さようなら、Tちゃん


その時、赤信号で止まった私の視界に

突然、入り込んできた物。

見覚えのある名前の

葬儀の看板。

朝の通勤時間。

相変わらずの爆音をBGMにしながらも

信号が青になるまで、私はその看板から

目を離せないでいた。



もしかして、あの看板は

中学時代のTちゃんなのか。

しかし、ありふれた名前。

同姓同名も沢山いるはず。

だが、住所をみると

どうもTちゃんの様な気がする。


私は職場の駐車場に

着くと、すぐに母に

電話をした。

「Tちゃんの事だよ。」と言われた。

さすがご近所情報通の母。

Tちゃんの向かいの家の人から

丁度話を聞いた所だったと言う。

私は駐車場から、職場に向かう途中

朝から沈んだ気分になった。

「病気だったみたいで、

この1年自宅に

戻ってきたみたいだった」との事。

結婚して幸せな家庭を

築いていたのではなかったの?Tちゃん。

一体何があったの?

変な胸騒ぎがして、私はこの件を

誰かに知らせたかった。


私は、み〇み〇に連絡をした。

久々の私のラインより

Tちゃんの亡くなった事に

ビックリしていた。

み〇み〇も、仕事なのに

合間を見て連絡をくれていた。

私も気が気でないままだったけど

仕事に救われた。

お客さんが来ると、気が紛れた。


私がお昼時間に行く頃

み〇み〇

「グループライン」を作ってくれていた。

しかも、
み〇み〇

いち早く葬儀会場を見つけてきて

Tちゃんの告別式の日程を

画像付で、みんなに知らせてくれた。

グループラインで、久々に会う

同級生達。


本来なら「久しぶり〜」と絵文字や

スタンプでやり取りをしたい所だが

状況が状況なので

そんなやりとりはなく、

「今夜のお通夜、何時に行く?」と言う

流れでつづられていた。

また各自、個人的に連絡が付く人に

連絡をし合っていた。


お昼時間が終わり、

再び私も仕事。

店にいる時は、気が紛れて助かった。

だけど、ふとTちゃんのお通夜が今夜と

言う事を、思うと胸が締め付けられた。


夕方の休憩時間に

ラインを見たら

グループラインが凄い事になっていた。

私が見なかった時間に

私が知らない間に、

事は動いていた。

まるで「掲示板」や

「チャット」をみているよう。

これは古い表現なのか。


今で言う「ツイッター」の状況?

誰が何時ごろ会場に行けるか?

駐車場で待ち合わせをする件など

それぞれのやりとりが記してあった。

こういう時、時代の凄さを感じる。

そして、個人的なやりとりだけでは

見えない、他の人達のやりとりを

垣間見る事も出来る。

なんて便利な機能なんだろう。



私は、悪友Mに個人的にメールをした。

するとMは即、電話をくれた。

私はタイミング良くその電話に出れた。

Mとの会話も「久しぶり!」で始まったと

思ったら世間話も出来ず

単刀直入に「今夜6時半だって」と

私が言った。

Mも「じゃあ、私みかりんに

時間合わせるから

会場の駐車場で

待ち合わせしよう」との事。


「私は着替えて行けないから

制服だわ。黒だからいいよね」

「仕方ないよね。

私は着替える時間あるから

喪服で行くね。

みかりん8時ごろね。了解」

その短い会話で、一瞬で決まった。

そして、ライングループを開いたら

同級生がもう一人一緒に

行く事が決まった事や

保護者会を途中で抜け出してくると言う

み〇み〇の状況が書かれていた。

みんな、Tちゃんのお別れに

時間を合わせてくれていた。

すごい絆を感じた。

朝の看板の件で、

夕方までこんなに

話がまとまって、一部の同級生が

一丸になるなんて。

私はそのみんなの思いに感動した。

Tちゃんは、私に何か訴えていた?



