研究会について
 このたび、「奈良フォーク・サイコロジー研究会」(世話人:麻生武、森岡正芳、 浜田寿美男)を発足することにいたしました。
 フィールド実践やナラティブに現れる生活世界をどのようにとらえ、解釈するの か、加えて、「質的、記述的」という手法による研究がどのように公共性をもちうるのか、という問いを基軸とする研究会です。心理学を超え人文科学を視野に入れて、 この問いかけを試みることを目指しています。
 また、関西地域を中心に若手質的研究者の育成に寄与することを目指しています。
 自他の生きられる世界の表現や記述、その交流や倫理について、ご関心をもたれる方は是非ご参加下さい。心理学のみならず多領域からのご参加をお待ちしています。
 
世話人からのメッセージ
 つい最近、人類学をやっておられる菅原和孝さんの本で「フィールド哲学」ということばに出会って、なるほどそうなのだと思った。
 彼はこう言う、「フィールドでの観察と経験が「わたしがこうして存在していること」の不思議さを照らすことを求めると同時に、そのような不思議さの感覚が新しい観察への原動力となることを求める」(『感情の猿=人』弘文堂)。

 私自身は狭義の意味でのフィールド研究をやってきたわけではない。しかし広義の意味ではいつもこの現実世界に臨場してきた。たとえば長く付き合ってきた刑事裁判の世界も立派に「人間の現象のひとこま」であるし、そのフィールドにどっぷりつかってはじめて見えてくる「人間世界のありよう」というものがある。それをどう記述するかが私にとっては、いまの最大の関心事であり、また現実の裁判とのかかわりで求められている強い要請でもある。同じことは障害をもつ人たちとの付き合いについても言える。

 私たちが臨場している現実は、そのように見れば、すべてが考えるに足るフィールドである。今回新しく立ち上げる研究会で、この「人々の心理学」がいろいろに議論されることを期待している。
(浜田寿美男)
 
世話人紹介
   麻生 武
   Prof.ASAO,Takeshi
   (奈良女子大学人間文化研究科教授)
研究テーマ
 現在、子どもたちが自然のなかの生物とどのようにコミュニケートしているか、ロボットと子どもたちとのコミュニケーションの対比でとらえようとしている。また、乳幼児がどのように自己のことや他者のことを理解し、私たちと共有された世界をもつようになるのか解明することがライフワークである。「他者の心とは何か」「世界とは何か」「実在とは何か」、それが私にとっての「謎」である。これに関連して、障害をもつ子どもたちのコミュニケーションの発達にも強い関心がある。「夢」、「ふり」、「想像力」などの発達についても同様である。また最近、幼稚園の園長を3年間体験して以来、幼児教育にも関心を抱いている。ヒトという種の秘密は、すべて乳幼児期にあると考えている。

専門領域
  発達心理学、発生学的認識論

私を変えた一冊
  吉本隆明『共同幻想論』
心理学にはまだ広大なフロンティアがあることを知り、その後、理学部から教育学部へ学士入学する遠因になった。

 

   森 岡 正 芳
   Prof.MORIOKA,Masayoshi
   (奈良女子大学文学部教授)
森岡教授
専門領域
  臨床心理学、 人間性心理学、カウンセリング

研究テーマ
  ◇対話言語行為としてみた心理療法
  ◇自己語りによる経験の生成過程について

私を変えた一冊
  森 有正 『バビロンの流れのほとりにて』

 

   浜田 寿美男
   
Prof.HAMADA,Sumio
   
(奈良女子大学文学部教授)
   
浜田教授
専門領域
  発達心理学と法心理学

研究テーマ 
*一つは発達論の脈絡のなかで「私というものの成り立ち」を記述し、理論化すること。とくに自閉症の人たちの世界を精神病理学的にどう描くかに関心がある。
*もう一つは刑事裁判で冤罪にかかわって、無実の人の虚偽自白や目撃の問題を心理学的研究の俎上に乗せること。まったく別々のテーマのように見えるだろうけれども、自分のなかではつながっているつもり。

私を変えた一冊
 人間そうそう簡単には変わらないのですが、若い頃、好んで読んだのはカミュとメルロ・ポンティ


 
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