法泉院小前沢坊



岩手県指定文化財 (昭和54年2月27日指定)
岩手県西磐井郡平泉町平泉字衣関185
建築年代/17世紀中期
用途区分/寺院塔頭庫裏
指定範囲/主屋
公開状況/非公開

世界遺産にも認定される平泉の中尊寺を訪れ、境内を縦断する月見坂をだらだらと登って最奥部に辿り着くと、左手に国宝・金色堂、右手に重文指定の能楽堂がある。この能楽堂は藩主・伊達家が江戸末期に中尊寺の鎮守である白山大権現社に寄進したもので、なかなかに良い風情である。さて当住宅は、その白山社の別当である前沢坊の塔頭建造物である。通常であれば、寺院の庫裡建築なので民家として取り上げるべき対象ではないはずだが、その境界が限りなく曖昧で、かつ貴重な建物なので掲載することにした。建物は入母屋屋根の直屋造で、仙台藩領の農家建築では寄棟屋根が一般的であることから、この点については寺院としての格式を示した建前となっている。しかし建物の規模は桁行17.6m、桁行10.8mの上層農家とほぼ変わらぬ大きさで、間取りに関しても座敷の前に奥行きの浅い前座敷を並べ、座敷裏手にナンドを配する、この地域独特の農家建築の間取りである。17世紀末と推定される建築時期は、国重文の後藤家住宅(奥州市江刺区)と県内最古を争うものであり、岩手の住宅史を語るうえで抜きににはできない存在であろう。ちなみに中尊寺支院坊舎の中では現存最古の建物でもある。


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