宮地嶽民家園
福岡県宗像郡津屋崎町宮司
旧中島家住宅 | 無指定・公開 旧所在地・福岡県小郡市大板井 建築年代/江戸中期 用途区分/農家 福岡県内には「鉤屋造」と称されるL字型の民家が比較的よく見受けられる。土間・居間・納戸から構成される棟に対して、座敷棟を前面に突き出す形をとることが多いようである。外観上は同じL字型の形態をとる東北地方に数多く存在する「曲屋」では土間や厩などが突き出されるのに対し、こちらは座敷が前方に出る。こうした違いが風土との関わりにおける民家の変異について我々の想像を掻き立ててくれるのだ。この中島家住宅は、昭和43年度に実施された民家緊急調査において、「鉤屋造」の発生過程を示す貴重な民家として注目されたもので、そもそもは直屋であったものに座敷部を後から建て増したとの言い伝えが残されている。昭和54年に現在地に移築され一般公開されているものの、古い建物だと解説する以外に、この民家の貴重さを示す説明書きは現地には無い。 (2010.3.18記) |
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旧成富家住宅 | 無指定・公開 旧所在地・佐賀県杵島郡白石町 当家が所在していた白石町は佐賀市の西方にあり、有明海の干拓村として全く平坦な田園風景に散居集落が点在するような場所である。当家は正面から見ると寄棟の直屋のようであるが、屋根の棟筋を上から眺めるとコの字形をしており、まるで竃の様な形をしていることから「クド造り」と呼称されるものである。写真は正面からのもので判りづらいが、背面に廻れば、まったく竃のような形に納得させられる。佐賀県を中心とした筑後平野一帯に見られる独特の建前であるが、藩政時代の厳しい梁間制限により、こうした形態に辿り着いたとの説が有力ある。当住宅は正面中央部に簡素ではあるが式台玄関を構え、規模も大きいことから上層に属する農家建築と思われる。内部においても座敷を有するなど、幕末の民家建築としては、見所は多い。 (2010.3.18記) |
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旧谷内家住宅 | 無指定・公開 旧所在地・富山県東砺波郡利賀村 民家園を作るなら是非とも一棟は欲しい合掌造り。やはり日本の民家の代表格だけあって、他を圧倒する存在感である。当民家園の特徴は、主に地元、九州地方の民家建築が集められていることだと思われるが、けれども最初に移築されたのは九州とは何の所縁もない当住宅であった。現在でも人々の関心を一番惹きつけているのは、やはり当住宅のようである。さすがに合掌造りは強い。ところで当住宅は、約27坪程の建坪で合掌造りの建物としては決して規模の大きなものではないが、内部の造作は結構しっかりしている。九州地方の民家とは異なる梁桁の豪壮な架構は、さすがに雪に閉ざされる地方のものである。民家というものが、風土と密接に絡み合い形作られてきたことを弥が上にも我々に知ら示してくれる存在である。個人的には様々な地域の混合展示は余り好きではないが、一般の人々には、その意義は決して小さくはないと思ったりもする。 (2010.3.18記) |
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旧等覚寺庫裏 | 無指定・公開 旧所在地・熊本県菊池郡泗水町 当家は平行二棟造りの希少な遺構である。そもそも熊本県内には、台所棟と座敷棟を別棟で、平行に並べて建てる風があったようである。「あったよう」と書いたのは、残念ながら今では現地でも全くその遺構は失われてしまったからである。二棟造りの系統は、南九州や東海地方の海岸部、房総半島などの広範囲に亘るものの、ごく限られた地域にのみ見られる建前である。太平洋の黒潮とともに伝播したとも云われているが、過去に遠く遡れる個体が失われてしまった現代においては、あくまでも推測の域を出ず、確証はない。当建物は寺院の庫裏建築であるから、純粋な一般庶民の住宅とは異なるが、掲載写真から察せられるとおり、全く簡素、小規模な建前で民家的な色彩に溢れている。屋根の軒が一般の民家と比べて異様に高い点は、格式の高い庫裏建築としての面目と云えるだろうか。いずれにせよ、唯一の存在であるゆえ非常に文化財的な価値が高いものなので、もっと大事にされるべきものである。 (2010.3.18記) |
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高床式平柱小屋 | 無指定・公開 旧所在地・長崎県下県郡厳原町椎根 長崎県の北方の日本海に浮かぶ対馬の建物である。民家の世界では椎根の石置倉庫群の名称で名高い存在で、同様の形をした倉庫は対馬全島に散在してはいるものの、未だに石置きの形態を留め、数がまとまって存在しているのは椎根集落のみとなってしまった。椎根は対馬の中心地・厳原から西へ向って山を越えたところにある小さな集落である。現地に残る十数棟ばかりの石置倉庫のうち、一棟だけが県から文化財の指定を受け保存されている。しかし辺鄙な場所ゆえ、内部までは公開されておらず、外観を眺めるだけにとどまってしまうので、当民家園における当建物の展示は非常にありがたい。当建物の最大の特徴である屋根の置き石(敷き石といったほうが相応しい)は、一枚一枚がかなり立派なものである。頁岩という対馬独特の泥板岩だそうである。 (2010.3.18記) |