恵利家住宅
Eri



 
国指定重要文化財 (昭和46年6月22日指定)
香川県さぬき市大川町富田中3277-1

そもそも当家は大川町田面字新名に所在し、長百姓役を務めていた藻玉家の住宅で安政年間に恵利家が取得したと伝えられる。(両家とも変わった苗字である)17世紀末頃に建築されたと推定される古い建物で、実際に屋内に入ってみると柱や梁桁の木割が極端に細く、また材が大きく曲がっている様子に、江戸中期以降に急速に発展する民家の建前とは全く異なることに容易に気付かされる。現地では当家は「ツクダレの家」と呼称されているが、「ツクダレ」とは下屋を設けず、大屋根を軒先まで葺き下ろす形状を指すもので香川県や愛媛県のみで用いられる呼称である。個人的な恥を曝せば、「ツクダレ」とは、その語感から主屋前面に設けられた厠の上に付け足された小屋根のことを指すものだと長い間勘違いしていたが、勝手な思い込みは禁物である。いずれにせよ、この「ツクダレ」も古式を示す造作の1つであり、後世に讃岐地方に特有の屋根形状である寄棟の茅葺屋根に本瓦葺きの下屋を廻らせる四方蓋屋根とは一線を画す形状である。


私が当家を最初に尋ねたのは20年以上前のことで、既に当初の所在地から大川町田面字砕石の大川ダム東岸の狭く、日当たりの悪い一画に移築保存されていた。当時は内部も常時公開されておらず、屋根は苔むして、あまり魅力的とは云い難い状況にあったが、近年になって現在の日当たりの良い広々とした敷地に再移築され、とても魅力的な民家に様変わりした。建てられた敷地によって民家の印象も全く様変わりする。民家の価値が場所とともにあるという証である。とにかく本当によかった。 (H22.5.9記)