井上家住宅 Inoue |
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登録有形文化財 香川県高松市牟礼町大町1987 幕末の蘭学者・平賀源内の出生地として有名な志度の町と四国を代表する名園・栗林公園を結ぶ県道272号線に面して屋敷を構える当家は、文化財の家としてよりも「郷屋敷」の名で営まれるうどん屋さんとして地元の方には有名な存在である。とかく最近の讃岐うどん人気はトタン小屋の粗末な店にこそ集まりがちであるが、その対極にあるような存在が当店で、古い屋敷を利用した格式高いうどん屋さんの走りではなかったかと記憶している。 私が最初に当家を訪れたのは登録文化財として認定されるよりもずいぶん以前の20年ほども昔のことであったが、建屋に対する記憶が殆ど失われていたので、今回はじっくりと屋敷の風情を堪能させていただきながらの訪問となった。 当家はそもそも高松藩の与力にも任命された家柄で、苗字帯刀を許され、地域の司法・行政の任にあたったとされている。およそ600坪程の屋敷地は峠超えに差し掛かる麓地にあり、県道の北側に長屋門・表門・蔵・離れ座敷が一列に南面して建てられている。こうした屋敷構えは讃岐地方の豪家に典型的な建前の1つで、特に高松市南郊に多く見受けられる。主屋はトタン葺きに改められてはいるものの、これも讃岐地方に典型的な四方蓋造りの茅屋根に本瓦葺きの下屋を葺き下ろすもので、座敷構えも立派な相応の建物である。残念ながら店舗として各建物をそれぞれに有効活用させるために現代和風的に改造を施した箇所も多く、文化財的な往古の建築的風情を楽しむことを期待すると少々肩透かしを食らわされる。けれど、こうした旧家屋敷の中でゆっくりと食事ができるという存在は有難い。 最近では文化財的な古い民家を飲食店として活用する事例が増えつつあり、こうした分野にも競争が始まりつつあるようだが、当家には是非、先駆的な存在として、将来にわたっても営業を続け、屋敷を維持してもらいたいものである。 (H22.12.2記)
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