右手袋の行方


私は車の運転をする時に

夏場は腕の日焼けをしないように

ヒジまである黒の手袋をしている。

もう何十年もそうやって運転しているので

これが当たり前のスタイルになっていた。

この手袋は、手のひらの所には

滑り止めのような、ブツブツが散りばめてあり

ハンドルを取られる事なく

安心して運転が出来るのである。

私は、この手袋の存在が

空気のようになっていた。

必ず、助手席か後ろの席にあると

思っていた。


そんなある日。いつものように

シロに乗り、黒の手袋をする。

BGMは、地球に優しい

ダンスミュージック。

眼鏡使用のメガネを掛け

快適に運転をいていた。

私の今日の目的は銀行。

所が、銀行の駐車場は込み合っていた。

道路側からも、もう車がなかなか止めれないのを

見た私は、向い側のコンビニに停める事にした。



後で「コンビニスイーツ」買うから

ちょっと留めさせてね。と思い

無事に駐車。

手袋を取り、バッグと日傘を持った。

愛車のシロのロックがかかった事を

チェックしたら、銀行に向かう。

ここも行列が出来ている。

ああ、そうか。今日は年金が出る日なのか。

後期高齢者が沢山並んでいた。

私は自分の用事を済ませ、

コンビニ前に停めた愛車のシロに向かう。


「ちょっと待っててね。今から

スイーツだけ買ってくるからね」と

声を掛けた。



コンビニに並んだスイーツを見て

どれにするか迷う。

フワフワのシフォン素材の中に

生クリームが入ったお菓子にした。

それだけ買ってシロに乗る。

そして、悲劇はここから始まった。

私が運転席で、手袋をしようとしたら

右腕用の手袋がない。

あれ?私、どこに落としたんだろう?

片方の手袋は助手席にある。

普通、こういう時一緒に「ペア」になって

あるものだが見つからない。

私は運転席側の椅子の下や

周りを見渡した。

でも見つからない。



愛車のシロは、運転席と助手席の間に

腕を置く場所がないので

私はオリジナルで、ティッシュボックス3段立てを

レースで包めて、置物にしているのだが

その「手を置く場所」のティッシュボックスを

動かしてみても、下にも手袋は落ちていなかった。

私は運転席側の後ろのドアも明けて

見たがなかった。

もしかしたら、ドアを開けた時に

手袋が外に落ちたかも。


そう思い、車を降りて

シロの付近の道路を見たが

手袋は落ちていなかった。

助手席側には

傘と、日傘が2本。

下にあるのは、私の靴のみ。

あれれれ?どこに行ってしまったの?



運転席側にいる人間にとって

右手&右腕と言うのは

日差しを浴びるようになっている。

これはマフィーの法則なのか←(古い。)

失くしてしまったのが

右腕用だったために

日焼けをしてしまう。

失くしたのがまだ左腕用だったら

良かったのに。

私は左用の手袋を

右手にしてみた。

これなら少しは日焼けもしないし

ハンドルも暑くない。


だがしかし!

左用の手袋を右にしようと

思うのが間違い。

小指付近の手のひらが

変な感覚で引っ張られるし、

親指の入る場所も反対側に

行こうとする感覚。

大変、ハンドルが掴みにくい。

こういう場合、日焼けや暑さを無視して

素手でハンドルを握った方が

良いのではないか?と自分に


問いながらも、運転する。


それにしても

車用の手袋がないだけで


こんなに窮屈な思いをするなんて。

今まで考えた事がなかった。

手袋の有難味がすごく分かった。

新しく買わないとダメか。

大した金額ではないけど

ちょっと無駄な出費だな。

しかし・・なんでこんな狭い空間で

片方だけ無くなるのか?

駐車場に落ちた手袋を取る

物好きな人もいないだろう。

落ちていないと言う事は

必ず車内にあるはず。

だけど、見つからない。

これはもしかしたら

神隠し!?

それとも、なんか見えない力が

働いて、どこかに消えた?

私は発想がオカルトなので

次々と変な事を思う悪い癖がある。

もしかしたら、ミステリーゾーンに

私は紛れ込んでいるのだろうか?


どんどん怪しい人になってくる。

どんどん思考回路が変になってくる。



そして、私は一番重要な事に気づく。

助手席側のドアの隙間に

もしかしたら右手の手袋は落ちていないか?

先ほどは、運転席側しか見ていなかった。

私は、家に付いて

助手席側のドアを開けてみた。

すると、助手席側と椅子の間に

黒の右手袋は落ちていた。




あああああ!!あった〜〜!!



私は、右手袋が無事に出てきて

安心した。

これで今まで通り

暑いハンドルを触らなくて済む。

日焼けもしないで済む。

無駄な出費もしないで済む。


なんでもかんでもオカルトのせいに

しないで済む。