冒険者がするようなタフな時計であることを表現している。

 提喩(シネクドキ)。類と種の関係を入れ替えるレトリックである。「米が買えない」と言うが、実際は米どころか食べ物が買えない状態を表す言葉である。この場合
「食べ物」という類を「米」という種で表している。一方、「おめでた」という言葉は「妊娠」を表す言葉であるが、「おめでた=おめでたい」という類で「妊娠」という種を表し
ている。ネーミングでよく見かけるのは、種を表現して類を表すケース。「グリコ」はその主成分であるグリコーゲンからきているが、グリコという成分でキャラメルという
類を表現した。「カルピス(カルシューム)」「サプリ(サプリメント)」も同様である。

 異形、これはグロテスクなものに変換する方法である。例えば「あなたの性格を色に例えなさい」と言われれば、「白」=素直、「赤」=情熱的、「緑」=おだやかなどの
プラスイメージを想起するであろう。これを「黒」と言ったらどうか。黒は負けや犯人などのマイナスのイメージがついてまわるので、たいていの人はこれに例えない。し
かし、もしその理由が「いろいろな人とうまくやれるのであらゆる色を取り込んで生まれる黒という色を思いつきました」と言ったらどうだろう。「なるほど」と思うのでは
ないか。異形はこれと同じ効果を期待するレトリックである。「ケロリン」は頭痛薬であるが、ネーミングだけ見たらちょっと違和感のあるネーミングである。しかし頭痛
がすぐすっきり治るの意でケロリンだと分かれば納得してしまう。「すいません」は生命保険会社の商品名。たばこを吸わない人を対象にした特約保険である。たばこ
を吸わないの意とたばこを吸う人はお断り=すいませんのダブルミーニングと読み取れる。

 矛盾(オクシロモン)。相互に対立し矛盾するものに変換する。「キレカジ」はキレイなカジュアルの意。1990年頃に流行した、ジーンズに紺のブレザー(コンブレ)を合
わせるファッションのネーミングである。カジュアルとキレイの矛盾をジーンズと紺のブレザーで表現した。「無印良品」も矛盾である。無印=ブランドでないものが良品
とはこれいかに?
またトヨタのハリヤーのコマーシャルで、テキシードを着ている紳士の顔がライオンであったものがあった。このキャッチコピーが「ワイルド バット フォーマル(野性味
があるが、正式なクルマ)」であった。これも矛盾というレトリックを使った例である。

 最後に誇張(ハイパーバリー)。意味するもの以上に拡大変換する。「セメダイン」は「セメント(結合する)」と「ダイン(力の単位)」の合成語。とても強い結合を表現し
た。「クールミントガム」はミントだけでもすっとするものを、さらにクールを加えて超クールになることを表現している。「スーパードライ」もこれと同じで超辛口を表してい
る。

 ご紹介したようなネーミングの方法論を用いれば、誰にでも気の効いた名前がつけられるはずである。みなさんもぜひやってみてはどうか。

初出 ダカーポ(マガジンハウス) 6/1号ダカーポ別冊P40「ヒットするネーミングはこういう風にできている」


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