エッセイの部屋  (2004年4月)

第19回・・・ (楓 歌 )

  赤ちゃんを描く画家の第一人者といったら、いわさきちひろという意見に異議を唱える人はいないと思います。

 それほど彼女の描く赤ちゃんは絶品です。白い紙の上に絵の具で描かれたとは思えないほど、甘いおっぱい

 の匂いや弾力性、赤ちゃんのお手手でキュッと心をつかまれたような魅力にとらえられて、ちひろファンになっ

 てしまった人が多いのではないでしょうか。
  
  私も子供を育てながら、何度となく赤ちゃんの絵を描くことにチャレンジしました。でも、何しろ一時としてじっと

 していないことに加えて、母親として世話をすることに気をとられることが多くて、絵のモデルとしての赤ちゃんを

 見つめる余裕が無かったというのが正直な気持ちです。

  それが一変したのは孫(楓歌・・・ふうか)の誕生です。外孫なので一緒に暮らしているわけではない

 のですが、同じ豊橋市内に住む娘夫婦から時には娘たちの外出の間、預かったりしながら孫の可愛ら

 しさをお裾分けしてもらっています。

  まだ一人では生きてゆけない生命は、自然の摂理によって周囲から愛さずにはいられない魅力を備え

 られて生きています。それにしてもこのいとおしさは、今までに経験したことのないものなのです。その証

 拠には、「もう子供の絵は描かない、花を主役にした絵を描いてゆこう・・」と決めた方針がなんの抵抗も

 無く、コロッと転換されてしまいました。

  私が描く子供の絵は、どうしてもちひろの描くそれと似てしまい、周囲から指摘されるにつれて負担に

 なっていました。ちひろ以上の子供の絵なんて到底描けないのだから、私は花の語りかけ、美しさを表現

 していく道を追求してゆこう・・そんなふうに考えて、あえて子供の絵を描かない期間がしばらく続いてい

 たのです。

  でもヒナギクのように可愛らしい楓歌の出現は、ちひろの絵のようですね・・と言われても、おだやかに

 微笑んで対応できそうです。今後楓歌の成長に付き合いながら子供の絵が増えていくかも知れません。

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