断ったダイビング


沖縄旅行二日目。パイナップル王国を観た後のスケジュールは

海に潜る事である。

初めから乗り気じゃない私。水着になるのは久々だからいいけど、

潜ったら化粧取れるじゃない。

「大丈夫。海に浮いているだけだから」Lはそう言い

電話で予約を入れている。海の中を行き来する魚の群れ。

海の中がキレイな世界である事。

そんな話を聞かされたり、写真を見せられれば「いいなあ、別世界だなあ」と思う。

でも。私は アウトドア系ではない。イン・ドア派な女なのだ。

私の人生に、海に潜ると言う一大イベントは、自ら取る行動ではない。

しかし。これも付き合い。まあ、いいか・・と思い三名で予約を入れる事にした。


着いた先にはインストラクターと呼ばれている男性が居た。

そして 車の窓には全身黒の海に潜る人が

着る水着らしいモノが、ぶら下がっている。

茶髪で日焼けしたお兄さんが、「お待ちしておりました」と私らに声をかける。

お金を払い、これに記入をしてくださいと言われる。

名前、住所、電話番号、これまでに病気にかかった事があるかどうか。


そして「何かあった時の連絡先」「誰に知らせるか?」と言う項目・・・。

最後には死んでもいいです!と言うところにサイン。

・・・・私はボールペンを握り締め、

「・・・今から海に潜る事 誰にも言ってない・・」と、つぶやく。


何かあった時の連絡先って、両親だよね・・。死んでもいいって名前書いて

本当に死んだら、父は「そんな話 聞いてない」と怒るだろう・・・。

もしかしたら、これから取る私の行動は命がけではないか。

スポーツ万能、根っからの体育会系なら ともかく

見るからにインドア派。キャラクター違い、この場に完全に浮いている

ヒラヒラしたワンピの私の姿に、

インストラクターのお兄さんも言う。


「海に潜るので、こ〜ゆ〜 足袋を履いてもらいます、そのようなサンダルでは

行けるような場所じゃないですよ。崖があります。そこを降りて海に潜ります」

どうやら、魚のヒレみたいな足をしながら、海に向かうらしい。

私は 駐車場の側にある休憩所から、その潜るらしい海を見る。

5メートルくらい先に、潜るコーナーが黒の丸い物を置かれて


線引きされている。その一角は、陸地の側ではない。足元を見下ろすと

10メートルくらいの崖の下に海が見える。私は軽いめまいがした。

酸素を背負って潜るのではないので、簡単なのだと言われても

この高さから見る海は、私にはあまりにも恐ろしい。

勇気と度胸が必要とされ、命まで賭けなくては ならないゲームに思えてくる。

足が震える・・・。私の頭には「死亡した場合の連絡先」と言う、全くの盲点だった

記入欄が浮かぶ。承諾して潜ったのだから、当社では責任を負いかねます。

確か そのような内容だったと思う。


命の綱を離さなければ大丈夫とは言うが、全く自分らしくない行動。

私を知る人なら「自殺行為」と言うであろう。

すでに私は死を覚悟しているような気分になる。

私には マリンスポーツを楽しめる、ガチャピン根性

持ち合わせていないのである。


キレイな海で死体になっては、シャレにならん。この軽いめまいは

私への警告だと思い、海に潜るのを止める。



インストラクターの方は、「いいよ、無理しなくて」と返金してくれた。

断ったのに、イヤな顔をしないで「飴でもどうぞ。車の中で待っているより

あの休憩所に居た方が涼しいから」と笑顔で言ってくれた。

本当に、すみません。私は頭を下げる。

はりきっているLと、「これも付き合いよ」と、勇気のあるN子。二人は

水着の上に、例の黒い全身タイツみたいな水着を着る。そして

水中メガネと、呼吸するマウスと言うものを渡されている。

「水中メガネは、鼻の場所をしっかり固定してください。中に水が入ったら


外して水を出します。」・・・・地上に出れていればいいけど。。。。

水の中だったら苦しそうだ・・・。私は また脅える。

「呼吸は口でします。このマウスピースは噛んでください」

彼女らは 大変 勇気があるのだなあ。と関心している私である。

「みかりん、1時間半 どうしてる?ドライブしに行ってもいいよ」とLに言われるが


土地感覚もない私に 一人でドライブなんて、これもまた自殺行為。

散歩でもしようか。いいわ。昼寝でもしようか。メールでも打ってようか。


「海の中の景色を二千円で、撮影できます」と話を振られている彼女らを

私は客観的に見ている。どうやら海に潜らない私に、その世界を見せてくれるらしく

Lは写真をお願いしていた。「じゃあ、 行ってくるね!」「行ってらっしゃ〜い」

私は見送る事しか出来ない女なのである。


ほっと胸をなで下ろして、沖縄の海を見る。ああ、良かった。

朝に見た時と同じ 穏やかなキレイな海だ。こんなに素敵な海でも

心の持ちようによって 恐怖になる。それは私みたいな凡人が

海に潜ろうとした事で 勝手に引き起こした恐怖感だけど。

同じ海を見ても Lの様な行動派には、この海に潜る行動は

たまらなく魅力なのだろう。

恐怖心より、好奇心が上回ると 怖いものなしになる。


私は、付き合いが悪いのだろうか。

命がけの行為と思えるのは、私だけなのだろうか?

この件で再確認した事。それは

私は踊ったり、歌ったり、どうでもいい文章を作成しているのが好きな事。

健康的に太陽の下で、アウトドア派になるには無縁である事。

そう言えば 学生の頃は体育の時間は サボっていたい女だった。

体育着が苦手。プールに入ったら髪セットし直し!大きなボールは凶器。

校庭 走ったら、肺苦しいでしょ〜。

でも。エアロビクスの時間は、すごくいいけど。そんな感じだった。昔から

私はやっぱりイン・ドア派なんだわ。いいわいいわ。次のホームページの

ネタでもメモしよう。こんな感じで一人で時間を過ごした。



夕日がまぶしくなる頃、L達が無事に戻ってきた。

「キレイだったよ〜!魚の写真 撮ったからね」「海から上がると寒いねえ」

二人は そんな会話をしながらシャワーを浴びに行った。

下に着ていた水着まで びしょびしょとの事。

2〜3メートル潜った彼女らは、達成感と充実感で素晴らしい笑顔だ。

ごめんよ、共感してあげれなくて。

「ね?N子も無事だったから、今度は是非みかりんも!」と

Lに誘われる。



そうだね。N子は生きた証人だね。


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