本芳我家住宅
Honhaga



 
国指定重要文化財  (平成2年9月11日指定) 
愛媛県喜多郡内子町内子甲1547
建築年代/明治17年(1884)主屋
用途区分/商家(製蝋業)
指定範囲/主屋・炊事場・産部屋・便所及び湯殿・土蔵・土地
公開状況/非公開

国の重伝建地区に選定される内子町八日市護国に所在する商家建築である。恐らく当住宅を初めて目にする誰しもが街道に東面して建つ総二階建主屋の随所に施された精緻な鏝絵と重厚感溢れる佇まいに度肝を抜かれることであろう。明治期の建築とはいえ、これ程までに凝った造作の町家は中々あるものではない。当家は「伊予式箱晒法」の発明により櫨蝋製造の白蝋化に成功し莫大な富を築いた芳我一族の本家筋に当たり、町内には当家以外にも大規模な分家住宅も残り、まるで芳我町の様相である。

「内子に人が溢れ出した」と思わずには居られないほど、数年振りに訪れた伝統的な町並を残す八日市護国地区には行き交う観光客で一杯だった。数年前に国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されて以降、この町の魅力に引き寄せられる人が増えたようだ。もちろん地元の人々の町並保存に対する努力の賜物とも云えるが、これだけ人が増えると素直に喜べない方もおられるのではないかとも思う。町の賑わいが必ずしも全ての人に幸せをもたらしてくれるわけではないことを肝に銘じるべきである。
さて当家は読んで名の如く、櫨蝋加工により莫大な富を築いた芳我一族の本家筋に当たり、町並の中心部に豪壮な屋敷を構えている。総二階建の主屋は精緻な鏝絵を随所に配し、重厚感に溢れた明治期の町家建築の白眉とも云える。町並の核として際立つ存在といっても過言ではない。しかし、これだけの条件下に有りながらも当家は今に至るまで内部は非公開の姿勢を貫いておられる。文化財に指定されたからといって自らの生活の場を公開する義務など無いのだから当たり前の話である。私は当家の前を通るたびに物見遊山で訪れる自分に対して後ろめたい気持ちにさせられる。静かなる生活を望む人々の気持ちが少なからずあることを町並保存行政に務める者は忘れないでほしい。


 

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