品質価値戦略とブランド戦略


日経MJ6月16日(水曜)の1面に、上半期のヒット番付が発表されました。

3Dや竜馬、スマートフォンやiPadが3役に選ばれているのは、「なるほど」と思ったのですが、「ミルミル」が選ばれているのをみて、「な
ぜなのだろう?」とひっかかりました。

そこで理由のところを読んでみると、5年ぶりに復刻して、4月までに1日平均50万本を売ったとありました。MJの説明は、人気商品が
復刻して、寿命を永らえたということでした。

この説明ではあまり納得がいかなかったのですが、その後、続編とも言うべき記事が、7月2日のMJ3面の「ヒットを狙え」のところに載
りました。

この記事によると、まずはターゲットを再設定したことがよかったようです。

ミルミルは1978年に発売し、「強い子供になってもらう」をコンセプトに子供のために売り出された商品。

一時は1日75万本も売っていたそうですが、少子化の影響で売り上げが減り、2005年に販売を休止しました。

これを復活させるために、昔ミルミルを飲んでいた層=大人にターゲットを変えたそうです。これは学研が、科学と学習を読んでいた大
人層に、大人の科学をヒットさせたことと同じやり方です。

そして次に、このターゲットのニーズに合わせて、商品の品質を高めました。

ひとつは、甘味料を抑えて風味を変えずにカロリーを下げることに成功。いくらおいしいからといって、子供には重要なカロリーです
が、大人になったら控えたいものです。

もうひとつは、ビフィズス菌の効力を強化。ビフィズス菌は消化液に弱くて、腸まで届く前に死滅してしまうことが多いのだそうです(知り
ませんでした)。

そこで、より強いビフィズス菌を開発して、胃の中での生存率を高めました。これにより、腸の老化に悩む人たちへの訴求力を高める
ことができたそうです。

品質アップ=属性の強化により、「おなかの調子がよくなる」というベネフィットを強化することができたのですね。

こうしてみると、ターゲティング→ニーズの把握→商品の品質アップ→ベネフィットの強化という、STPをしっかりやった垂直的なマーケ
ティングが奏功したように見えます。

そしてもうひとつ、チャネルを多様化したことも成功の要因のようです。

昔はヤクルトレディの宅配だけだったそうですが、今回は食品スーパー、総合スーパー、コンビニエンスストアにもチャネルを拡大。

これにより、今回の販売量の半分が宅配、残りが小売店となったそうです。

また宅配は7本入り、スーパーは3本売り、コンビニは単品売りと、便宜価値にも気を配ったそうで、こうしてみていくと、伝統的なマーケ
ティングをしっかりやったことが成功の要因のように思えます。

もちろんそれはそれで正しいと思うのですが、今回はさらに、市場価値戦略としてはどうだったのか(水曜)、ブランド戦略(金曜)としては
どうだったかを考えてみたいと思います。

A
今回の原稿は、7月2日(金)の日経MJ「ヒットを狙え」の記事をベースに、ヤクルトのサイトの、テレビCMとプレスリリースを加えて書い
ています。

これらの情報は、文章として表現するために書かれているので、一読しただけで整理するのはなかなか難しいと思います。

そこで私はいつも、私が提唱する「アウトフレーム」の中に入れてみて、全体を俯瞰するようにしています。下記のURLをクリックして参
照してみてください。
http://www5e.biglobe.ne.jp/~muraryo/page040.html

このようにまとめてみると、マーケティングを構成する要素にきれいに解を並べることができますし、どの要素もしっかりと考えられてい
ることが分かります。

ただし、基本戦略の品質価値戦略とブランド戦略については触れられていません。そこで今回は、この前者について書こうと思いま
す。

「コモディティ化市場のマーケティング論理(有斐閣)恩蔵直人著」は、市場参入戦略は、顧客にとっての提供価値という視点を加えるこ
とで、4つの方向性があるとしています。

その4つの方向性は、知覚の差異が小さいか、大きいか、既存製品カテゴリーとの違いが、小さいか、大きいかの掛け合わせとなりま
す。

分かりやすい方から書いていきますと、知覚差異<大>×既存製品カテゴリー<大>の場合は独自価値戦略となります。

独自価値を生み出すのは難しいことですが、戦略としては独自価値をもって参入する訳ですから分かりやすいですね。

続いて、知覚差異<小>×既存カテゴリーとの違い<大>の場合は、カテゴリー価値戦略となります。

従来からあるカテゴリー内で優れていることを強調するよりも、サブ・カテゴリーを作って、そこで際立つという戦略です。

事例としては、納豆に健康納豆カテゴリーを作ったミツカンの「ほね元気」、体脂肪率を引き下げる高濃度茶カテキンで健康緑茶カテ
ゴリーを作った花王の「ヘルシア緑茶」などがあげられています。

続いては知覚差異<小>×既存カテゴリーとの違い<小>の場合。

両方とも小さいので、パフォーマンスの高さを訴求しても目立ちませんし、サブ・カテゴリーと宣言しても、消費者はそれをサブ・カテゴリ
ーと認識しません。

そこで効果的なのが経験価値戦略。感覚や物語、歴史や驚きなどの経験的な価値を訴求して、顧客マインドの中に独自のポジション
を築くのです。

事例としてはサントリーの緑茶「伊右衛門」があげられています。

京都の老舗「福寿園」や初代店主の名である「伊右衛門」を使ったり、京都や老舗を連想させる竹をイメージしたパッケージデザインと
いう経験価値が、独自の世界観を作りだしています。

