卒論執筆体験記

 ここでは、卒業生が寄せてくれた体験記を紹介します。

面接調査で卒論を書いたKさんの場合


  私が卒論の計画を具体的に決め、データ収集に取りかかったのは、7月に入ってからでした。数ヶ月後に大学院の入試も控えていたため、時間的な配分がつかめず、気持ちだけが急いていたように思います。それに、ほとんどのクラスメイトが春研究の続きとして卒論を掘り下げる中で、自分が大きく出遅れた感じがしていました。しかし、本山先生の指導を初め、ゼミの皆さんのアドバイスや議論が、そのような急いた気持ちや出遅れ感をあっという間に消してくれました。

 とりあえず順調に始まったかに見えた卒論でしたが、次ぎに直面したのは、調査協力者を募るときの、なんとなく申し訳ないような気持ちでした。「たかが、大学生の卒業論文のために、わざわざ時間を作って、それも、かなりプライベートな内容まで話してくれる人がいるのか?」−という疑問です。始めのうちは、そんな気後れから、インタビュー時にかなり緊張していたように思います。しかし、次第に緊張も和らぎました。秋以降は、どのようにすれば、調査協力者に気持ちよく話して貰い、かつ、多くの情報を得られるかに意識が向き始めたのです。この頃に、インタビューの面白さに気付くことが出来たのだと思います。要は、慣れでしょうが、調査協力者に感謝の気持ちを忘れないで欲しいと思います。

 その他に、卒論を終えて思うことは、
自分の研究に誇りを持つことが大切だということです。先にも書きましたが、自分の研究のために協力してくれる人がいるのか、という大きな不安が、卒論に取りかかった当初にありました。その不安を和らげたのが、自分の研究への誇りなのではないかと思います。自分の研究が何を明らかにし、どのような社会的な意義を持つのか、という基本的なポリシーをしっかり持つことで、協力者への申し訳なさが減り、自信を付けることにも繋がりました。たかが、大学生の卒論かもしれませんが、しっかりした目標を持って望み、結果を出せば良いのだと思います。

 卒論として書き上げられたものの背後には、
物事の深い洞察力と、それに対する自分の意見構築が求められます。しかし、本山ゼミに入った皆さんには、その点の心配は無用です。というのは、本山ゼミでは、活発な議論が重視されています(ゼミの時間は、無制限な場合が多いです。1人の発表が1時間を超えることは、ごく普通の現象です)ので、来年の今頃は「立て板に水の新しい自分」を発見できること請け合いです。Good Luck!

                                          


面接調査で卒論を書いたRさんの場合


 1. 卒論を終えての感想


 私の場合、自分自身の経験がテーマの基になっていたので、研究の全てが自分に返ってきました。研究する過程で、自分の体験を振り返って少し辛い気持ちになる時もありました。例えば、自分の体育体験を深く探っていた時期がワールドカップと重なっていたため、私は皆のように盛り上がることができませんでした。あまりにも自分の体験について考えていたので、サッカーの試合を見る度にサッカーの授業での嫌な体験が思い出され、見ることができなかったからです。また、インタビューでも得意な人から苦手な人に対するネガティヴな発言があると少し不快感情を抱いてしまったり、できる競技がある苦手な人に出会うとひがんでしまったりもしました。そして、そんな自分に嫌悪感を抱くこともありました。インタビューに協力して下さった方達には、本当に申し訳なかったと思っています。でも、辛いこともあったけれど、私はこの研究をして良かったと思っています。自分に返ってくることでの苦しみもありますが、そうだからこそ力を出すことができたし、卒業のためだけでなく、自己成長にもつながったと思います。卒論は何か大きなものを残してくれるはずです。

 2.執筆の進行過程

   (1)全体の流れ

 春研究では、2月中にインタビューを終え、文字記録化も3月中には終わらせました。しかし、結局論文を出したのは5、6月でした。春研の発表会が迫ってきて初めて、真剣に分析に取り掛かってしまいました。卒論では、夏休み前までの2週間と10、11月にかけてインタビューをしました。文字記録化はインタビューと平行して終わらせるつもりが、12月の中旬ぐらいまで残してしまいました。基になるものがないと分析もできないので、どんどん書き始めが遅くなり、卒論も最後の5日ぐらいで今までにない力を発揮して書き上げました。もちろん提出は15分前です。

   
(2)おすすめ点、反省点

 反省点ばかりなので何も言えませんが、早く始めるにこしたことはありません。また、インタビューや分析を進める中で特徴が見えてくることがあるので、それをメモしておくと良いと思います。ゼミで発表したレジメもとても役立ちます。執筆する上で、私もこれらに随分助けられました。

