細川家住宅
Hosokawa



 
国指定重要文化財 (昭和46年6月22日指定)
香川県大川郡長尾町多和額東西46

当家は香川県の東南部、徳島県境に程近い山間部に所在する標準的な農家建築である。付近には四国巡礼88箇所の結願の札所として著名な大窪寺があるので、当家を訪れる際の目印とされると良いだろう。
当家も前出の恵利家住宅と同様のツクダレ造りに該当し、下屋を設けず大屋根が軒先まで葺き下ろされる。外壁は柱が露出しない大壁造となっており、非常に閉鎖的な印象である。こうした外観は四国の中でも香川県と徳島県が接する山間部にのみ見られるもので、他の地域で一般的な柱が露出する真壁造の開放的な建前とは明らかに異なっており、むしろ東北地方の岩手近郊に見られる民家の様な印象である。例えば岩手県東和町に所在する国指定文化財の伊藤家住宅とは外観の雰囲気などはそっくりである。厚い土壁で開口部を最小限に止め、寒風から身を守るような造りで、いわゆる寒冷地仕様といったところだろうか。
また当家の最大の特徴は、内部のダイドコロと称する部屋の床が籾殻を置き、その上に筵を敷いただけの土座になっている点である。床板を張るよりも暖かいため、これも寒冷対策としてわざわざ土座としたのであろうが、民家の先進地である瀬戸内地域に、こうした造作が残されていたとは驚きである。実際、土座住まいの家は甲斐や信濃を中心とする山岳寒冷地方には江戸時代末期まで相当数、残されていたらしいが、比較的温暖なこの地方にあり、かつ18世紀中頃の建築とされる当住宅において、こうした造作を目の当たりにできるとは実に感動的である。
小春日和に当家の座敷窓に腰かけていると、ここだけ周囲とは異なる時間が流れているような気にさせられる。山間部らしい穏やかな周囲の雰囲気を含めて、とても大事にしなければならない民家だと思う。(H22.5.9記・H22.11.29改)


一覧のページに戻る