これが競合との差別化を生み出して、長く愛される要因となっているのですね。

そして最後が、ミルミルが採用したと思われる品質価値戦略。知覚差異<大>×既存カテゴリーとの違い<小>の場合です。

これは後発である自社製品の方が品質的に優れていることを訴えようとする時に適しています。

今回のヨーグルト飲料市場は、明治乳業の「ブルガリア」シリーズが強い市場ですから、それと差別化するには品質を打ち出すのが効
果的です。

ですから、新しいビフィズス菌の効果にこだわり、整腸作用が高いことを訴求する戦略に打って出たのですね。

またそれを引き立たせるために、カロリーや抗菌成分というものを引き算していったことも成功の要因だと思われます。

さらに。

これらの試みがブランドに意味などを付与する結果にもなっていると思うのですが、それについては金曜日にお話することにしましょ
う。

つづく

ミルミルのヒットは、販売休止をしていましたが、かつての大ヒット商品の復活である点が重要です。

これは「ミルミル」というブランドを利用したヒットであるということです。

このあたりのことを「ケラーの戦略的ブランディング(東急エージェンシー)ケビン・レーン・ケラー著」と「コモディティ化市場のマーケティ
ング論理(有斐閣)恩蔵直人著」をベースに考えていこうと思います。

短いメールマガジンで述べていくにはあまりに深遠な理論ですので、詳しくは原典にあたることをお勧めしますが、ここで紹介したいの
は、強いブランドを構築するには4つのステップが必要だということです。

この4つのステップを、「ブランド認知」、「ブランド・ミーニング」、「ブランド・レスポンス」、「ブランド・レゾナンス」と言います。

言葉が難しいのですが、理論提唱者のケラーの説明は分かりやすく、
1.あなたは誰なのか、
2.あなたは何なのか、
3.私はあなたをどのように思い、どのように感じているか、
4.私とあなたの関係はどのようなものなのか、
を順序立てて構築していくことだとしています。

この4つのステップは、さらに6つのプロックに分けられ、さらに25の項目に分かれます。細かい説明は省きますが、ひと目で俯瞰した
方が理解しやすいと思いましたので、アウトフレーム化してみました。参照してみてください。
http://www5e.biglobe.ne.jp/~muraryo/page040.html

それではこのステップに沿って、ミルミルを考えてみたいと思います。まずはブランド認知から。

認知には、その広さを判断する「再認」と、その深さを判断する「再生」に分かれます。
ミルミルは大ヒット商品でしたし、子供のおなかをビフィズス菌で守るという意味も明確でしたから、認知は広さも深さも兼ね備えていま
した。

ゆえに「ミルミル」というブランドを使おうと思った段階で、最初のブランド認知の壁は越えることができたのです。

認知が購買を決めない時代とは言われますが、認知はやはり購買への大きな武器となります。しかしこれを作るには莫大な費用と時
間がかかります。これをミルミルはパスできるのですから、大きなメリットと言えるでしょう。

続いて、ブランド・ミーニングがどうなっているのかを見てみましょう。これもアウトフレーム化しましたので、参照ください。
http://www5e.biglobe.ne.jp/~muraryo/page040.html

ブランド・ミーニングは大きく、パフォーマンスとイメージのふたつに分かれます。まずはパフォーマンスの方から。

主要な特徴は、「新しい、強いビフィズス菌を採用したこと」。かつてのビフィズス菌は胃の中で死んでしまうことがあったそうです。

大人用とうたうのなら、これを強くしないと効果が出てきませんよね。ですから、強いビフィズス菌を開発して、採用し、それをUSPとした
のです。

これを受けて、信頼性と持続性は「1本あたり100億個のビフィズス菌」と「胃の中での生存率が従来品より高い」となります。

「100億個、生存率が高い」と言われれば、信頼できそうですし、続けてみようという気になりますよね。

またサービスの効果は「多様となったチャネルで買いやすい」。かつては宅配しかありませんでしたが、今回はスーパーやコンビニでも
買えます。

スタイルとデザインは「昔ながらの緑と赤の水玉模様のパッケージデザイン」。これがミルミルを象徴するものですから、ブランド戦略を
採る以上、これを記号とするのは正しいですよね。

価格は「90円/1本、270円/3本、630円/7本(希望小売価格)」。これをチャネルに合わせて展開しています。便宜性が高いと言えます。

続いてイメージ。

ユーザー・プロフィールは「30〜40代の男女」「おなかの調子がよくない人」。TVCMではパパが訴求されていますが、ここは男女と考
え、その特徴が、おなかの調子のよくない人となります。

購買状況と使用状況は「宅配、スーパー、コンビニ」「毎日飲む」。次のブランド・パーソナリティの「ビフィズス菌を毎日摂る健康価値」
と連関しますが、どこでも手に入る、毎日飲めるということを実現しました。

最後の歴史と経験は、「1978年の発売から子供のおなかを守ってきた」ということ。この経験価値が、大人になったかつての子供たち
をすみやかに購買に導くことになるのです。

このようにブランド・ミーニングのフレームに沿って記入していくと、実にしっくりと内容があてはまります。

これがミルミルの認知資産と相まって、すみやかなヒットにつながったのではないでしょうか?

今後、このブランド・ミーニングがどのようにブランド・レスポンス、ブランド・レゾナンスとつながっていくかを見ていくとおもしろいと思い
ます。それは、ミルミルが再びロングセラーになり得るかを判断する基準になるでしょう。

ぜひ、観察を続けてみてください。

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