「ん・・・」 朝の光がまぶたの上から優しく降り注ぐ。 今日はいい天気になりそうだな。 目を開けると、他の何よりもまず最初に、一番大事なものが見える。 「ふふっ、よく眠ってるね」 隣で眠っている、私の大好きな人。 幸せそうなその顔に、こっちまでほころんでしまう。 「昨日もすごかったもんなあ・・・・・・」 重なるたびに、浪馬クンは・・・その、うまくなって。 私の新しいところを見つけてしまう。 ちょっと悔しくて、私も気持ちよくさせてやろうと意地になって。 お互いがその繰り返しで、回数がどんどん増えていく。 日記帳のマークが、日付欄を埋め尽くすくらいに。 「まったく・・・・・」 言葉と違う、嬉しい気分でそう言うと、カレンダーに視線を移す。 今日の日付におっきな○がつけてあるのを確認すると、 もう一度隣の幸せそうな顔に向かって、こう言った。 「また、同じ年になったよ」 小学校、中学校、そして頼津学園。 ずっと一緒だった私たち。 卒業して初めて、2人が別々になった。 私が大学生、浪馬クンは浪人生。 でも、2人の距離は、今までで一番近づいていた。 私と同じ大学に行きたいと言ってくれた浪馬クン。 引っ越した私の部屋での勉強会が始まり、毎日のように来てくれる日々。 少しずつ、泊まる日が多くなって、 今では既に、同棲と変わんない状態になっていた。 でも、それが自然だった。 2人とも、何にも言わなかったし、当然のように思っていた。 何よりも、私たちが、そうしたかった。 そうやって勉強した結果、浪馬クンは合格した。 浪馬クンの番号を見つけたとき、私、本人より喜んじゃったよ。 だって、3年間まともに授業なんか受けていなかった浪馬クンが、 1年の勉強だけで受かっちゃうんだよ? すごい、すごいよ、浪馬クン。 きっとキミは、やればなんだってできちゃうんだよ。 頑張れば、何にだってなれちゃうんじゃないかな。 検事にだって、教師にだって。 そっか、もう1年たったんだ。 誕生日を迎えて、改めてそう思った。 「去年は、それどころじゃなかったもんね・・・・・・」 去年の3月3日。 誕生日なんか、覚えてすらいなかった。 頭の中が、浪馬クンでいっぱいだった。 浪馬クンが、ほかの娘と付き合うかもしれない。 そのことばっかり考えて、不安でたまらなくて。 でも、聞くことなんてできなくて。 3年生の春。 私が、ほんのちょっとだけ、浪馬クンを見ていなかった頃。 私が、浪馬クンに守られていたことを、忘れてしまっていた頃。 私が知らない間に知り合った女の子達。 みんな、とっても魅力的だった。 私の知らない浪馬クンを、彼女たちは知っていた。 彼女たちの魅力が、浪馬クンをもっともっと、引き出していた。 それは、私の持っている「幼なじみ」というアドバンテージなんか、 簡単に吹き飛ばしてしまった。 浪馬クンの魅力に、ほんのちょっとの間に気づいたみんな。 ずーっと一緒にいたのに、いろんなことがあって、本当にいろんなことがあって、 ようやく自分の心に気がついた私。 そのときには、みんなの遥か後ろにいた。 それでも、浪馬クンが好きだってわかってしまったから。 空気のような存在だって、わかってしまったから。 もしなくなったら生きていけない存在なんだって、わかってしまったから。 だから、浪馬クンがちゃんと言ってくれる日を信じて。 いい返事も悪い返事も、キミの口から言ってくれるのを待って。 そして、卒業式。 「ただの幼なじみ」からの、本当の卒業。 私の、私たちの、新しい始まりの日。 浪馬クンが何で私を選んでくれたのか、正直未だにわからない。 だけど、浪馬クンの求めていたものと、私の求めているもの。 両方が同じものだった・・・としたら、すごく嬉しい。 