旧松本薬局



 
登録有形文化財 (平成21年11月2日登録)
長崎県壱岐市勝本町勝本浦158-3
建築年代/明治45年(1912)
用途区分/商家(薬局)
登録範囲/店舗兼主屋
公開状況/非公開

壱岐島の北端に位置する勝本浦は、V字形に切り込んだ勝本湾に沿って形成された港町であるが、湾口を取り囲むように点在する島々のお陰により波浪の影響を受けず天然の良港として古代から朝鮮半島との往来により栄えた土地柄とされている。しかし戦国期には豊臣政権による朝鮮出兵の前線基地となり、江戸期には朝鮮通信使が投宿するなど海上交通の要衝であり続けた時代から幾星霜が経ち、僅か聖母宮周辺の石垣を除いては嘗ての華やかなりし頃の面影は殆ど残されていない。現在は漁港として命脈を保ってはいるが、何度訪れても町はひっそりと静まり返っている。当住宅は湾に沿って形成された町場の東端近くに所在する商家建築である。周囲の建物の殆どが建て替わっているので現在では左程ではなくなっているが、嘗ての伝統的な町家が並んでいたであろう時代には、その異形振りは相当に目を引くものであったに違いない。街道に南面する側を店舗とし、奥に中庭を介して住居を配する平入の建物は、東西の両側面を煉瓦塀で隣家と仕切り、これを前面に張り出す形で防火壁としての役割が本来であった卯建をも兼ねさせている。この卯建に関しては1階部分を出格子を設えた和風の意匠に合わせて濃茶の落ち着いた色味の陶製とし、2階部分はモルタル塗りに目地を切り石積風に仕上げた洋風意匠に合うように明るい赤茶色の焼成煉瓦を用いるなど細やかな配慮が成されている。また2階の開口部は銅板の両開き戸を採用して土蔵風とするなど、遊び心に満ちた造作となっている。有形文化財に登録される以前に勝本浦を訪れた際から、その存在は印象的であり、外に向かって開かれた港町には期せずして面白い建物があるものだと深く記憶に刻まれている。



 

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