佐藤家住宅
Satou



 
20年程前、私が民家探訪の虜となったばかりのころ、民家関連の書籍には必ずと云ってよいほどに紹介されている新潟県関川村の豪農・渡辺家住宅を訪れねばならないと考えたのは、この世界に生きる者としては至極当たり前のことだった。そこで、当時私は東京に住していたので、「新潟県も新幹線であっという間だ」などと比較的軽い気持ちで旅の計画を立てたわけであるが、実際にJRを乗り継ぎ米坂線の関川駅に到着したときには相当うんざりした気持ちになっていた。さすがに遠かった。
しかし関川駅から渡辺家住宅に向かう途中に、とんでもない民家を目にして、私の疲れなどは一気に吹き飛ぶことになる。渡辺家とは全く異なる茅葺屋根、丁字型と呼ばれる棟が直交する独特の風貌、しかも規模は渡辺家に劣らぬほどに相当なものである。こんなにも素晴らしい民家が、なぜ文化財にもならずに残されているのか。この関川村という地には、何故にこのような豪家が何軒も残されているのか。東京への帰路においても、ずっとこの疑問は頭の中を駆け巡り、落ち着かない気持ちでいたことを今でも覚えている。
その後、平成5年に当住宅はいきなり国の文化財に指定され、世間の注目を浴びることとなる。これほどの家なので至極当然のことだとは思いつつも、せっかく見つけた民家が、いとも簡単に世に知られることで少し寂しい気持にもなった。

国指定重要文化財 (平成3年5月31日指定)
新潟県岩船郡関川村下関897
建築年代/明和2年(1765)
用途区分/農家(庄屋・地主)
指定範囲/主屋・新座敷・上土蔵・米土蔵・新土蔵・門長屋
公開状況/非公開
新潟県北部の旧米沢街道沿いの関川村にある豪農住宅である。関川村下関は在町的な様相を帯びる集落で、街道に面して半商半農的な住宅が建ち並んでいる。当地は北越後を代表する豪農・渡辺家の屋敷が所在することで知られるが、当住宅は渡辺家の3軒隣に位置し、渡辺家に次ぐ大地主であったという。妻入主屋の両側面から座敷部を張り出した姿は、その形から撞木造と称されるもので、これほどの規模の茅葺の丁字屋根は他に類をみない。実に品の良い住宅である。



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