そ よ 風 の 小 径
第14回 桜色の帽子 (2009年 4月 19日)
昨年のことです。 春まだ浅い季節にお店のショーウインドウで綺麗な色のつばひろ帽子を見つけました。思わず手にとって試着 してみると、それは私に似合っているように思われました。店員さんの「よくお似合いですよ」という言葉に背中を 押されて(お店の人がそう言うのは当たり前のことなのに)つい買ってしまいました。いわゆる衝動買いです。 でも帰宅して改めて鏡の前に立ってその帽子を被ってみると、どうしても年齢にそぐわないように思えてへこみ ました。「あーあ、またやっちゃった。」という反省が脳裏を横切ります。 幾つになっても少女の心がどこかに潜んでいて、時折選択を狂わせます。もっとも花の絵を描かせている原動 力はそこにあるのかもしれません。 その時はとにかく反省の塊のようになってしまって、押し入れの奥深くしまい込んだ桜色の帽子でした。それが どうした弾みか花の便りが届く頃になって改めて気になりだしたのです。そっと押し入れの奥から取り出して被っ てみました。
なんだかそこだけに春が凝縮されているような、 うきうきした気持ちが湧いてきて、なんの抵抗感も なくそれを被って水彩画教室に向かいました。 教室のドアを開ける手前で一瞬、ぬごうかどうか ためらいましたが、そのまま 「おはようーございまーす。」 と入っていきました。 居合わせた人たちがすぐ帽子に気付いて 「あ、素適!」
などと言ってくれたので、私もすっかりいい気持ちになってしまい、この春に幾度か出掛けた桜の花見には、欠 かせないアイテムになりました。 桜色、いわゆるピンクと呼ばれる甘やかな色は、少女たちの第一人気ですが、ある時期になるとちょっぴり身 につけるのが恥ずかしくなって、選択することを遠慮していたのでした。 けれど還暦を間近に控えてみると、そういう抵抗感がすっかり薄らいでいることに気がつきました。さあ、これ からはどんどんお気に入りの服装でお出かけしちゃうぞ!と心に決めた春となりました。