誰にも見せられない姿・・・



女はいくつになっても

「人に見せられない姿」と

言うものがある。


スッピンもそうだし(←あ、エステの時は大丈夫か)

裸もそうだし(←これも人によるか)。


完全に一人の時にしか

出来ない事もある。

無駄毛の処理とか

アンダーヘアーのカットとか

想像する分には

誰でも出来るが

公に見せたくない姿が

確実に存在する。


そして今回!私は

「一人だから出来た」と思える事に

遭遇した。


誰かと一緒だったら

大変困ったのだ。

普通、人はピンチの時には

誰かのSOSを欲しがるものだが

この場合は別である。

「誰も見ないで!」と言う思いで

一杯になってしまったのだ。


それは、先日の仕事の

お昼時間に起きた。

私はお弁当を食べていた。

おかずに小魚を食べていた。

骨の密度を上げる効果もあるし

カルシウム不足だと困るからである。

この小魚は、大豆と一緒に

炒めたおかずである。

私が小・中学時代に

給食のメニューで出た物を

母(&母の友達)がレシピも見ずに

作り出せたと言うおかずである。

砂糖とかつお節の味がしみ込んでいて

小魚はカリカリするのだ。

さらに「クルミ」を入れると

ますます美味しくなるらしい。



私は、そのおかずを食べていた。

小魚はカリカリに焼けていた。

そんな時、私の歯になにか

真っ直ぐに突き刺さる感覚を覚えた。

歯と歯の間に

押し込まれたような違和感。

口を開けて、鏡で覗き込むと

前歯と糸切り歯の2本の歯が

被害にあっていた。

そう!歯と歯の間に

小魚が刺さったのである。

しかも、縦に真っ直ぐに。

見事だ。こんな事って

あるのだろうか?

・・あるのだろう。

ここに生きた証人がいる。

私は、鏡を見ながら思った。

歯と歯の隙間に

どうやったら、まっすぐに

入り込めるのか?

しかもカリカリに焼かれているので

歯と歯の間に

押し込まれた感じがするのだ。

ずっと鏡を見ていると

無意識のうちに

ヨダレが出てくる。

人は、あまり口を開けていると

ダラダラになると言う事を

確認した。


さて。どうやってこの状況を

脱出したらいいのだろう。

私は、この歯と歯の間にいる小魚の

異物感が、だんだん膨張してきた。

歯の間で、魚が

もがいている気分になった。

何故なら、歯が圧迫されるからだ。

もう、死んで焼かれて

食べられているのにも

かかわえらず、なんという生命力!

私は、ランチを中断して

鏡を見つめながら一人思う。


・・・これが私一人で良かった!

もし、誰か一緒だったら

この口をポカンと開けて

鏡で見ている姿は、

大変マヌケである。

私は、この歯と歯の間の小魚を

なんとしようと思う。


タイミング良く、割りばしの袋に

爪楊枝が入っていた!

私はこの爪楊枝で

小魚を取ろうとした。

鏡を見ながら、現在地を確認。

良く見ると歯と歯の間には

ちょっぴり黒くなっている。

しかも歯の根元、

歯茎から突き刺さっている。

全く・・・どうしたら

このように小魚1匹が


ストレートに入れるものなのか。

こんな狭き門に。

このまま放置PLAYをしたら

ここから虫歯になるのではないか。



私は、決して人前では出来ない

爪楊枝で、歯の間に挟まった小魚を

取り出す作業をしてみた。

歯茎から埋まっているので

そこに爪楊枝を当てて

力を入れてみた。

バキっと音がして爪楊枝の先が

壊れた。

ええええ!なに!?

流れてくるヨダレを拭きながら

鏡に映る自分の口の中を見たら

血が出ていた。

黒と赤のハーモニー。

私、こないだ買ったボディコン

この2色なのを思い出した。



・・・つ・・爪楊枝が割れた。

二つに割れた。

バキっと音がした。

・・・私はちょっとショックだった。

もう死んで焼かれて

調理された小魚の鉄のような

強さも驚きだが

それ以上に

「このまま取れなくなったら

どうしよう」と言う不安が

大きくなってきた。

私の歯と歯の間での

異物感の度合いも増えてきた。

もう、お昼ご飯どころじゃない!


爪楊枝が壊れてしまって

次は私は何を武器にしたらいいのか?

化粧品ポーチを見た。

ピンが入っていた。

だけど、ピンの先は丸い。

これでは役に立たない!

とにかく、先の方が尖っていて

歯の隙間に入っていく物じゃないとダメだ。


私は、随分前だけど

100円ショップで買った「歯の歯垢取り」の

アイテムを思い出した。

歯の間に歯垢が溜まったら

気軽にケアできるアイテム。

これは、先っぽが金属みたいに

尖っていて最適だ。

ああ・・家に帰るまで

この歯の圧迫感を感じながら

過ごさないといけないのか。

私は肩の力が抜けた。

あと、何時間の辛抱だろう・・。


・・・と、その時!

私は壁を見ていた。

鏡から目線をずらしたら

壁が視界に入ってきた。

しかも、その壁には

「画鋲」が刺さっていた。

あああ!これだ〜!

すごいタイミング。

怖いけど、また血が

出るかもしれないけど

画鋲の先は、使えるかも!


私は、一刻も早く

この小魚を取り出したい一心で

画鋲を手にした。

鏡を覗きこんで

息を飲んだ。

・・・どうか、この画鋲で

歯の隙間に入り込んだ小魚を

取っている姿を

誰にも見られませんように!

私は出てくるヨダレを拭き取りながら

願った。

そして、歯茎に画鋲の先を置いて

上に向かって力を入れてみた。


歯と歯の間が

痩せた感じがした!

小魚が少し取れたようだ。

歯の裏側からやってみたら

その勢いで、前の方に

残りの残骸が、移動したのかも。

今度は歯の表面から

画鋲を通してみた。

舌で、歯の表と裏の感覚を

チェックしてみた。

これしか、チェック法がない。

全部ではないけど

確かに爪楊枝より

取れたようだ。

そして、画鋲を見て見たら

なんと!真っ直ぐだった画鋲の先が

真横に(45度方向)曲がっていた。

ぎゃああああ〜〜!うそ〜!

なんで〜!?

私は、90度の位置に

画鋲の先を戻してみた。

これで、ちょこちょこ

歯をいじってみた。

この先の鋭さと、歯茎に埋まる感覚。

なかなかのアイテムだと思った。

それにしても・・

爪楊枝は壊れたけど

画鋲は壊れなかった。(曲がったけど)

もしかしたら

歯も頑丈なのかも!

小魚の根性にもビックリしたけど

人間の歯も強いなあと思った。


歯と歯の隙間も

なんとなく元に戻ってきたように

思えてきた。

良かった。

そして、一番良かったのは

この女を忘れたような姿を

誰にも見られずに済んだ事である。