夜7時。私は仕事終了。

今からお通夜に向かう。

ライングループを見たら

すでに6時半の時点で

「会場着いたよ」

「Yさん、どこ?」

と言うやりとりが残されていた。

私も混ざって

「Mと夜8時ごろ着くよ」と

ラインを打った。


今日の朝、お葬式の看板を見て

まさかの今夜がお通夜。

それでも、集まれると言う

この私らの団結力。

私は、そこに感動していた。

そして車を走らせて

会場に着いた。

Mは喪服姿で、車から降りてきた。

久々のMとの再会が

Tちゃんのお通夜。


中に入ったら、輪になっている人達。

「あ!みかりん!Mちゃん」と声を

掛けてくれたのは、Oちゃんだった。

私は、Oちゃんとは本当に

15〜6年ぶり位だった。

利〇ちゃん、日〇さん、み〇み〇

たまごちゃん、みんな私らが来るのを

待っていてくれたのか

それとも懐かしい再会に

花を咲かせていたのか。

私とMは、Oちゃんらに

「あっちでお線香あげてきて」と


案内された。


Tちゃんのお母さんと、妹さんに

挨拶をした。

私とMが最後だったらしく

そのままお線香を上げて

お棺に入ったTちゃんに会わせてもらった。

ただ眠っているだけでしょう?

そう思いたかった。

まさか自分がここでボロボロ泣くとは

思わなかった。

「最近の写真がなかったから

短大時代の写真を飾った」との事。

全然、変わってない。

正確には、Tちゃんが中学2年生の、

転校してきた時から変わってない。

「みかりん〜みかりん〜」と

言っているTちゃんの声が

聞こえる気がする。

私とMは、すっかり座り込んで

Tちゃんのお母さんたちと

話をした。



Tちゃんは、私らの

仲良しグループだった。

中学3年生になった時、

私はTちゃんとクラスが離れた。

私がTちゃんのクラスの男子を

気になった頃、ちょうど私のクラスには

Tちゃんが好きな男子が居て。

お互い、その男子の情報交換をした。

修学旅行の頃かな。


Tちゃんが、私の恋に協力的に

動き過ぎてくれて、

好きなのバレてしまったの。


そして、結果両想いになれたと言う。

そんなエピソードがありました。

と言う昔話を聞いてもらいました。

あの時、Tちゃんキューピット役に

なってくれたよ。

だけど、44歳の今、


キューピット役終えて

エンジェルにならないでよ!!

そんなTちゃん。

でも、貴方はまた私を誰かと

繋げてくれましたね。

はい。同級生の女子達です。



私とMが、Tちゃんに最期の別れを告げ

帰ろうとしたら。

まだ私らの同級生らが輪になっていた。

もしかして、私らを待っててくれたの?

一番化粧の濃い私が、

目元に色がなくなったもんだから

みんなビックリしていた。

そして、みんなはお線香を上げただけで

Tちゃんのお母さんたちとは

あまり話をしなかったと言う。


みんなは、同級生らが集まって

久々の再会で、思い出話に

花が咲いていた。


Tちゃんが、私らを逢せてくれたんだね。

今、思うと1月にみ〇み〇

遊ぼう!と声をかけてくれて

会えなかった事があった。

私も会えれば、Mも誘って

いつのまにかみんなで・・と言う感じだったのだが

「また今度」と言う事で持ち越した。

そして、今日!Tちゃんの導きで

形は違うけど、
み〇み〇達と会えた。

話が出来た。



「看板をみつけたみかりん、エライ」と

言われた。

「団地から出ないから、看板なんて

私は見つけられない」

「良くTちゃんって分かったね」と言われた。

でも、私は第一目撃者←なだけ。


あとはみ〇み〇が、みんなに連絡を

回してくれたんだよ。

M曰く「さすが同窓会の幹事。

率先してみんなに連絡してくれた」

あとは各自、それぞれ付き合いのある人に

回してくれた。


こうしてTちゃんのお通夜に

集まれた友人たちの、

熱い思いを感じる。

悲しい話題から、いつのまにか

最近の話をみんなでしていた。

閉館の時間で、電気が消えても

外に出て、みんななかなか

帰ろうとしなかった。


「Tちゃんの分まで生きようね!」

「みんなで近いうち会おうね!」

そう言って、別れた。



家に着いて塩を巻こうと

思っていたら


私の制服のポッケにいつも

塩が入っているのに気付いた。←


そして、いつも昼間しか会えない

近所の猫、コロちゃんが

私の元に来てくれた。

コロちゃん!?夜遊び出来ないのに

どうしたの?

コロちゃんは、私がTちゃんを失って

淋しがっているのを知っていたみたい。

コロちゃんを抱っこしたら

シャンプーのいい香りがした。

そして、温かかった。




生きていると、温かいのだ。