バレた投稿


私は学生時代から

絵を描いたり、詩や文章を作成するのが好きだった。

だからと言って成績が良かったわけでもない。

描いている絵はどうでもいい漫画だったし

詩は授業中に浮かんだ内容。

いつも暇だから恋愛の事。
しかも振られたネタである。

そんな内容のノートをなくした時は最悪であった。

文章も書くのが好きだったが

決して「読書感想文」で選ばれる事はなかった。

だけど、自分の思いを書く事が楽しくて、

読んでもらえてまた嬉しさ2倍になって

しかも、
肉筆ではない活字になる喜びが

私に文章を書かせた。


私が中学生の頃には、ケータイもないし手紙のやり取りやら

交換日記と言うのが、女同士の「お友達印」だった。

自分の自筆は、この頃から変わる事ない。

ついでにいつも漢字が間違っている。

社会人になったらこんな字は通用しないだろうと

当時は思いながらも物書きをしていた。


ふと。仲間の間で「毎週日曜日にハガキにイラストや詩、後は

質問コーナーみたいな文章を書いて投稿するコーナーが

あるんだけど、それに同級生が載った」と言う話題を聞く。

私も新聞は、
番組欄と四コマ漫画

そして毎週、その読者投稿コーナーだけを

チェックしていた。

しかし、その載った詩が、

隣のクラスの人だとは知らなかったので

「ふ〜ん。へえ。あ、そう」としか読んでいなかった。

家に帰って、そのコーナーを読み直し

改めて
隣のクラスの女子・・・と思う。

身近な人の投稿が活字になっている事が、自分の中で

なにか衝撃が走ったのを今でも覚えている。当時14歳だった私。

私も何か書いてみようかな〜。まず、イラストから投稿してみた。

誰にも秘密にしていて、ペンネームも私と分からないようにしてみた。

ドキドキの一週間後。

・・・載ってない。ガーン。自信作だったのに。


私は当たり障りのない、バドミントンの仲間に

新聞の投稿欄について聞いてみた。

この頃、実はみんな秘密で其のコーナーに

ハガキを出している事がだんだん分かっていた。

やっぱり授業中に内容を考えているのだ。みんな一緒なのだ。

「あのコーナーは
採用されると、だいたい2週間後に載る」

先輩も後輩も、実はみんなチェックして、自分の作品が

没になったら落ち込んでる。

載ったら笑顔で「ちょっと〜!載った〜!」と

朝一番に教室のドアを開けて言うのだ。


そして「載ってたね」と廊下で声を掛け合ったりするのだ。

それが中学生の私、
「今を生きる」事だと思っていた。

2週間後。また新聞をみた。やっぱり駄目だった。

私、イラスト向かないのかな。そう思いながらもハガキを片手に

右手にペンを持ち、次の文章で勝負してやろうと思っていた。

今度は文章だ。ハガキじゃ足りない。便箋だ!



新聞の投稿している人を見ていると、個人的な悩みやら

学校での出来事を書いている。大学生や社会人の人もあって

このコーナーは中学生の私にとって、視界の広い物に見えた。

だって身近に、20歳過ぎた人の考えている事を

知るなんて事なかったから。

20歳過ぎている人の考えは、親や先生しか居なかったから、

同じ恋についての悩みでも、

私らよりも質の深い思いなんだな〜と思っていた。

でも、そんな大人にアドバイスなんて出来ない。




其のコーナー、私は今したい「バンド活動」についての内容を

書いてみた。もうすぐ受験生になるし、高校に入ってから

やってみたいんです。みたいな内容だったのを覚えている。

其のコーナーに載るのも楽しみだったけど、

どんな人が私にアドバイスをくれるのかも、大変興味深かった。

・・ま、没になったらそこで終わりだけど。

其のコーナー募集には「オリジナル作品で」と書いてある。

そして「機械でハガキや手紙を読みますが

漫画字や読みにくい字は苦手なので、

ちゃんとした字で書いてください」と載っている。

・・・機械が手紙を読み込むのだと完全に思い込んだ私は

なるべく活字に近い字で手紙を書いた。

ペンネームは、「みかりん」ではバレバレだし、どうしよう。

一瞬悩んだが即、ペンネームが決まった。

「LOVERS」!これは当時のプリプリのアルバムのタイトル。

女の子だけのバンドをやってみたい!プリプリみたいな

元気で明るいパワーのあるグループでやってみたい!

