そ よ 風 の 小 径

第16回  くちなしの花  (2009年 6月 14日)

  3年前に我家のベランダの住民となったくちなしは、今年夥しいつぼみをつけました。今日咲くか明日咲く

 かという感じで、白い花に再会する時を心待ちにしています。

  再会といえば、昨年の今頃ピアの作品展で出会ったあの人はどうしていらっしゃるだろう、とふと気になり

 ました。

  画廊喫茶での作品展はほぼ一ヶ月の長期に及びます。ずっと会場に詰めていなくて良いのが私は気に

 入っていることのひとつです。

  期間中、作品を補足するためにアトリエで絵を描くことも大切な仕事のひとつになります。

  その日の朝、私は昨夜描いたばかりのくちなしの花の絵を携えてピアの入り口のドアを押しました。カウ

 ンターの隣の空間に、インチサイズの額に収めた絵を飾ってひとしきり受付の芳名帳に目を通した後、窓

 辺の席に腰を下ろしてオーダーを待っていた時です。隣の席のご婦人が声を掛けてきました。 

  店内に飾ってある絵の作者と知ったうえでの

口振りに思わずそちら側に椅子を移動して彼女

の話に耳を傾けました。

  60代と思われるご婦人は寡黙な娘さんと同

 伴で時々この喫茶店を訪れるのだと話してく

 れました。問わず語りに話し出したその人の

 身の上話を静かに受け止めながら、時は流れ

 てゆきました。

 「 毎年ここで作品展をしますから、どうかこれからも見に来て下さいね。」と言うと、もう一度店内に飾ら

れている絵に目を向けられた後で、「今日の思い出にこの絵をいただきます。」 と先程飾ったばかりの

くちなしの絵を買い求めて下さったのでした。

 「あの絵は今もあなたのお手元で愛されているでしょうか」そんなふうに聞いてみたい気がしています。

 
 ピアでの作品展は今年で何回目になるのでしょうか?この店を訪れたきっかけは「いい店ができたから

行ってみようよ。」と言う友人からの誘いでした。何年かののちに水彩画教室の人達と団体でお邪魔した

ときに、マスターから声を掛けられて、一度作品展をしてみようか、ということになったのでした。

 それがきっかけで毎年開催するようになったわけは、ピアが居心地のいい場所だったからにほかなり

ません。年に一度、この機会を利用して会う友もいれば、ピアで出会ったことで親交を深めた人もいる、

といった具合です。

 今年も良い出会いがありますように・・・・・。作品展は6月8日にスタートしました。
   

会場入り口にて
新エッセイの部屋一覧へ トップページへ戻る