大好きな林からの招待状
小学5年生のたけしは生き物がとても好きです。毎日学校の行き帰りに通る林の中
では、植物や昆虫、小鳥たちの息づかいを体全体で感じます。そのことを林の生き
物たちも知っているのか、たけしが来ると小鳥たちのさえずりは一段と大きくなり、
林の中はパッと明るくなります。
そんなある日の朝、たけしは目を覚ますと布団の脇に一枚の葉っぱが置いてある
のに気づきました。
「あれ、何だろう」
拾ってよく見ると、そこには『招待状 今日の夜、林へ来てください。お別れパーティ
ーを開きます』と書かれています。しかし書かれているのはそれだけで、誰から来た
ものかもわかりません。
「お別れって、いったい誰と別れるんだろう?それに夜だっていうし、きっといたずら
だろうな」
しかし場所が自分の大好きな林というのが気になります。
「よし、行ってみよう!」
不安な気持ちを打ち消すかのように、たけしは強く言いました。
学校の行きも帰りも林にいつもと変わった様子はありませんでした。やっぱり誰か
のいたずらかな、そう思いましたが夜ご飯を食べ終わるとちょっとコンビ二に行って
くるとお母さんに伝え、林へ行ってみることにしました。夜中に一人で林へ来るなんて
生まれて初めてのことです。心細く不安でしたが、林につくとその心は驚きへと変わり
ました。
「たけし君、ようこそお別れパーティーへいらしてくださいました」
こう言ってたけしを出迎えてくれたのはつくしの子です。昼間はじっとしている木や
草花が楽しそうに動き回り、普段なら今頃はぐっすり眠っている小鳥たちがピーチ
クピーピーとうたいながら空を駆けています。そしてドッシンドッシンと杉の大木が近
づいてきました。
「たけし君、きみが学校の行きと帰りの毎日二回この林へやって来るとき、わたし
たちは一番幸せなんじゃよ。奥でみなが待っておる、さあ一緒に行こう」
杉のおじいさんに手を引かれ、たけしは奥へと入って行きました。たけしの姿を目
にするやみんなは大喜び。ダンスをしたりおいしい花の蜜をごちそうになったり、
はじめは目をぱちくりさせ驚いていたたけしも、いつしか心踊り、満面に笑みを浮か
べていました。
楽しいときはあっという間に過ぎ、お別れのときがやって来ました。おみやげに
花の首飾りをもらい、なごり惜しそうにたけしは家に帰りました。
いつものように朝がやって来ました。
「たけし、今日からあの林、家を作る工事が始まるから違う道を使いなさい」
お母さんのこの言葉に、たけしは『お別れパーティー』の意味がわかりました。机の
上にはあの首飾りが置いてあります。瞳から涙がどっとあふれてきました。