「あれから一年・・・・・・か」 誕生日・・・もしかして浪馬クン、何か考えてたりしてくれてるかな? いっつも覚えてないフリするからなあ。 ・・・・・・ホントに覚えてなかったりするから、読めないんだけど。 昨日もそんな話、全然なかったしなあ。 別に、何もくれなくていい。 一番欲しかったのは、私のそばにいてくれてるキミだから。 ただ、もしお願いを聞いてくれるなら、 言ってみたいこと、あるんだ。 それはね、 「二人で一緒に住むための部屋を、一緒に探してください」 今の状態がイヤなわけじゃない。 こうやってくっついていられる状態が、イヤなわけない。 だけど、この部屋は、私が一人で住むために選んだ部屋。 家具も、テーブルも、全部、私が選んだもの。 浪馬クンの荷物なんて、ほとんどない。 キミが選んだものが、ないの。 浪馬クンは、「別に構わねえよ」っていうと思う。 もともと、そんなに部屋に荷物置かない人だし。 でも、浪馬クンがどんなものを部屋に置くのか。 インテリアは、暖色系と寒色系、どっちが好みなのか。 浪馬クン専用の棚に、どんなCDが並ぶのか。 私が、見てみたい。 浪馬クンの趣味、嗜好、落ち着く場所。 私が、知りたいの。教えて欲しいの。 キミの生活を、私の生活の中に、混ぜて欲しいの。 もっともっと、私しか知らない浪馬クンのことを、知りたいの。 2人で、選びたい。 キミだけじゃなくて、私だけでもなくて。 2人の生活を、2人で考えて、2人で選びたい。 だから、「2人で」暮らすための部屋を、一緒に探してください。 それが、私のお願い。 浪馬クン、うんって言ってくれるかな。 ね、どうかな? 「ぐー・・・・・・」 ・・・・・・起きないなあ。 昨日、頑張りすぎなんじゃないの?あははっ。 ほっぺをつんつんすると、少しだけ反応する。 それがおかしくて、何度もやってしまう。 どうしようもなく、安らぎを感じる。 ・・・・・・ベッドは・・・・・・一つでも、いいかなあ。 少し、おっきいの、一つだけ。 だって、こうやって、寝顔を見たりしていたいもん。 一日の始まりの最初に見るのは、やっぱりキミがいいもん。 部屋が広くなっても、2人の距離は離したくないもん。 いつでも、くっついていたいもん。 「こうやって・・・・・ぴったりと・・・・・・ねっ♪」 そう呟くと、浪馬クンの身体にしがみついた。 甘えるみたいに胸に顔をくっつけて、腕を首に回して。 横向きの浪馬クンに、全身をおしつけて・・・・・ 「へっへっへ〜。ろーまクー・・・・・・ン!!?」 な・・・・・なんでこんなにっ!? 普通、起きてからおっきくなるんじゃないの!? なんで、寝てるうちからこんなに・・・・・・ 夢!?夢でこんなになってるの!? 何の夢見てるのよまったく・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・ う・・・・なんだか、私・・・・・・ やだ・・・・こんな・・・・・・朝から・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・でも・・・・・・ 「・・・・・た、誕生日だしっ!さ・・・先にプレゼントってことでっ!」 ・・・・・・・・・・・・・・・・あむっ。 「・・・・・・・・・・・ん・・・・・・・」 んぐ・・・・・ぺろっ・・・・・・ 「・・・・・夢か・・・・なかなかの夢だったぜ・・・・・・  その割には妙なリアル感が・・・・ってタマっ!?」 「んぐ・・・・・もふぁよ☆」 「おはよ、じゃねえっ!朝から何やって・・・・・くああっ!」 変わらない、私たち。 きっとこれからも、こんな感じで過ごしていくんだと思う。 だって、それが私たちだから。 エッチで、思ったことを素直に言い合える、私たちだから。 こんな関係になれるのは、キミしかいないから。 これからもよろしくね、浪馬クン。