そんな願いも込めてのペンネームであった。


2週間後。「LOVRES」での投稿が一番に書いてあった。

おお!載った!心の中で私は叫んだ。やった〜!

イラストは没だったけど、文章は載ったイェ〜イ。

でも、学校に行って、私は「載ったー!」と言うつもりはなかった。

なんだか本当に載ってしまうと、他人事のように思えてしまった。

それはたぶん、今まで生きていて自分の思いが

活字になった事で、どこか無機質に感じてしまった部分も

あったのかと思う。

見慣れた自分の字じゃない違和感のせいか。


しかし、周りは「すぐにみかりんだと分かったよ」と言われた。

私は知らんふりして「え?私じゃないよ。だってあの人は

したいのボーカルでしょ?私、エレキギターだもん。」

と答えた。2〜3人は「あ、その言い方だと本当に人違い」と

思ってくれた。
私は何気に演技派なのかと思った。

(大人になってからあまり演技が出来ない事に気づく。)

母親にも「これって、あんた?

あんたのわりには文章上手いんじゃない?」と褒められた。

母は私の文章など「卒業文集」や「作文」しかみた事がないのだから

まともに「本当にしたい思い」と言う内容をみて

少し驚いたのだと思う。


塾に行っても、他校の友達らにもバレていた。

ちょっと!どうして分かるのよ!?

「だっていつもバンドしたい〜バンドしたい〜

ライブで盛り上がりたい〜って言ってたもん。」と言われた。

・・・そうか、もうバレバレだったのだ。

当時、一緒に下校していた友達Mちゃんにも

「あれって、やっぱりみかりんでしょう?」と

聞かれた。もういいよ、みんな。

そんなに其のコーナーは見られるものだったのだ。

「違うよ」私はまた言った。でも今回、スルー出来なかった。

何故なら!

「私の知り合いが、其のコーナーの仕事をしている人で

私の家の近所の人のハガキが来たよ。と教えてくれたの」と言う。

なぬ!?それを知っていたら私も出方を変えたのに!

Mちゃんの話はまだ続く。

「機械は漫画字が苦手って書いてあるけど、

実際は働く人がその投稿を見て

新聞に載るように作るものだから、漫画字でも

何でもOKなんだって。
でも、

みかりんがきちんとした字を書こう、書こう、と

必死になって書いた字が

目に留まったみたいだよ。」

・・・私は穴があったら入りたい気分だった。

私が美術で習ったあの、レタリング風の字で

なんとか読み手が見やすい様に書いた字!

ここまで素性がバレたら、もう笑うしかない!

お〜ほほほほほほほ。そうですよ。もう降参。

私があの「LOVERS」ですよ。


そして、2週間後。私の内容に

顔の知らない高校生の女性からの

返事が載っていた。嬉しかった。

これが面白くて、恋愛がらみの事や

時には詩を書いて

載る事が快感になった10代の私。


其のコーナーを見ていると、毎回投稿している人の

顔ぶれが分かる。みんな文面上しか

お互い知らないけど

名前を見て「あ〜、あの人 新しい恋したんだな〜」とか

「失恋の話書いてる・・別れたんだ」と

言ったり言われたりしていた。

もうひとつの自分の生きる世界みたいで

面白かった。


顔の知らない人のアドバイスが

もしかしたら、電車で隣に座った人なのかもしれない。

それともクラスメートで、

他人のふりして書いてくれたのかもしれない。

または、買い物に行って

レジの前で並んでいた人かもしれない。

今もこうして時間を過ごしている間に、

返事を書いてくれるのかもしれない。

今で言うと「メル友」とか「トピック作成」みたいな存在だ。



あれから15年くらい経ったけど

今でも其のコーナーは

新聞のスペースは小さくなっていたけど

ありました。

集いの場が、このまま語り継がれますように。