そ よ 風 の 小 径

第6回  桜草との別れ  (2008年12月20日)

  本格的な冬の到来となりました。でも、もう春の準備が既に始まっています。花屋さんの店頭では、春

 を迎える花苗が一年中で一番充実しているのです。

  先ず三色菫、或いはパンジーと呼ばれている色とりどりの花がお目見えします。続いてフリージャー、

 シクラメン、スイートピーといった具合に夢色の柔らかな花びらが特徴の花たちが、次々に登場するので

 しばらくは花屋さんから目が離せません。

  豊富な種類の中から、とりわけ絵心のそそられる花の鉢を買い求めるのも、この季節の楽しみのひと

 つです。

   でも今までと違うのは、春の定番だった桜草だけは買う

 のを控えなければならないということです。

  それは桜草でかぶれる、という事態が発生してしまった

 からにほかなりません。

  以前からそういう話は聞いていましたが、他人事のよう

 に思っていたことが実際に起ってしまいました。

  赤、白、ピンクとそれぞれの色の桜草をプランターで育

 てて、時々は根本から摘んで左手に持って四方から観察

 しながら絵を描いていました。いつもの私流の創作スタイ

 ルです。

  その折り、左手についた桜草の汁を無意識で顔面につけたことが原因だと思うのですが何だかこの頃

 顔が痒いと思っている内に、湿疹があちこちに現れました。最初の内は家庭用軟膏で何とかなると思って

 いたのですが、どうもうまくゆかないので近所の家庭医で見てもらったところ、原因は桜草であることが判

 明したのでした。

  軟膏と飲み薬が処方され、医師からは帰宅したらすぐに桜草を処分するように言われました。

  あの可愛い花を即刻処分するんですか? そうです。そんな会話が往復しました。何とも不本意なこと

 でした。 「あのー。」 とおそるおそる提案しました。

  「桜草に触らないようにすれば、今までのように栽培していても問題ないですよ、ね。」

  「触らないで手入れができますか?」  その通り! 答える先生の目が優しく笑っています。

  {あなたのためなんですよ} そう言っているのが分かります。

  力なく頷いて帰宅し、大きなため息をひとつしてから、桜草をプランターから引き抜いたことが昨日の

 ことのように思われます。

  そんなわけで自宅での栽培は諦めることにしましたが、少し離れた場所からスケッチする分には、

 かまわないので、桜草の絵もまた登場するときを楽しみにお待ち下さい。
  

トップページへ戻る
そよ風の小径へ 新エッセイの部屋一覧へ