白い粉


いつのまにか私は、小さいビニールに

白い粉を入れて持ち歩いている。

その白い粉とは、紛れもない「塩」である。

中身を「塩」だと知らない人に

ビニール袋を見せたりしたら

私は「怪しい人」に思われてしまうだろう。

これは覚せい剤ではない。

自分を守るための「お清め」の塩である。

この塩は、自分にまとわりついたと

思われる相手の思いなどを

振り払う事が出来る。

塩を振った後は、スッキリするのだ。

この塩には、他にも役に立った事がある。

お葬式の帰り、

玄関のドアを開ける前に


自分の塩で清める事が出来た。

また、差し入れで

カットされたスイカをもらった時

塩がなくて、自分の塩でなんとかなる!と

思った事もあった。

(しかし、お清めの塩の役割とは別かと

思い、そのスイカは塩なしで食べた。)

塩を持ち歩くとは

日常のあらゆる場面で

この様に活躍をするのだ。



そもそも私が

塩を持ち歩きするようになったのは

30代の頃である。

友人が「この頃、車の当て逃げもされた。

失恋もした。いい事がない」と言っていた。

その友人が言うには

「清めた方がいいと思って

私は塩を持ち歩いているの」だった。

私は、「ええ!マニアック」と思った。

同時に「それって、何か危ない人では?」とも。

しかし、「類は友を呼ぶ」で、

その友人の塩を持ち歩く行為を

自分もしたのである。

さすが同類である。


私は周囲から

いつのまにか「オカルト好き」な人として

定着していき、

今の職場でも

「ムー大陸」が好きそうな人、

「みんなで輪になってUFOを呼びそうな人」と

思われている。

(それでいいのか!?いいのだ)

その一方で「タロット占い」を頼まれたりする。

しかも私はプロじゃないのでタダ。

そんな私は

塩を持ち歩きしているのも

普通の事と思われている。



こないだある人のパワーストーンを

触らせてもらった事があった。

(珍しい石らしく、名前は忘れてしまった)

その時はなんともなかったのだが

後から、すごく体が怠くなった。

「人の石は触らない方がいい」と

言われた事があったけど

今までダメージを受けた事が

なかったので、ビックリした。

しかし、塩を蒔いたら

気分がスッキリして冷静になれた。

こんな事もあり、私は塩を大事にしている。

しかも塩の役割は浄化だけではない。

調味料らしく、スイカの甘味をもっと

引きだしてくれたりする。

塩キャラメルだってそうだ。

なので私は塩が大好きなのだ。


さらに持ち歩きしている塩は

振り撒かなくても、お守り効果があると

思っている。

だけど、塩も酸化するのか

だんだん持ち歩くと

塩の性質が変わって行くような気がする。

サラサラしていたのが、

ボソボソとしてくると言うか。

これは何かの思いを

吸収してくれているのか。

そんな思いを抱きながら

私は今日も職場に居た。

そんな何気ない日常で

ありえない事件が起きた。



事の始まりは、朝の掃除時間だった。

Sさんが突然、大声を上げた。

周りがビックリして駆けつけた。

なんだろう?
春だから毛虫でも出たか?←

すると、Sさんが言う。

「ここの棚から、トレイを出そうとしたら

(商品を置くおぼんみたいな物)

怪しい白い粉が出てきました!!」

みんな「どこからこんな白い物が?」と

顔を見合っている。

私は、一瞬


自分の手持ちの塩だろうか?と思った。

みんなは、私の塩の事を知っているので

この「おこぼれの白い粉」を見て

真っ先に私を疑うだろうと思った。

所が、誰一人「みかりんさんの塩?」とは

言わないのだ。

もしかしたら私の塩は

いつも小さいビニールに入っているから、

私の持ち物だったら、


「ビニールごと置き忘れている」
と、

思ってくれているのかもしれない。

みんな、その白い粉の入ったトレイを

見つめている。

そして、当然ながら誰も触ろうとしない。

私は駆け寄って、「その粉って

私の持っている塩と

同じでしょうかね?」と聞いてみた。

今になって思うと、

この様な問いかけをされても

誰一人、
「同じかどうかなんて

分かるか〜!このボケ!」だろうよ。

この様な怪しい白い粉だけが

突然と現れると、

どこから湧いてきたのか?と思う。

私の塩と同類かどうかなど

この際、どうでもいいのだ。

私は、この塩が

私の持っている塩と比べると

「ベタつきがあるのと、キメが細かくない」


言った。

なので
、「これは塩ではないと思う」と。

「でも、しょっぱかったら塩でしょうね。」
と。

勿論、誰も舐めてみる勇気もない。


Sさんは、粉の原因の場所をさらに

深く追求している。

すると、「ああ!分かった!この白い粉は

ディスプレイ用の粉です!」と言った。

どうやら、棚の奥から

小瓶に入った白い粉が

トレイの上でこぼれてしまったよう。

フタも取れていた。

わあ。良かったね。

どこからか湧いた白い怪しい粉じゃなくて

良かったね!



「でも、この粉って、塩なんじゃない?」

「塩に似たような感じにも見えますね」

「じゃあ、誰か舐めてみる?」

「それはイヤっす!」


塩かどうか分からないけど

この怪しい粉は

私のビニールからこぼれた物じゃなくて

本当に良かった。