  
 (3)苦労した点、それをどう乗り越えていったか

 一番苦労したのは文字記録化です。これは想像以上に時間がかかり、とても疲れるものです。私はひどい肩こりになりました。しかし、時々波に乗って進むこともあり、そういう時は気力が続くまで続けた方が良いと思います。とにかく文字記録化にかける時間は多めに考えておいたほうが良いです。どう乗り越えていったかですが、私は追い詰められてやったので何とも言えませんが、自分でやろうと決めた研究だから頑張れるところはあると思います。

 3.次期4回生へのアドバイス

 本当に自分がやりたいことを研究した方が良いと思います。色々な点で難しいと思ったり、言われたりするかもしれませんが、最後は自分だと思います。それに自分が望んだ研究なら、辛い状況に陥っても力を出せるものです。この研究をやり抜くのが自分の使命のように感じられます。最後の一踏ん張りにつながるはずです。それでは最後に、私がある先生から繰り返し励ましてもらった言葉を贈ります。

          『自分を信じて』『自信を持って』



                                          


面接調査で卒論を書いたYさんの場合


 1. 卒論を終えての感想


 卒論研究対象者たちとの面談を通した出会いは、私にとって大変貴重な体験だったと思います。旧知の友人から初対面の方まで、彼女たちと私の共通点はそのル−ツに「在日コリアン」という民族名称がひとつあることでした。いわゆる当事者研究というかたちでの出会いでした。

 こういう出会いのかたちを前提にして比較的スム−ズに始まった卒論研究でしたが、ひとり、またひとりと語りの聞き取りを重ねるにつれ、研究当初には思いもしなかったような「しんどさ」が私のなかに現れ、研究をすすめるにつれそれは次第に大きくなっていきました。

 そして聞き取りを終えテ−プ起しを終え、大量の発話デ−タを前にしたとき、私は「しんどさ」の正体とまともに向き合うこととなり呆然としてしまいました。語られた経験のもつ重みに改めて圧倒されたのです。その重みは、対象者ひとりひとりの表情の変化や身振り、言いよどみや語りの間など、デ−タには現れないけれども私の回想からは切り離せないものと一体となって私を打ちのめしました。

 「私なんかに彼女たちの何が語れるのか」「たった50枚の論文形式という枠に、一体彼女たちの何を詰め込んだらいいのか」−論文執筆前に私がしたかったのは、逃げ出したい、それだけでした。

 私はどの位置から何を論じようとしているのか、というより、たとえ私が当事者でも彼女たちの語りを研究、分析し論文執筆する時点で私はもう彼女たちとは違う位置にいるということ、しかもその位置は「公の言説のもつ偏り、怖さ、暴力性」なんかを気づかぬうちにいくらでも発揮しうるところだということ、そしてとても今の私にはその位置の「責任性」を担う勇気も才能もないということを改めて感じたのです。卒論研究のテ−マを追って私なりに模索し、読んできた文献などが部屋に積まれていましたがそれらが一瞬空しいかたまりに見えました。

 こういった葛藤を最後まで抱えつつも、卒論提出締切日、提出済みの他の4回生たちのものすごいヘルプとチ−ムワ−クにより締切3分前に無事卒論を提出できたことはきっと一生忘れられない思い出になると思います。

 そしてまた、行き詰まったとき、先生方や先輩から頂いたアドバイスや勉強会などでの経験が私をなんとか前に進む勇気や元気を与えてくれたように思うのです。

  「とても語り得ないと思ったなら、逆に語り続ける、つまり研究し続けることで見えてくるものがある」
  「自分の書いた論文は書き終わった時点で廃棄物と呼ぶ」
  「結局一番大切なのは自分のやっている研究に対して愛があるかどうかだ」


 一見対照的とも思えるようなこれらの言葉、その源泉は同じなんだろうなあと思うのです。
 それでは最後に五行歌で私の思いを。

     この世には
     わからないことが
     多すぎて
     赤んぼのように
     おんおん泣きたい


  あーしんどかった!でもおもしろかった!


 2.執筆の進行過程

   (1)全体の流れ

 3月〜12月中旬まで:対象者個別面談とテープ起し、発話データの分析法の検討・試みなど、同時に文献読み、勉強会、研究会、学会、飲み会等出席
   12月中旬:全データ揃う。卒論執筆開始、卒論提出締切日(1/9)に校了

   
(2)おすすめ点、反省点

  おすすめ点:卒論のためだけではなく、自分のために色々なものを見たり聞いたりすること。
  反 省 点: 遅筆。

  
 (3)苦労した点、それをどう乗り越えていったか

 上記1.の項目に含む。

 3.次期4回生へのアドバイス

 自分のテーマを追うとき、視野を広く。孤独と人とのつながりとの行き来で知を探求する姿勢を。批判は「言われてなんぼ」と心得る、でもめげない。 

                                          

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