木下家住宅
Kinoshita



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国指定重要文化財 (平成22年6月29日指定)
福井県勝山市北郷町伊地知5-3
建築年代/天保10年(1839)
用途区分/農家(庄屋)
指定範囲/主屋
公開状況/公開

九頭竜川に沿って福井市街から勝山方面に向かう途中の山裾に上野という小集落がある。当家はこの地で代々甚右衛門を名乗り庄屋役を務めたという旧家で、屋敷東側の道路境界に人頭程もある玉石垣を築き、屋敷地のかなり奥まった位置に茅葺の重厚な主屋が鬱蒼とした屋敷林に囲まれてひっそりと佇む様子は実に厳かなものである。主屋は当地方の上層農家に共通する角屋造の形態を採り、妻入の主屋下手に厩と台所を左右に突き出す造作は特に両袖造と称するものらしい。

【文化庁報道発表】
旧木下家住宅は、勝山市の西郊に所在する民家で、天保7年(1836)に上棟され、その建設には永平寺大工が関わった。主体部は、桁行17.7m、梁間9.6m、入母屋造、妻入、萱葺で、正面の左右に突出部を設ける、いわゆる両袖造の外観を持つ。平面は、正面側を板敷の広間とし、その奥に、2列に座敷を配置している。旧木下家住宅は、越前地方に分布した前広間型平面を基本として、発展した形式を持つ大型民家であり、越前地方における民家の変遷を示すものとして重要である。また、永平寺大工が関わった質の高い民家としても、高い価値が認められる。



福井市内から勝山に向かう九頭竜川沿いの県道は快走路であった。数十メートルも走れば信号に捉まるような都会の道路とは異なり、多少のカーブはあるものの、ただひたすら東の方角へ車のアクセルを踏み続けるだけでよかった。左右に広がる田園風景は夏の日差しに照りつけられながらも、未だ熟しきらない緑の稲穂がそよそよと心地良さげに風に揺れている。雪が積もる地域は夏が特に美しいということを知ったのは、民家に逢うために福井県を訪れるようになった最近のことである。「豊かなクニなんだろうな」とつくづく思う。
さて今回で4度目となる福井訪問の目的は、県の文化財に指定されていた当住宅が平成22年9月に国の文化財に格上げ指定されたことがきっかけであった。恐らく近日中に修理の手が入るのではないかと直感し、是が非でも修理前の姿を見ておきたかったからである。「民家の味」が損なわれる前に、である。
当家が所在する旧北郷町伊地知の集落はすぐに見つかった。しかし集落内をいくら探し歩いても、それらしき民家が一向に見当たらない。同じところをぐるぐると何度も徘徊しているので、集落の住人も相当に怪しんでいるのではないかと思いながら、集落で唯一の食料品店の店主に確認したところ、どうやら川向うの全く離れた場所だと教えられる。どう考えてもおかしいなと思いながら車を走らせると小さな看板が挙がっている。どうやら伊地知集落は岩屋川を挟んで東西に分かれている様子で、当家は東側の上野地区に所在しているらしい。西側の下出垣内地区の方が規模も大きいため、当たりをつけて探し回ったのだが、どうやら無駄足を踏んだようである。上野地区は5〜6軒程度から成る閑散とした集落で、その上手に当住宅はあった。道路に面した屋敷東側に玉石で石垣を築き、屋敷地を区画している。出入口からかなり奥まった位置に主屋が鎮座している。「良かった、昔のままだ。」思わず声を出した。土台の石垣は部分的に崩れ、土壁もところどころで剥げ落ちているが、福井県特有のどっしりとした角を突き出す茅葺の大屋根は健在である。この雰囲気は修理の手が加えられた民家にはないものである。どうやら間に合ったようである。




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