小比賀家住宅
Obiga



国指定重要文化財 (昭和46年6月22日指定)
香川県高松市御厩町331

当家は高松市中心部より国道11号線を南西方向に少しばかり行った郊外の田園地帯に所在する。
当家を訪れて最初に驚かされるのは、35.4mにも及ぶ長大な長屋門と門前に広がる松並木のタテ馬場の存在である。当家の長屋門は屋敷の南方(午の方角)に構えたことから午門と称し、内部は牛小屋・馬小屋・納屋として使用されていた。寄棟形式の茅葺屋根に壁面は下見板張りに武者窓を施しただけの簡素な造作で、武家門に見られるような威圧的演出はなされてはいないものの、一般民家の長屋門として最大級を誇り、その大きさゆえに見る者を圧倒する。
午門を一歩潜ると、眼前には左右の袖塀に区画された広大な前庭と四方蓋屋根の主屋が展開する。主屋の茅屋根を浅く葺き、本瓦葺の下屋を長く葺き下ろす。前面の開口部は小さく、千鳥破風屋根の式台玄関も小振りなもので、前述の長屋門とは対照的に控え目な印象ながら、実に清々しく品格を感じる建物である。
当家は慶長年間に現在地に土着したのち、庄屋・大庄屋職を勤め、天明年間には武家にも取り立てられた家柄とのことであるが、長い歴史によって育まれた旧家たる風情が建物からも滲み出ている。
大戸口から主屋内に一歩、足を踏み入れるとそこには広大な土間が広がっている。土間に接する勘定場・次の間と称する床上部には、間仕切りが土間境ではなく奥側に設けられており、まるで舞台のような風情である。こうした造作は一般的に古式を示すものとして貴重な事例である。また、主屋奥側の座敷部も床や違い棚を備えた格式の高い造作ではあるが、木割が太く、やや武骨な印象がある。柱もチョウナ削りであったものを後世に鉋で削り直したとのことで、恐らく民家建築としては相当初期に座敷が整えられた先駆的な事例に属するものではないだろうか。
一方、座敷から眺める庭園は実に華やかな印象を抱かせてくれる。池泉をうまく利用して松を主体に配置したもので、やはり江戸時代初期の造園らしく、県の名勝にも指定されているらしい。当住宅は讃岐地方を代表するに止まらぬ、地味ながら凄いものがあると、私は密かに感じている。(H22.5.9記・H22.11.27改)