内部進入物語


「あ!あった。あの彫刻等のお面、あれを彫ったの私!」

弾んだ声がする。悪友Mが嬉しそうにケータイに、その画像を写している。

晴れた水曜の午後。私は自分の肩くらいしかない高さの靴箱を見て

「昔は こんな背丈だったんだ」と思う。

あの当時の視点では見えない風景が、今は見える。

その位、大きくなってしまったんだね。

ふと、靴箱の上を見上げると、20年前に彫刻等を彫ったお面を発見。

「昭和61年 卒業生作成」と書いてある。

20年ぶりに 思い出話をきっかけに 

たどり着いてしまった小学校。

私とMは、勢いで来てしまった。

私もケータイを持って撮影の準備をしていると

先生らしい人がこっちに来たのだ。


うう!ピンチ。私らは どこからどう見ても、

生徒には見えない(当たり前である。)

ましてや「小学生の子供を持つ母にも見えない」(いかにも独身だ)

もしかしたら、私達は「怪しい侵入者」ではないか?(オー マイガッ!)

「こんにちは〜。私達、20年前の卒業生なんです。」

Mは、こんな時、素晴らしい接待力で人に接する。

つられて私も「どうも、お疲れ様です。」と、営業口調になる。

警戒心をあまり持たれないMは、何故 私達が此処に居るかを説明する。



「今 内部の人に挨拶したから、平気だよ。さあ、体育館の中に

入ってみようよ。」とMが言う。私が電話をしまおうとする間に

Mは、靴を脱いで廊下を歩いている。

私も釣られて着いていく。周りをキョロキョロ。生徒が居ない。

そうだ、今は授業中なのだ。

「わ〜!体育館の匂いがする!」Mがそう言うものだから

私も、あのマットの匂いを思い出した。見上げる程大きな天井。


右側に「校歌」の歌詞を書いた、

大きな板を発見(なんて言うのか分からん)


それを見ていたら、私も懐かしくなってきた。

「デジカメ用意しておけば良かった!」と、マジメに後悔した。


「あっちに行ってみよう!」

Mは走り出す。

私もMの向かう先に走り出す。


すると、生徒達と遭遇する。

Mは相変わらずの堂々とした態度で

「こんにちは。今、休み時間なの?」と声をかけている。


そうだ。生徒達から見たら、私達は先生でもないし

小学校に通う子供の母にも思われない。

教育実習の先生にも見えない。

宇宙人にも見られないからいいけど、

怪しい大人に見えるだろう。


だから、あまり長居しないで、もう帰ろう。

「図書室や、調理室、音楽室も見たい!」

うん。その気持ちは良く分かる。でもね、M。

私らはいくら卒業生でも、


勝手に小学校に入っているではないか!

お店とは違うではないか。

此処は私達の居れる場所ではない。


不正侵入で、職務質問をされたら、どうするのだ〜!

しかし。Mは物怖じしない女なのだ。

てぃ〜ちゃ〜に遭遇。「こんにちは〜^^」と笑顔。


私も釣られて「お疲れ様で〜す(ちぇい〜す)」と言う。

どうやら私達は、

「職員室か、事務所に来た来客さん」に思われているようだ。


やはり、正々堂々が強みなのだろうか。

すぐ帰る!などと心で呟きながらも

壁にポスターを貼っている女の先生も

笑顔で挨拶をしてくれた。

私も普通に廊下を歩けている。

壁に貼っている絵などを、平常心で見れるようになってきた。

壁を見ていて思ったのだが、

最近の「委員会」とは、顔写真入りらしく

どんな学校にしたいか?の抱負まで書いてある。



暫く歩くと、Mとビックリした事がある。

それは「昭和59年 小学校4年生」と書いてある、歯型。

これは大きな戸棚みたいな所にあり、

ガラスに鍵がかかっていない。

そ〜っと手に取ると、「E・K」と言うイニシャルが書いてある。

Mが言う。「これって、私らの同級生の誰かじゃない?」

「同級生の物かなあ?」私は首をかしげる。

M「同級生だよ!だって、うちら昭和49年生まれでしょ。

  昭和59年の時は、小学校4年生じゃない?」

み「あ〜!そうだ。その頃、私 

  ザ・ベスト10を必死になって見ていた」



M&み「誰だろう?E・Kって。」


この永久歯と乳歯のリミックス歯型は、

男女区別も出来ないようなアゴの小ささである。


M「もしかして、自分の歯型、あったりして。」

み「記憶にないよ〜。そんな型、取った覚えないもん。」


M「20年前でしょう。忘れているだけじゃない?」

しかし。こうやってまだ健在に ここに残っているのが

素晴らしい。良くぞ処分されなかったねえ。


記念にこれも画像に残す?そんな相談をする。

でも不気味なので止める。

とりあえず、気の済んだ私達は

昇降口に戻る。

そしていつものヒールを履いて、外に出ると

子供が沢山居る。ボール投げをしようとしている。

うわ〜。もう帰宅時間?

少し歩いて行くとランドセルを背負わせている先生を発見。


またもやMは「挨拶攻撃」!



「あら、まあ。卒業生でしたか。

学校の中、どうぞ見て行って下さい。」

低学年を担当しているらしい女の先生が

そう言ってくれた。


おお!これは完全な許可だ!

「ただ、この様な時代ですから、来客の玄関から入ってもらって

名前などを記入してくださいね。」そして

「来客バッチがあるので、それを付けてもらえると

子供達も、私達も安心なので、お願いします。」と言われた。



なんて素晴らしい母校なのじゃ〜!

これで、Mと私は正々堂々と図書室に

入る事が出来る。

ワクワク〜〜〜!!!